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期待
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日は沈み、美しく輝いていた魔女の森には深い闇が訪れる。昼間は鳥たちの鳴き声であふれていたが今は風に揺られた葉同士のこすれる音だけが鳴っていた。
空に輝く星々の光は草木を深い青に照らし、その明かりを頼りに一体の人型とそれを乗せた卵型が森の木々の間をかすかな音を鳴らしながら進む。重なる二体は難なく森を抜けた。そして一瞬停滞し人型は小高い丘の上に立つ家を見つめる。家には暖色の明かりが窓から漏れており、二体は臆せずその家に向かって庭の道を辿り始めた。
魔女の家の広間。その中央に設置された広い長方形の机に向かってジヴァは座っている。机の上に置かれた複製されたユウトの記憶がおさめられた球に手を乗せていた。ジヴァは半眼のまま集中した様子で微動だにしない。柔らかく弾力のある綿詰めの袋の上に乗せられた球はほんのり放つ光を揺らめかせている。
しばらく動かなかったジヴァは球の上に乗せた手を上げるとふぅっと一息ついて椅子の背もたれに身体を預ける。そしてすぐに身体を起こし机の上に置かれた紙にペンで急いで字を書き連ねた。
「内燃機関か。こんな発想があるとはな。全く面白い」
ジヴァの表情は生き生きとはしゃぐ子供のように明るい。手早く書き連ね終わるとジヴァはペンを置いてつぶやく。
「これほどとは予想外だった。やれやれ、これでは奴への貸しはとんでもないことになるじゃないか」
ジヴァは机の上を埋め尽くし床にまで広がった紙を見渡してあきれた表情を浮かべる。人形たちがせっせと落ちた紙を丁寧に回収してはまとめていた。
ぼうっと時より自身が書き連ねた紙を手に取って眺めていたジヴァの視線が突然戸口に向けられる。持っていた紙を机に戻してジヴァは立ち上がると戸口の扉の前まで進んで立ち止まった。間もなく扉が自然に開く。そしてその扉の前には小人が一人立っていた。
「そろそろ来る頃だと思っていたよ。まぁ随分と小柄になってしまったものだな。多少散らかっているが中に入るかい?」
ジヴァは気さくな様子で声を掛ける。小人は頭を包んでいた布を解いてジヴァへ返答する。
「ここでいい」
現れた頭は大きく顔はいかつい。大きな鼻と堀の深さがある顔の目は厳しく身体のひ弱さと均衡が取れていなかった。
「奴ら本気なようだね。どうするつもりだい?」
「賭けに出る」
抑揚もなく淡々と小人は語る。
「ほう。それで?私に頼みがあってきたのだろう?」
「追跡者を一斉に始末したい」
ジヴァの表情はそれまでの温和な笑顔から冷たく変化した。
「ふむ。ではお前さん、その対価に何を差し出す」
冷たい瞳でジヴァは尋ねる。声はその場の空気を張り詰めさせた。
「我の命」
小人は躊躇なく答える。
「わかった。だがお前さんの命だけでは全てを滅するほどの方法には届かんな。他に何か上乗せするなら出来なくもないぞ。例えばそうだな。ユウトの命、とかな。
そうそう、奴の翻訳能力は見事だったぞ」
「我だけで構わん。アレにはその先をやってもらう。
あともう一つ。この家を借りたい」
全く動じることもなく淡々と返事を小人は考えを返す。
「なんだと?どういうつもりだ」
「姉妹達を呼んでいる。しばらくの間でいい」
「また面倒なことを押し付けたな。私は子供が嫌いなんだよ・・・。
さてはここでユウトに交渉をするつもりか」
ジヴァは眉間に皴をよせ視線を外しあごに手をあてうつむく。
「対価は翻訳の術式だ」
悩んでいたジヴァはため息をつく。
「まったく。恨むよ」
ジヴァの口調は苦々しい。
「短い命だ。いくらでも恨んでくれ」
小人はそう言いつつ振り用は済んだとばかりに振り帰る。最後の言葉を言い終える口の端はわずかに吊り上がっていた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。今度はどこにむかっているの?」
女の子の尋ねる声が木材と皮で形作られた小屋のような空間に広がる。
「えーっとねぇ。すごく悪そうに見えて実はそんなに悪くない人のお家かな」
「ええっ!お家?誰か住んでるお家にいくの?!」
最初に尋ねたのと別の女の子が高揚した様子でさらに尋ねた。
「そっか。みんな廃屋しか見たことないもんね。そのお家の周りの庭と森はとても綺麗で素敵なんだよ。お家に住んでいる人がとても熱心に手入れをしているからね」
「楽しみ」
ぼそりとまた別の女の子とがつぶやく。
「怒らせるとすんごい嫌がらせをされるからみんな言うことをしっかり聞いてね」
「はい、ちゃんとするから安心してお姉ちゃん」
真剣な声で四人目の女の子が返事をした。
その場にいる全員がくたびれた服を身にまとい揺れる木と皮の箱形の空間に座っている。そしてその大きな箱の底には湾曲した金属が複雑に折り重なった土台へとつながり、その土台はさらに牛に似た金属の塊が引いていた。
夜風にそよぐ草原の音だけが広がる緩やかな丘陵地。低く低く浮遊している荷馬車のような物体が賑やかな声を漏らしつつゆっくり進行し続ける。その向かう先には遠く崩壊塔のシルエットが薄っすらと浮かび上がっていた。
空に輝く星々の光は草木を深い青に照らし、その明かりを頼りに一体の人型とそれを乗せた卵型が森の木々の間をかすかな音を鳴らしながら進む。重なる二体は難なく森を抜けた。そして一瞬停滞し人型は小高い丘の上に立つ家を見つめる。家には暖色の明かりが窓から漏れており、二体は臆せずその家に向かって庭の道を辿り始めた。
魔女の家の広間。その中央に設置された広い長方形の机に向かってジヴァは座っている。机の上に置かれた複製されたユウトの記憶がおさめられた球に手を乗せていた。ジヴァは半眼のまま集中した様子で微動だにしない。柔らかく弾力のある綿詰めの袋の上に乗せられた球はほんのり放つ光を揺らめかせている。
しばらく動かなかったジヴァは球の上に乗せた手を上げるとふぅっと一息ついて椅子の背もたれに身体を預ける。そしてすぐに身体を起こし机の上に置かれた紙にペンで急いで字を書き連ねた。
「内燃機関か。こんな発想があるとはな。全く面白い」
ジヴァの表情は生き生きとはしゃぐ子供のように明るい。手早く書き連ね終わるとジヴァはペンを置いてつぶやく。
「これほどとは予想外だった。やれやれ、これでは奴への貸しはとんでもないことになるじゃないか」
ジヴァは机の上を埋め尽くし床にまで広がった紙を見渡してあきれた表情を浮かべる。人形たちがせっせと落ちた紙を丁寧に回収してはまとめていた。
ぼうっと時より自身が書き連ねた紙を手に取って眺めていたジヴァの視線が突然戸口に向けられる。持っていた紙を机に戻してジヴァは立ち上がると戸口の扉の前まで進んで立ち止まった。間もなく扉が自然に開く。そしてその扉の前には小人が一人立っていた。
「そろそろ来る頃だと思っていたよ。まぁ随分と小柄になってしまったものだな。多少散らかっているが中に入るかい?」
ジヴァは気さくな様子で声を掛ける。小人は頭を包んでいた布を解いてジヴァへ返答する。
「ここでいい」
現れた頭は大きく顔はいかつい。大きな鼻と堀の深さがある顔の目は厳しく身体のひ弱さと均衡が取れていなかった。
「奴ら本気なようだね。どうするつもりだい?」
「賭けに出る」
抑揚もなく淡々と小人は語る。
「ほう。それで?私に頼みがあってきたのだろう?」
「追跡者を一斉に始末したい」
ジヴァの表情はそれまでの温和な笑顔から冷たく変化した。
「ふむ。ではお前さん、その対価に何を差し出す」
冷たい瞳でジヴァは尋ねる。声はその場の空気を張り詰めさせた。
「我の命」
小人は躊躇なく答える。
「わかった。だがお前さんの命だけでは全てを滅するほどの方法には届かんな。他に何か上乗せするなら出来なくもないぞ。例えばそうだな。ユウトの命、とかな。
そうそう、奴の翻訳能力は見事だったぞ」
「我だけで構わん。アレにはその先をやってもらう。
あともう一つ。この家を借りたい」
全く動じることもなく淡々と返事を小人は考えを返す。
「なんだと?どういうつもりだ」
「姉妹達を呼んでいる。しばらくの間でいい」
「また面倒なことを押し付けたな。私は子供が嫌いなんだよ・・・。
さてはここでユウトに交渉をするつもりか」
ジヴァは眉間に皴をよせ視線を外しあごに手をあてうつむく。
「対価は翻訳の術式だ」
悩んでいたジヴァはため息をつく。
「まったく。恨むよ」
ジヴァの口調は苦々しい。
「短い命だ。いくらでも恨んでくれ」
小人はそう言いつつ振り用は済んだとばかりに振り帰る。最後の言葉を言い終える口の端はわずかに吊り上がっていた。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。今度はどこにむかっているの?」
女の子の尋ねる声が木材と皮で形作られた小屋のような空間に広がる。
「えーっとねぇ。すごく悪そうに見えて実はそんなに悪くない人のお家かな」
「ええっ!お家?誰か住んでるお家にいくの?!」
最初に尋ねたのと別の女の子が高揚した様子でさらに尋ねた。
「そっか。みんな廃屋しか見たことないもんね。そのお家の周りの庭と森はとても綺麗で素敵なんだよ。お家に住んでいる人がとても熱心に手入れをしているからね」
「楽しみ」
ぼそりとまた別の女の子とがつぶやく。
「怒らせるとすんごい嫌がらせをされるからみんな言うことをしっかり聞いてね」
「はい、ちゃんとするから安心してお姉ちゃん」
真剣な声で四人目の女の子が返事をした。
その場にいる全員がくたびれた服を身にまとい揺れる木と皮の箱形の空間に座っている。そしてその大きな箱の底には湾曲した金属が複雑に折り重なった土台へとつながり、その土台はさらに牛に似た金属の塊が引いていた。
夜風にそよぐ草原の音だけが広がる緩やかな丘陵地。低く低く浮遊している荷馬車のような物体が賑やかな声を漏らしつつゆっくり進行し続ける。その向かう先には遠く崩壊塔のシルエットが薄っすらと浮かび上がっていた。
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