ゴブリンロード

水鳥天

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大剣

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 ユウトは工房が建ち並ぶ街並みの中をレナと二人して歩いている。石畳の道から見上げた空は多くの千切れ雲が流れその影を落としていた。

 横に並んで歩くレナをユウトは全く無視できるわけもなく内心は緊張感を持っている。それでも全と違いどこか精神の余裕を持っていた。それは強烈なジヴァによる刺激で感覚が鈍感になってしまったのかもしれなかったし、自身の体に戻れないという覚悟を決めた決意の影響かもしれないと人通りが多くなってすれ違う人々を眺めながらユウトは一人考える。レナもユウトを特別に気にすることなく気さくにユウトへ声を掛けた。

「ねぇユウト。あんた開発工房でどんなことやってんの?」
「えっと今は両手で持つ魔剣の試用試験をやってる。光魔剣を参考に改造してあるみたいでいろいろと性能を試してみてるところかな」

 ユウトもあまり気負うことなく返答する。

「なるほどね。最近はゴブリンの対応が最優先でそういった大型武器の開発は後回しにされてたんだけどいよいよ着手しだしたんだな」
「そうなのか。レナのあの投擲する魔槍はどうなんだ?」
「魔槍の開発もつい最近のことだよ。誰がそういった武器の開発方針について考えているのかはわかんないけど、あたしが考えるにもうゴブリンの次のことを想定しているんだろうね」
「次のこと?」

 ユウトには考えもしていなかったレナの予想の意図が気になる。

「そう、ゴブリンがいなくなればその後はより戦闘力のある手ごわい魔物との戦いに移っていくんだと思う。これまで騎士は各都市の防衛が主だったけど、ある程度対処できるまでゴブリンの数が減ればもう一度、土地の掌握を行うために都市を出る。そしてその時強力な魔物達と戦うために強力な武器が必要になる。って誰かが考えているんじゃないかなぁってね」

 最初真剣に語っていたレナは最後の方で照れ隠しするように笑った。一度落ち着いて話しを続ける。

「大工房だって慈善活動で物を作っているんじゃない。もともとは研究好きなはみ出し者の集まりだったけど、やっぱり生きていくためには世の中の需要に寄り添うことだって必要なんだよね」

 レナはユウトにではなく自身に言い聞かせるように語っているようにユウトには感じられた。

「いつかまたみんなが自由に外へ出て探検だったり冒険できるようになればいいな」

 何か言ってあげたいとユウトはレナの言葉で感じたことをそのまま言葉にする。それを聞いたレナは隣を歩くユウトに視線を落とした。視線を向けられたことをフードの上から感じてユウトは自然とレナを見上げて目が合う。するとレナはにっと笑顔になって笑い出してユウトの肩に手をまわしてばんばんと叩いた。

「はははっ!良いこというじゃない、ユウト。姉さんもそんなこと言ってたよ。懐かしいよ」

 ユウトは自身の言ったことを想い出して恥ずかしくなり正面に向き直った。

 そうして会話をしている内にユウトは目的の建物に到着する。ヨーレンの屋敷と比べて装飾は簡素だが大きい。レナとはそこで別れ、ユウトは慣れた様子で戸に備え付けられた金具を鳴らした。

 重たい金属をんが響くとガシャンと何かがぶつかる音が聞こえる。ユウトは気に留めることなくしばらく戸の前に往来する道の人々を眺めて暇をつぶしていた。すると近づく足音が扉の向こうから聞こえ出す。間もなく扉は開かれ、男が顔を覗かせた。

「やぁユウト、おはよう。今日も早いね」

 眠そうに眉間にしわを寄せてユウトへ挨拶をする。その男はユウトと変わらない身長だったが体の幅は広くがっしりとした体形に剛毛の髪、眉、髭を伸ばした顔は歳を感じさせた。

「もう朝はとっくに過ぎているよモリード。ドワーフはみんな夜更かしする習慣でもあるのか?」

 毎朝眠そうに朝食を取るノノを想い出し、ユウトは苦笑いをしながら扉を潜り抜ける。その先には吹き抜けの天井と作業台がいくつも並び、雑多に工具やら何かよくわからないモノが置かれていた。ただそれらは積まれたり放置されているわけではなく狭い範囲で見ればどれもきっちりと整備され整理されている。倒れた椅子だけが例外的に浮いて見えるほどだった。

「今日のモリードは椅子で寝てたみたいですね」

 セブルがぼそりとあきれたようにつぶやく。ユウトは中央の最も大きな作業台の上に置かれた大剣を眺めた。

 全長はユウトの身長より圧倒的に長く、刀身は真っすぐに伸びる。握りは長く鍔も左右対称に備わっっていた。刀身の根元部分にまで柄が伸びているように覆われ、結晶のような半透明の青い刀身とそれを縁取るように深い紫色した刃が異彩を放っている。光の反射の加減によってところどころに細かな模様が浮かび上がって煌めいた。

「また模様が変わってるな。ギリギリまで調整してたんだな」

 ユウトはつぶやく。それが聞こえたのかモリードは答えた。

「その通り。今日は大事なお披露目だからね。ユウト用に調整してある。十分に性能を引き出してやってくれよ」

 モリードはそう言った後、手に持つ湯気の立つカップに口をつけた。
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