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披露
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魔槍の披露を終えたレナは広場から離れる。その様子は特に息を切らすこともなく余裕があった。製作者達のもとへたどり着くと数人に囲まれ魔槍を間近で見せたり質問に答えたりしている。遠目にユウトはその様子を見ていると待機場所から次の番の人物が呼ばれ広場に向かった。
ユウトは広場に向かう緊張をした人に視線がつられて黒い巨石が視界に入る。巨石のそばには人が寄って手をかざしていた。するとたちまちレナによってつけられた傷あとが消え滑らかになる。その様子をぐっと集中して見つめたユウトにはかすかな魔力の流れが見てとれた。
それから数人が巨石を相手に魔術武器のお披露目を行う。その誰もがレナほど巨石に傷を刻むことはできなかった。
そしてついにユウトの名が呼ばれる。ユウトは胸の中心を内側から握られるような緊張を感じて深呼吸を一つ行い気持ちを切り替え広場に向かって歩きだした。
風は強さを増し雲行きは黒く変化している。ユウトの肌にも湿った風がまとわりつく感覚があった。
広場の中心を目指して歩きながらユウトはここ数日のことを思い出す。マレイの指示でいくつもの魔術武器開発を行っている組の手伝いを行っていた時、モリードとデイタスに出会った。二人しかいない大剣開発組。モリードとデイタスの開発にかける情熱は心を動かされるものを感じたが二人はユウトから見てもとても不器用に見える。扱いやすさや量産性を考えず能力の向上にだけ集中してしまうモリード。大剣の扱いに長けながら魔術武器の制御に難があり力を十分に引き出せないデイタス。
お披露目を控えユウトはゴブリンの身体の持つ魔力量からいくつもの組に声を掛けられていたが大剣開発組に協力することを決める。それは二人の作っている大剣に言い表せない胸のわくわくを感じ取ったからだった。
ユウトは今感じる緊張をあの時のわくわくにすり替えて気持ちを高ぶらせる。広場の中央にたどり着き大剣を包む布と紐をほどき始めた。モリードはその間、説明を行っていたが緊張からか言葉はしどろもどろでデイタスの豪快なツッコミで集まった人々に小さな笑いを起こしている。ユウトは剣を立てて持ち、紐の結びを解くと流れ落ちるように紐だけが落ち大剣を隠したままの布が風になびいた。
「それでは、こっこちらが私たちの開発中の魔術式両手大剣です」
モリードの言葉に合わせてユウトは覆われた布を落とす。青い半透明の刀身があらわになり会場は一瞬どよめきが起こった。
そしてユウトは長い柄の端と根元でしっかりと大剣を握り黒い巨石に向かって構える。根元を持つ右手は頬の高さまで掲げ左手は胸の前方あたりで止め大剣の剣先は空を指し、足は肩幅に広げ腰を落とした。ユウトは自身の体重、大剣の重量、魔力も合わせた重心を意識する。デイタスの指摘、助言を思いだしながら身体に覚え込ませた構えを自然にとった。
次に両手から伝わる魔力の流れを意識する。徹底して刻まれた大剣の文様に魔力を通し、魔術式を起動していく。それに呼応して大剣はうっすらと柄から光を放ちだした。厚い雲が覆いだした日差しのすくない薄暗い中ではその様子が見ている人により強調されて伝わる。薄い光は刀身に伝わると刀身に蓄積された魔力が動き出し半透明の刀身が強く輝きだす。ユウトは刀身の内側に刻まれたルートを高速で流れる魔力を制御して想定されるギリギリまえその速度を上げていった。
「来た」
ユウトは小さくつぶやくと刀身の光は消える。その代わりに外縁の刃が光を放ちその輪郭をほんの少し膨張させた。
それと同時にユウトは剣を振るう。何も考えない。何度も繰り返して体が覚えた動作を再現させるだけだった。
ユウトと巨石の間は大剣の二倍以上。普通に振って届く距離ではなかったがユウトは振り切る。大剣の輝きは振る一瞬強く瞬き消えた。
強い一瞬の光の瞬きに注視していた人々は顔をしかめてのけぞる。そして巨石に目を戻すとそれまで真っ黒だった巨石の色は反転し真っ白に変わっていた。
何が起こったのかわからない人々はいぶかしげにその白くなった巨石を見る。すると巨石は白い粉を吹き、斜めその身が雪崩て広がった。
誰も何も言葉を発することなく吹き抜ける風が白く崩れた巨石から白い煙を吹き流す。ユウトは止めていた呼吸を再開させてまずは大きく息を吐いた。
ユウトは構えを解きながらひとまず安どする。予定した内容を予定通りに行うことができた。細かい調整は到底間に合わないということでモリード、デイタスと話し合い最大出力の一撃のインパクトでこの場を乗り切る作戦だったが上手くできたと評価する。
「振動が減ってたな。直前までモリードが調整してくれたおかげか」
ユウトはそう言いながら大剣に歪みや亀裂などがないかまじまじと見て確かめる。外側から見て違和感がないと思った時、ユウトの頬に水が当たった感触があった。
「あ、振り出しましたね」
セブルがユウトの肩から空を見上げてつぶやく。
「強く降りそうっス」
「急いで撤収するか」
ユウトは飛んだ布と紐を回収して手早く大剣を雨に打たれないようにくるむとマントとフードをしっかりかぶってモリードの元へ駆け出した。
ユウトは広場に向かう緊張をした人に視線がつられて黒い巨石が視界に入る。巨石のそばには人が寄って手をかざしていた。するとたちまちレナによってつけられた傷あとが消え滑らかになる。その様子をぐっと集中して見つめたユウトにはかすかな魔力の流れが見てとれた。
それから数人が巨石を相手に魔術武器のお披露目を行う。その誰もがレナほど巨石に傷を刻むことはできなかった。
そしてついにユウトの名が呼ばれる。ユウトは胸の中心を内側から握られるような緊張を感じて深呼吸を一つ行い気持ちを切り替え広場に向かって歩きだした。
風は強さを増し雲行きは黒く変化している。ユウトの肌にも湿った風がまとわりつく感覚があった。
広場の中心を目指して歩きながらユウトはここ数日のことを思い出す。マレイの指示でいくつもの魔術武器開発を行っている組の手伝いを行っていた時、モリードとデイタスに出会った。二人しかいない大剣開発組。モリードとデイタスの開発にかける情熱は心を動かされるものを感じたが二人はユウトから見てもとても不器用に見える。扱いやすさや量産性を考えず能力の向上にだけ集中してしまうモリード。大剣の扱いに長けながら魔術武器の制御に難があり力を十分に引き出せないデイタス。
お披露目を控えユウトはゴブリンの身体の持つ魔力量からいくつもの組に声を掛けられていたが大剣開発組に協力することを決める。それは二人の作っている大剣に言い表せない胸のわくわくを感じ取ったからだった。
ユウトは今感じる緊張をあの時のわくわくにすり替えて気持ちを高ぶらせる。広場の中央にたどり着き大剣を包む布と紐をほどき始めた。モリードはその間、説明を行っていたが緊張からか言葉はしどろもどろでデイタスの豪快なツッコミで集まった人々に小さな笑いを起こしている。ユウトは剣を立てて持ち、紐の結びを解くと流れ落ちるように紐だけが落ち大剣を隠したままの布が風になびいた。
「それでは、こっこちらが私たちの開発中の魔術式両手大剣です」
モリードの言葉に合わせてユウトは覆われた布を落とす。青い半透明の刀身があらわになり会場は一瞬どよめきが起こった。
そしてユウトは長い柄の端と根元でしっかりと大剣を握り黒い巨石に向かって構える。根元を持つ右手は頬の高さまで掲げ左手は胸の前方あたりで止め大剣の剣先は空を指し、足は肩幅に広げ腰を落とした。ユウトは自身の体重、大剣の重量、魔力も合わせた重心を意識する。デイタスの指摘、助言を思いだしながら身体に覚え込ませた構えを自然にとった。
次に両手から伝わる魔力の流れを意識する。徹底して刻まれた大剣の文様に魔力を通し、魔術式を起動していく。それに呼応して大剣はうっすらと柄から光を放ちだした。厚い雲が覆いだした日差しのすくない薄暗い中ではその様子が見ている人により強調されて伝わる。薄い光は刀身に伝わると刀身に蓄積された魔力が動き出し半透明の刀身が強く輝きだす。ユウトは刀身の内側に刻まれたルートを高速で流れる魔力を制御して想定されるギリギリまえその速度を上げていった。
「来た」
ユウトは小さくつぶやくと刀身の光は消える。その代わりに外縁の刃が光を放ちその輪郭をほんの少し膨張させた。
それと同時にユウトは剣を振るう。何も考えない。何度も繰り返して体が覚えた動作を再現させるだけだった。
ユウトと巨石の間は大剣の二倍以上。普通に振って届く距離ではなかったがユウトは振り切る。大剣の輝きは振る一瞬強く瞬き消えた。
強い一瞬の光の瞬きに注視していた人々は顔をしかめてのけぞる。そして巨石に目を戻すとそれまで真っ黒だった巨石の色は反転し真っ白に変わっていた。
何が起こったのかわからない人々はいぶかしげにその白くなった巨石を見る。すると巨石は白い粉を吹き、斜めその身が雪崩て広がった。
誰も何も言葉を発することなく吹き抜ける風が白く崩れた巨石から白い煙を吹き流す。ユウトは止めていた呼吸を再開させてまずは大きく息を吐いた。
ユウトは構えを解きながらひとまず安どする。予定した内容を予定通りに行うことができた。細かい調整は到底間に合わないということでモリード、デイタスと話し合い最大出力の一撃のインパクトでこの場を乗り切る作戦だったが上手くできたと評価する。
「振動が減ってたな。直前までモリードが調整してくれたおかげか」
ユウトはそう言いながら大剣に歪みや亀裂などがないかまじまじと見て確かめる。外側から見て違和感がないと思った時、ユウトの頬に水が当たった感触があった。
「あ、振り出しましたね」
セブルがユウトの肩から空を見上げてつぶやく。
「強く降りそうっス」
「急いで撤収するか」
ユウトは飛んだ布と紐を回収して手早く大剣を雨に打たれないようにくるむとマントとフードをしっかりかぶってモリードの元へ駆け出した。
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