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ユウトはヨーレンに加えてセブルとラトムとともに魔女の森を奥に向かって歩みを進めている。ヨーレンの案内でしばらく前に通った道だったが前日の雨の影響か湿り気で緑が濃く見えた。
「腕の様子はどうだい?痛みや不快感はどんな感じだろうか?」
並んで歩くヨーレンがユウトに尋ねる。ユウトの左腕は添え木と共に包帯で固定されユウトの首から吊るされていた。
「うん。大丈夫そうだよ。感覚も問題ないし指も問題なく動かせてる。魔膜も前より調整がしやすくなったような気さえするほどだよ。
まぁ・・・昨日の夜は斬られた断面がかゆかったけれど今はなくなってるし」
ユウトは包帯が巻かれた指を小さく動かして見せる。
「強がらないでください!昨日の夜はすごく悶絶してたじゃないですか、もう!」
セブルがユウトの肩から口を挟んだ。
「まぁ、ほら。修復でかゆみが出るかもってヨーレン言ってたし。な、セブル心配ないから」
ユウトは困った笑顔を作りながらセブルに言い訳をする。ラトムの飾り羽を自身に使用せずにガラルドを助けた件については就寝前にユウトからセブルに対してその考えを説明して一定の理解を得たがセブルは朝からどこか怒りっぽく、感情が毛に現れるように固さがあるようにユウトは感じていた。
「かゆみは順調に治癒されている証拠だから喜ばしいくらいだよ。ぶっつけだったからね。おかげで研究していた治癒魔術具に大きな進歩を得られた。
これもセブルがノノを連れてきてくれたおかげだよ」
「オレからも改めて礼を言うよ。セブル。
セブルが動いてくれたからオレは左腕を失わずに済んだ。本当にありがとな」
ユウトはそう言いながらマントのフードに取り付いたセブルをもふもふする。ユウトに触られてセブルの強張っていた毛は柔らかく変化してふわふわとなびいた。
ユウトの肩にとまっていたラトムが音もなく息を漏らしたが誰も気づくことはなった。
そうして会話をしている内に森を抜け、ジヴァの屋敷の庭に出る。以前と大して変わりはなかったがユウトには草花の緑が濃くなっているような気がした。しかしそれ以上の変化があることに気づく。静かで鳥のさえずりしか聞こえなかった庭に子供のはしゃぎ声が響いていた。
どこかユウトは緊張を覚えながら庭に入り屋敷へと続く丘を登っていく。その中腹でガサガサと植えられた草花からフードを深くかぶった四人組が飛び出してきた。ユウトはその気配を早々と察知して大して驚くことはなかったが、その四人組は予期せぬ出会いにそれぞれ皆、目を丸くしてユウトを見て硬直させている。一拍おいてはっとすると慌てた様子でユウトと逆方向に逃げるように四人とも去っていった。
ユウトは隠れた四人が物陰から見つめる視線を感じていたがあえて無視して屋敷の入口を目指す。人形たちがところどころ荒らされたのだろう庭の手入れで忙しそうに働いていた。
入口に辿り着くと初めてジヴァに会った時に通された入口の戸がひとりでに開く。そこでユウトとヨーレンは靴を履き替え中に入った。
中では前日と変わらない配置で椅子が並べられジヴァとロードが着席している。ロードはそこから動くことがなかったかのように前日から同じ態勢をしているようにユウトには見えた。
ユウトとヨーレンも席に着きユウトはフードを下ろす。するとジヴァが声を発した。
「ガラルドは今、どうしているかい?」
その表情はどこか楽しそうにユウトからは見える。
「工房長が身柄をあずかっています。私が朝も診察し容体を確認しました。体調に問題はありませんが意識がまだ戻っていません。昏睡状態です」
「ふーん、そうかい」
ジヴァはそっけない返事を返す。ガラルドの状態についてユウトは初めて聞いた。傷の状態はラトムの飾り羽で対処したはずだったが意識が戻らないという情報から素直にガラルドを心配している自身にユウトは気づく。殺し合いを繰り広げた相手とはいえ、まだユウトはガラルドに対する自身の立場をはっきりさせることができていなかった。
「無茶なやり方だったけど、これで腹をくくる覚悟ができた。オレはロードの申し出を受けてハイゴブリンを救えるように力を尽くすよ」
ユウトは椅子に力なく身体をあずけているロードに対して強く目線を据え、力ずよく語る。ロードは虚ろな瞳でユウトの言葉を聞くとゆっくり瞳を閉じてうなずいた。
「感謝する」
短くロードは答え、まぶたを開く。ユウトにはその瞳に先ほどまでは希薄だった生気が宿っているような気がした。
「それで・・・」
沈黙が漂った間を割ってヨーレンが声を上げる。
「ユウトに何をさせたいのかわからないんだけど、具体的な危機とはどういった事なんだい?」
ユウトもヨーレンに続くように質問を重ねた。
「たしか魔物を一か所に集めている、と昨日の話しでは言っていたよな。その通りだとして魔物を集めている場所とその数、集め終わるまでの時間はどのくらいある?」
ロードは真剣な眼差しを向けるユウトとヨーレンに向けて強い視線で返す。
「全て答える」
その言葉には妙なすごみをユウトには感じ取れ、部屋の中の緊張感が一気に増した。
「腕の様子はどうだい?痛みや不快感はどんな感じだろうか?」
並んで歩くヨーレンがユウトに尋ねる。ユウトの左腕は添え木と共に包帯で固定されユウトの首から吊るされていた。
「うん。大丈夫そうだよ。感覚も問題ないし指も問題なく動かせてる。魔膜も前より調整がしやすくなったような気さえするほどだよ。
まぁ・・・昨日の夜は斬られた断面がかゆかったけれど今はなくなってるし」
ユウトは包帯が巻かれた指を小さく動かして見せる。
「強がらないでください!昨日の夜はすごく悶絶してたじゃないですか、もう!」
セブルがユウトの肩から口を挟んだ。
「まぁ、ほら。修復でかゆみが出るかもってヨーレン言ってたし。な、セブル心配ないから」
ユウトは困った笑顔を作りながらセブルに言い訳をする。ラトムの飾り羽を自身に使用せずにガラルドを助けた件については就寝前にユウトからセブルに対してその考えを説明して一定の理解を得たがセブルは朝からどこか怒りっぽく、感情が毛に現れるように固さがあるようにユウトは感じていた。
「かゆみは順調に治癒されている証拠だから喜ばしいくらいだよ。ぶっつけだったからね。おかげで研究していた治癒魔術具に大きな進歩を得られた。
これもセブルがノノを連れてきてくれたおかげだよ」
「オレからも改めて礼を言うよ。セブル。
セブルが動いてくれたからオレは左腕を失わずに済んだ。本当にありがとな」
ユウトはそう言いながらマントのフードに取り付いたセブルをもふもふする。ユウトに触られてセブルの強張っていた毛は柔らかく変化してふわふわとなびいた。
ユウトの肩にとまっていたラトムが音もなく息を漏らしたが誰も気づくことはなった。
そうして会話をしている内に森を抜け、ジヴァの屋敷の庭に出る。以前と大して変わりはなかったがユウトには草花の緑が濃くなっているような気がした。しかしそれ以上の変化があることに気づく。静かで鳥のさえずりしか聞こえなかった庭に子供のはしゃぎ声が響いていた。
どこかユウトは緊張を覚えながら庭に入り屋敷へと続く丘を登っていく。その中腹でガサガサと植えられた草花からフードを深くかぶった四人組が飛び出してきた。ユウトはその気配を早々と察知して大して驚くことはなかったが、その四人組は予期せぬ出会いにそれぞれ皆、目を丸くしてユウトを見て硬直させている。一拍おいてはっとすると慌てた様子でユウトと逆方向に逃げるように四人とも去っていった。
ユウトは隠れた四人が物陰から見つめる視線を感じていたがあえて無視して屋敷の入口を目指す。人形たちがところどころ荒らされたのだろう庭の手入れで忙しそうに働いていた。
入口に辿り着くと初めてジヴァに会った時に通された入口の戸がひとりでに開く。そこでユウトとヨーレンは靴を履き替え中に入った。
中では前日と変わらない配置で椅子が並べられジヴァとロードが着席している。ロードはそこから動くことがなかったかのように前日から同じ態勢をしているようにユウトには見えた。
ユウトとヨーレンも席に着きユウトはフードを下ろす。するとジヴァが声を発した。
「ガラルドは今、どうしているかい?」
その表情はどこか楽しそうにユウトからは見える。
「工房長が身柄をあずかっています。私が朝も診察し容体を確認しました。体調に問題はありませんが意識がまだ戻っていません。昏睡状態です」
「ふーん、そうかい」
ジヴァはそっけない返事を返す。ガラルドの状態についてユウトは初めて聞いた。傷の状態はラトムの飾り羽で対処したはずだったが意識が戻らないという情報から素直にガラルドを心配している自身にユウトは気づく。殺し合いを繰り広げた相手とはいえ、まだユウトはガラルドに対する自身の立場をはっきりさせることができていなかった。
「無茶なやり方だったけど、これで腹をくくる覚悟ができた。オレはロードの申し出を受けてハイゴブリンを救えるように力を尽くすよ」
ユウトは椅子に力なく身体をあずけているロードに対して強く目線を据え、力ずよく語る。ロードは虚ろな瞳でユウトの言葉を聞くとゆっくり瞳を閉じてうなずいた。
「感謝する」
短くロードは答え、まぶたを開く。ユウトにはその瞳に先ほどまでは希薄だった生気が宿っているような気がした。
「それで・・・」
沈黙が漂った間を割ってヨーレンが声を上げる。
「ユウトに何をさせたいのかわからないんだけど、具体的な危機とはどういった事なんだい?」
ユウトもヨーレンに続くように質問を重ねた。
「たしか魔物を一か所に集めている、と昨日の話しでは言っていたよな。その通りだとして魔物を集めている場所とその数、集め終わるまでの時間はどのくらいある?」
ロードは真剣な眼差しを向けるユウトとヨーレンに向けて強い視線で返す。
「全て答える」
その言葉には妙なすごみをユウトには感じ取れ、部屋の中の緊張感が一気に増した。
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