ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
上 下
161 / 213

御呪

しおりを挟む
「ロードを待ってるの」「許可・・・まだ」
「まだ食べちゃだめ」「みんなでちゃんとがまんなんだよ」

 四姉妹それぞれが一斉にユウトへ言葉を投げかける。

「そ、そうなのか」

 子どもらしくない統率のある反応にユウトはたじろいでしまった。

「あの、驚かせてしまってごめんなさいユウトさん。ロードがいる時だけ、この子達ロードを待つの。そう教えたわけじゃないんだけど」

 リナがユウトへすかさず説明する。へえ、とユウトが答えるころにロードを乗せたヴァルが敷いた布の縁にやってきていた。

「ユウト、我の代わり、合図をだしてやってくれ」

 ロードはユウトに向けて話しかける。次に並んだ四姉妹の方を向いて指示した。

「お前たちは今後、このユウトの指示に従え」
「「「「ハイッ!」」」」

 四姉妹は声を揃えて即座に返事をする。そしてユウトの方へともう一度注視した。

 ユウトは思いもしなかったロードの頼みを持て余す。四姉妹はただじっとユウトの言葉を待っていた。

「うん、そうだな・・・なら今日から食事を始めるときにはいただきます、食事が終わったらごちそうさまと口にだして挨拶をしてくれ。誰かを待たなくてもいいし、合わせなくてもいい。その代わり、小さい声でもいいからやってくれ」

 ユウトの言葉を聞いて四姉妹はぽかんとしている。薄い反応にユウトは内心焦りだした。

「・・・どうして、いただきますと、ごちそうさま、なの?」

 四姉妹の一人がぽつりとユウトへ訪ねる。

「あーえっとな、オレの育った故郷ではそんな風習をやってたんだ。だからその意味となるとちゃんとは知らないんだよなぁ・・・」

 ユウトは自身の言ったことの根拠をあやふやにしか理解していないことに気づき言葉が弱弱しくなっていった。

「ふうしゅう?」

 別の姉妹がつぶやく。その言葉に答えたのはリナだった。

「おまじない、かな」

 四姉妹は皆、リナの方を向いてへぇと感嘆の声を上げる。リナの補足からユウトは説明を思いついた。

「理由や意味はともかく、そのおまじないをすると食事が楽しくなった思い出があるんだよ。ここは軍隊でもないし合図、とか指示じゃなくていいと思うんだ」

 それを聞いた四姉妹は一斉に「ふーん」と反応を返す。そしてそれぞれ顔を見合わせ、声を合わせて「いただきます」と言った。

 声色、発声に個性を見せながら、いただきますの言葉を皮きりにもりもりと食事をとり始める。ユウトはふぅと一人胸を撫でおろした。

 それからつぶやくように、懐かしむように「いただきます」と言ってからユウトはカレーを食べ始めた。

 食事は進む。四姉妹は何度かカレーのおかわりの後、最後はそろって「ごちそうさま!」と元気よく声を揃えて食事を終えていた。

 カレーはユウトにとって完璧な再現とはいかないまでも忘れさろうとしていた思い出を思い起こさせるには十分な味わいで食事を楽しんむ。先に食事を終えた四姉妹がユウトを意識してそわそわするのでユウトに気を使ったのかセブルが四姉妹の遊び相手をしてあげていた。

 日も傾き始めたころに仕事を終えたラトムがユウトを見つけてやってくると四姉妹の遊び相手に加わりにぎやかなはしゃぎ声が響き渡る。その間にユウトは食事を終えてリナに食器を返しに近寄った。

 リナは食事をとりながら元気いっぱいにはしゃぎまわる四姉妹を穏やかに眺めている。

「ありがとう。とてもおいしくて昔を思い出したよ」
「口に合ったのならよかった。もし機会があればみんなにもふるまってみたいわ」

 ユウトの差し出した食器を受け取りながら笑顔でそう言うリナの表情に、ユウトはどこかさみしさが滲んでいるような気がした。

「大丈夫だよ、きっと。オレでもなんとかなったんだ。あの子たちもリナも受け入れてもらえるはずだ」

 そう言いながらユウトは四姉妹たちの方を見る。

「うん、そうね」

 リナももう一度、四姉妹たちを見て、カレーの最後の一すくいを口に運んで飲み込んで「ごちそうさま」とつぶやいた。

 影が伸び、濃紺の空で茜色の雲が輝く。そんな全体の様子をロードは輪から離れたヴァルの上で静かに眺めていた。



 鉄の荷台の上で四姉妹は並んですやすやと寝息を立てている。あたりはすでに暗く、遠く大釜の稜線に矢倉の魔術灯の明かりが輝いていた。

 食事の片付けを手伝い終えたユウトはそろそろ戻るとリナに伝える。

「あの子たちに付き合ってくれてありがとう。あなたに比べれは私にできることは微々たるものだけれど明後日の決戦は共に死力を尽くしましょう」
「うん、もちろんだ。それじゃあ、また」

 そう言ってユウトは手を掲げリナと別れ、離れたところでたたずむロードの元へと歩みを進めた。

 ユウトの肩の上では四姉妹の遊び相手をしていたセブルとラトムがへとへとになってうなだれている。ロードは頭にまとった布をほどき、空を見上げていた。

「ロード。そろそろ野営基地にもどるよ」
「ああ」

 ユウトはその場から動かずさらに言葉続ける。

「一つ、聞いてもいいか?」

 ユウトの問いかけを許可するようにロードはユウトを見る。

「どうしてこの身体にはロードへの服従を強制させる機能を持たせなかったんだ?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...