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不可逆
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これまで誰にも自身から語ってこなかった事実を打ち明けるという行為はユウトの脳裏に刺さる小さなとげを取り除いたような安心感をユウトに感じさせる。ジヴァが言い当てた時とは違う感覚がユウトにあった。
ユウトが言い終わってしばらくセブルもラトムも黙っていたが、まずラトムが話し始める。
「オイラには別の世界っていうのがどういうことかわかんないっス。でもでも、ユウトさんが本当のことを言ってるのはわかるっス。オイラ、身体の自由がきかなくてぼうっとしてた記憶しかないっスけど、そんなオイラを助けてくれたユウトさんのお役に立ちたい気持ちは変わんないっス!」
ラトムはユウトの肩から飛び立ちゆっくりと羽ばたきながらユウトの歩く速度に合わせて進み、ユウトと向かい合って語った。
ラトムが話している間も黙ったままだったセブルも話し始める。
「魔力のない世界っていうのがボクにとってどういうことなのかよくわかりませんが、ユウトさんが全く考え方の異なる場所から来たということだと思います。ちょっと考えもしなかった答えでどう解釈していいのかわかりません。でもボクもラトムと同じ考えです。ユウトさんにいらないと言われるまでずっとついていきます」
ユウトにはセブルの言葉から強い意思を感じられる。そしてセブルは言葉を続けた。
「ユウトさんの事情はわかりました。それで、これからはどうするつもりですか?
現状、ゴブリンの身体では命の保証はありませんから人の身体に戻るとか、その別の世界へもどることを目指すとか考えられまけど」
セブルの質問にユウトは口に手をあて考え込む。
「オレも正直どうすればいいのかわからない。ただ確かなのはもう人の身体になることは不可能ということらしい。これはジヴァの言っていたことだ。意地悪いが嘘はつかない。
前の世界に帰れるかどうかは・・・尋ねるのを忘れていたな」
「ユウトさん、元の世界に戻りたいっスか?」
ユウトの肩に戻ったラトムが唐突に質問する。その質問にユウトは不意を突かれてユウトの思考は世界が反転したように揺さぶられた。
これまで戻るという発想を持たなかった自身にユウトは疑問を持つ。生き残ること、あふれる劣情の制御にとらわれていたのかもしれないと考えられた。しかし今改めて考え直したユウト自身、ショックを受ける。どうしても戻りたいと願うほど元の世界への未練が感じられなかったためだった。
「オレは・・・元の世界に未練がないのか?どうして今まで考えなかったんだ」
ユウトは前の世界の記憶を一つ一つ紐解きだす。苦い記憶、忘れられない後悔ばかりだったがそれでもあたたかな記憶は確かに持っていた。知らぬ間にそのあたたかさを切り捨てていた自身の無意識を自覚してはっとする。見開いた目の縁に涙がたまり鼻の奥がツンと傷んだ。
「あっ、あのあのユウトさん。どうしました?大丈夫ですか?」
ユウトの変化を素早く読み取ったセブルが心配そうに尋ねる。ユウトは上を向いて瞬きを繰り返して鼻をすすった。
「いや、大丈夫だ。心配ない。ちょっと感傷的になってしまっただけだよ」
ユウトは努めて明るく、笑顔でセブルに言葉を返す。
「ラトムも気にしないでくれ。おかげで大事なことを思い出せたから」
申し訳なさそうにユウトの肩の上でおろおろとしていたラトムにユウトは手を添えて撫でる。ラトムは黙って寄り添い動きを落ち着かせた。
「もう、元の世界へ戻るつもりはない・・・かな。とりあえずはそう覚悟を決めておこうと思う。とにかく今はこの世界でゴブリンの身体でも生きて行けるように力を着けよう。ガラルドもそう言っていたことだし」
どこか晴れやかにユウトは語る様をセブルはマントの上からじっと見つめる。
「わかりました。ボク達も役に立って見せます。どんなことでも頼んでください!何でもしますから!ね、ラトム」
「はいっス!どんな無茶でもやるっス!」
ラトムまた飛び立ち、元気よくユウトの肩の上で跳ねた。
「うん。その時はよろしく頼むよ。
さて、それじゃあ急いで戻ろうか。そろそろ朝飯だ」
ユウトは上げていた手でセブルとラトムを一撫でして歩みの速度を上げる。徐々に速度を増し続けすぐに二本の柱に戻ってきた。
柱の間を抜けて広場に入ろうとしたとき、ユウトは声を帰られる。それはガラルドに挨拶をしていた武装した集団の一人だった。
「おっと、待ってくれ。さっきガラルド隊長について出ててたや奴だよな。
出入りは規定で確認しておかないと行けないんだ。こっちに来てくれないか」
武装をした男は気兼ねなくユウトへ声を掛けてくる。ユウトは指示に従い声を掛けてきた若く見える男の元へ歩み寄った。
「えっと。名前を頼む・・・ん?」
「名前はユウトだ」
平然と名乗るユウトと対照的に男はユウトの容姿を見て身体を緊張で硬直させる。
「ユウトさん!まずいですよ。こいつユウトさんのこと絶対ゴブリンと思い込んでますよ!」
セブルは慌ててユウトに声を掛けた。しかしユウトは焦りを見せない。
「工房長マレイから招待受けている。問題があれば確認が取れるまでここで待つよ」
ユウトは毅然とした態度と落ち着いた声で身を強張らせた男に話しかける。すると男はぽつりとユウトとつぶやき何かに気づいた。
「そうか、あんたのことだったのか。通達は来ている。ユウトだったな・・・よし、記録は付けた。通ってくれ」
男はどこか小恥ずかしそうに対応する。
「ありがとう」
ユウトは笑顔で答え軽く手を上げながら柱の間を抜ける。そして軽やかに駆け出し、広い石畳の広場の真ん中を縦断していった。
ユウトが言い終わってしばらくセブルもラトムも黙っていたが、まずラトムが話し始める。
「オイラには別の世界っていうのがどういうことかわかんないっス。でもでも、ユウトさんが本当のことを言ってるのはわかるっス。オイラ、身体の自由がきかなくてぼうっとしてた記憶しかないっスけど、そんなオイラを助けてくれたユウトさんのお役に立ちたい気持ちは変わんないっス!」
ラトムはユウトの肩から飛び立ちゆっくりと羽ばたきながらユウトの歩く速度に合わせて進み、ユウトと向かい合って語った。
ラトムが話している間も黙ったままだったセブルも話し始める。
「魔力のない世界っていうのがボクにとってどういうことなのかよくわかりませんが、ユウトさんが全く考え方の異なる場所から来たということだと思います。ちょっと考えもしなかった答えでどう解釈していいのかわかりません。でもボクもラトムと同じ考えです。ユウトさんにいらないと言われるまでずっとついていきます」
ユウトにはセブルの言葉から強い意思を感じられる。そしてセブルは言葉を続けた。
「ユウトさんの事情はわかりました。それで、これからはどうするつもりですか?
現状、ゴブリンの身体では命の保証はありませんから人の身体に戻るとか、その別の世界へもどることを目指すとか考えられまけど」
セブルの質問にユウトは口に手をあて考え込む。
「オレも正直どうすればいいのかわからない。ただ確かなのはもう人の身体になることは不可能ということらしい。これはジヴァの言っていたことだ。意地悪いが嘘はつかない。
前の世界に帰れるかどうかは・・・尋ねるのを忘れていたな」
「ユウトさん、元の世界に戻りたいっスか?」
ユウトの肩に戻ったラトムが唐突に質問する。その質問にユウトは不意を突かれてユウトの思考は世界が反転したように揺さぶられた。
これまで戻るという発想を持たなかった自身にユウトは疑問を持つ。生き残ること、あふれる劣情の制御にとらわれていたのかもしれないと考えられた。しかし今改めて考え直したユウト自身、ショックを受ける。どうしても戻りたいと願うほど元の世界への未練が感じられなかったためだった。
「オレは・・・元の世界に未練がないのか?どうして今まで考えなかったんだ」
ユウトは前の世界の記憶を一つ一つ紐解きだす。苦い記憶、忘れられない後悔ばかりだったがそれでもあたたかな記憶は確かに持っていた。知らぬ間にそのあたたかさを切り捨てていた自身の無意識を自覚してはっとする。見開いた目の縁に涙がたまり鼻の奥がツンと傷んだ。
「あっ、あのあのユウトさん。どうしました?大丈夫ですか?」
ユウトの変化を素早く読み取ったセブルが心配そうに尋ねる。ユウトは上を向いて瞬きを繰り返して鼻をすすった。
「いや、大丈夫だ。心配ない。ちょっと感傷的になってしまっただけだよ」
ユウトは努めて明るく、笑顔でセブルに言葉を返す。
「ラトムも気にしないでくれ。おかげで大事なことを思い出せたから」
申し訳なさそうにユウトの肩の上でおろおろとしていたラトムにユウトは手を添えて撫でる。ラトムは黙って寄り添い動きを落ち着かせた。
「もう、元の世界へ戻るつもりはない・・・かな。とりあえずはそう覚悟を決めておこうと思う。とにかく今はこの世界でゴブリンの身体でも生きて行けるように力を着けよう。ガラルドもそう言っていたことだし」
どこか晴れやかにユウトは語る様をセブルはマントの上からじっと見つめる。
「わかりました。ボク達も役に立って見せます。どんなことでも頼んでください!何でもしますから!ね、ラトム」
「はいっス!どんな無茶でもやるっス!」
ラトムまた飛び立ち、元気よくユウトの肩の上で跳ねた。
「うん。その時はよろしく頼むよ。
さて、それじゃあ急いで戻ろうか。そろそろ朝飯だ」
ユウトは上げていた手でセブルとラトムを一撫でして歩みの速度を上げる。徐々に速度を増し続けすぐに二本の柱に戻ってきた。
柱の間を抜けて広場に入ろうとしたとき、ユウトは声を帰られる。それはガラルドに挨拶をしていた武装した集団の一人だった。
「おっと、待ってくれ。さっきガラルド隊長について出ててたや奴だよな。
出入りは規定で確認しておかないと行けないんだ。こっちに来てくれないか」
武装をした男は気兼ねなくユウトへ声を掛けてくる。ユウトは指示に従い声を掛けてきた若く見える男の元へ歩み寄った。
「えっと。名前を頼む・・・ん?」
「名前はユウトだ」
平然と名乗るユウトと対照的に男はユウトの容姿を見て身体を緊張で硬直させる。
「ユウトさん!まずいですよ。こいつユウトさんのこと絶対ゴブリンと思い込んでますよ!」
セブルは慌ててユウトに声を掛けた。しかしユウトは焦りを見せない。
「工房長マレイから招待受けている。問題があれば確認が取れるまでここで待つよ」
ユウトは毅然とした態度と落ち着いた声で身を強張らせた男に話しかける。すると男はぽつりとユウトとつぶやき何かに気づいた。
「そうか、あんたのことだったのか。通達は来ている。ユウトだったな・・・よし、記録は付けた。通ってくれ」
男はどこか小恥ずかしそうに対応する。
「ありがとう」
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