70 / 213
試練
しおりを挟む
ユウトは体へ当てられている光が身体の内側まで照らし出しているような感覚を覚える。骨から筋肉の繊維、血液、髄液、脳まで徹底的に内側を覗かれているような感覚に鳥肌が立った。
しばらくその状態が続いて調査が終わったのかジヴァの手の光は小さくなっていくとそのまま消える。伸ばした手を椅子のひじ掛けに下ろした。
「ふむ。おおむね体の検査は終わったよ。何が聞きたい?」
「質問できる数に制限はあるのか?」
「それほど意地悪ではないさ。気が済むまで聞くといい。
まぁそうだね。代わりにわしのほうからもいくつか質問をさせてもらうよ」
「わかった。かまわない」
ユウトは少し黙って言葉を選ぶ。
「この体はゴブリンで間違いないのか?だとすれば人に戻すことはできるか?」
「その体はゴブリンで間違いない。そして人の体になることもない。ドワーフがエルフになることが出来ないように、ゴブリンが人になることも出来ない」
ユウトはジヴァの言葉の重みを噛みしめる。ヨーレンが初めてユウトの体を診てくれた時と表現は変わらない。より確実性が増したことに過ぎずユウトも覚悟をしていた。
「これからこの体はどうなると考えられる?いつか自我を失い精神までもゴブリンと化してしまうだろうか」
「体に刻み込まれた精神に揺らぎは見られない。しっかりと定着しているね」
ジヴァの答えにユウトは安堵を覚える。もっとも恐れていたのは自我が消え去り怪物として周囲の人たちへ害を与えてしまうのではないかという懸念への恐怖だった。
自我の消失、変質がないという答えを聞いて緊張していた体の力が抜け背もたれに身体を預ける。身構えていた体も精神も一瞬のゆるみが生じユウトはジヴァから視線を天井にはずした。
「ただし」
その一瞬の隙をつくようにジヴァは言葉を続ける。
「お前さんのゴブリン由来の性欲が暴走して誰それ構わず婦女子を襲わないという保証はできない」
しまった、とユウトは咄嗟に思う。ユウトがこれまで抱いていた恐怖心を見透かしてジヴァは不意の一言を放った。慌ててユウトは視線をジヴァに戻す。ジヴァは音もたてずその場に立っていた。
何かまずいことが起こるとユウトの本能はけたたましく警鐘を鳴らす。
思わずその場から逃げようと立ち上がろうとしたが椅子から体が離れない。無数の極細の糸のようなものがユウトの体から椅子、床にまでピンと張り巡らされていた。
「ユウトさん!」
セブルが異変を察知して身体を動かそうとする。ラトムもセブルの動きを察して飛び上がろうとした。
しかし、セブルとラトムは不自然に宙に浮いて床へ落ちる。
固まったように動かない。二匹とも糸でがんじがらめにされているのが分かった。
「セブ、むぐっ!」
声を上げようとしたユウトの口も糸によって閉じられてしまう。二匹は先ほどの人形達数体が部屋の隅の方へと移動させた。
「傷つけようってわけじゃない。ちょっと静かにしてもらうだけさ」
ジヴァはそう言いながらユウトへ歩み寄り近づく。
「その丸薬を一つもらうよ」
腰に持っていたガラルドの丸薬の小袋からジヴァは一つ取り出しそのまま口に含んで飲み込む。かなりの近さまでジヴァとの距離が詰められたがユウトの体は反応することなくその点においてユウトは一安心した。
「さて、わしはお前さんが人ではないと断言したがその事実は見方によって意味は変わってくる。
確かに体はゴブリンだ。だがその記憶、知識、倫理観そして忍耐力が人並であればどうだろう。
人としての社会性を持ちゴブリンの体を制御できるのなら、それは人と呼んでもさしつかえないのではないだろうか。
なぁユウトよ」
ジヴァは不敵に笑い数歩あとずさりながらユウトへ正対して語りかけている。語る内容はユウトにとっては希望の持てる内容だった。ジヴァが認めれば人であると証明され、ユウトの知る限りのこの世界においては人としての生活が保証されるとジヴァの語る内容からユウトは予想する。しかし、ジヴァの放つ空気はそう易々と認めないだろうということも想像にたやすかった。
「そこで一つ試そうと思う」
ジヴァはそういい販つと肩にかけた布を落とし腰ひもを解く。両手で肩口を掴み広げると人つなぎのスカートは容易く床に落ちて同心円に広がった。さらにジヴァは止まることなく残りの身に着けていたものをすべて脱ぐ。ユウトは反応しないとは言え意味てられず目をそむけた。
「人と言い張るならばその忍耐。限界を見せてみな」
ジヴァそう言い放った瞬間、高速に流動する魔力の流れをユウトは感知する。これまで感じたことのないほどの膨大な魔力の激流が目の前で発生したことで目を背けていたユウトの視線はその発生源のジヴァを無視することができなかった。
ジヴァの体は発熱し皮膚が急に劣化を起こしたように浮き上がりぱらぱらと落ちだす。歳よりに見えるジヴァがさらに急激に歳を取って老け込みミイラになっていくようにユウトには思えた。
しかしすぐにそれは違うということがわかる。熱は強まり全身からは湯気のようなものが立ち上がり始めていた。髪も伸び始めるが新たに生まれゆく髪は艶やかに瑞々しい。今、ジヴァに起こっていることはとてつもなく早い新陳代謝だとユウトは理解した。
それを裏付けるようにそれまでには感じなかった異性と認識する無臭の匂いをユウトはかすかに感知し始めている。それがまるで爬虫類の脱皮したあとの皮を何重にも着込んだような得体のしれない目の前の正対する人型から発せられていることは明らかだった。
しばらくその状態が続いて調査が終わったのかジヴァの手の光は小さくなっていくとそのまま消える。伸ばした手を椅子のひじ掛けに下ろした。
「ふむ。おおむね体の検査は終わったよ。何が聞きたい?」
「質問できる数に制限はあるのか?」
「それほど意地悪ではないさ。気が済むまで聞くといい。
まぁそうだね。代わりにわしのほうからもいくつか質問をさせてもらうよ」
「わかった。かまわない」
ユウトは少し黙って言葉を選ぶ。
「この体はゴブリンで間違いないのか?だとすれば人に戻すことはできるか?」
「その体はゴブリンで間違いない。そして人の体になることもない。ドワーフがエルフになることが出来ないように、ゴブリンが人になることも出来ない」
ユウトはジヴァの言葉の重みを噛みしめる。ヨーレンが初めてユウトの体を診てくれた時と表現は変わらない。より確実性が増したことに過ぎずユウトも覚悟をしていた。
「これからこの体はどうなると考えられる?いつか自我を失い精神までもゴブリンと化してしまうだろうか」
「体に刻み込まれた精神に揺らぎは見られない。しっかりと定着しているね」
ジヴァの答えにユウトは安堵を覚える。もっとも恐れていたのは自我が消え去り怪物として周囲の人たちへ害を与えてしまうのではないかという懸念への恐怖だった。
自我の消失、変質がないという答えを聞いて緊張していた体の力が抜け背もたれに身体を預ける。身構えていた体も精神も一瞬のゆるみが生じユウトはジヴァから視線を天井にはずした。
「ただし」
その一瞬の隙をつくようにジヴァは言葉を続ける。
「お前さんのゴブリン由来の性欲が暴走して誰それ構わず婦女子を襲わないという保証はできない」
しまった、とユウトは咄嗟に思う。ユウトがこれまで抱いていた恐怖心を見透かしてジヴァは不意の一言を放った。慌ててユウトは視線をジヴァに戻す。ジヴァは音もたてずその場に立っていた。
何かまずいことが起こるとユウトの本能はけたたましく警鐘を鳴らす。
思わずその場から逃げようと立ち上がろうとしたが椅子から体が離れない。無数の極細の糸のようなものがユウトの体から椅子、床にまでピンと張り巡らされていた。
「ユウトさん!」
セブルが異変を察知して身体を動かそうとする。ラトムもセブルの動きを察して飛び上がろうとした。
しかし、セブルとラトムは不自然に宙に浮いて床へ落ちる。
固まったように動かない。二匹とも糸でがんじがらめにされているのが分かった。
「セブ、むぐっ!」
声を上げようとしたユウトの口も糸によって閉じられてしまう。二匹は先ほどの人形達数体が部屋の隅の方へと移動させた。
「傷つけようってわけじゃない。ちょっと静かにしてもらうだけさ」
ジヴァはそう言いながらユウトへ歩み寄り近づく。
「その丸薬を一つもらうよ」
腰に持っていたガラルドの丸薬の小袋からジヴァは一つ取り出しそのまま口に含んで飲み込む。かなりの近さまでジヴァとの距離が詰められたがユウトの体は反応することなくその点においてユウトは一安心した。
「さて、わしはお前さんが人ではないと断言したがその事実は見方によって意味は変わってくる。
確かに体はゴブリンだ。だがその記憶、知識、倫理観そして忍耐力が人並であればどうだろう。
人としての社会性を持ちゴブリンの体を制御できるのなら、それは人と呼んでもさしつかえないのではないだろうか。
なぁユウトよ」
ジヴァは不敵に笑い数歩あとずさりながらユウトへ正対して語りかけている。語る内容はユウトにとっては希望の持てる内容だった。ジヴァが認めれば人であると証明され、ユウトの知る限りのこの世界においては人としての生活が保証されるとジヴァの語る内容からユウトは予想する。しかし、ジヴァの放つ空気はそう易々と認めないだろうということも想像にたやすかった。
「そこで一つ試そうと思う」
ジヴァはそういい販つと肩にかけた布を落とし腰ひもを解く。両手で肩口を掴み広げると人つなぎのスカートは容易く床に落ちて同心円に広がった。さらにジヴァは止まることなく残りの身に着けていたものをすべて脱ぐ。ユウトは反応しないとは言え意味てられず目をそむけた。
「人と言い張るならばその忍耐。限界を見せてみな」
ジヴァそう言い放った瞬間、高速に流動する魔力の流れをユウトは感知する。これまで感じたことのないほどの膨大な魔力の激流が目の前で発生したことで目を背けていたユウトの視線はその発生源のジヴァを無視することができなかった。
ジヴァの体は発熱し皮膚が急に劣化を起こしたように浮き上がりぱらぱらと落ちだす。歳よりに見えるジヴァがさらに急激に歳を取って老け込みミイラになっていくようにユウトには思えた。
しかしすぐにそれは違うということがわかる。熱は強まり全身からは湯気のようなものが立ち上がり始めていた。髪も伸び始めるが新たに生まれゆく髪は艶やかに瑞々しい。今、ジヴァに起こっていることはとてつもなく早い新陳代謝だとユウトは理解した。
それを裏付けるようにそれまでには感じなかった異性と認識する無臭の匂いをユウトはかすかに感知し始めている。それがまるで爬虫類の脱皮したあとの皮を何重にも着込んだような得体のしれない目の前の正対する人型から発せられていることは明らかだった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
チートな幼女に転生しました。【本編完結済み】
Nau
恋愛
道路に飛び出した子供を庇って死んだ北野優子。
でもその庇った子が結構すごい女神が転生した姿だった?!
感謝を込めて別世界で転生することに!
めちゃくちゃ感謝されて…出来上がった新しい私もしかして規格外?
しかも学園に通うことになって行ってみたら、女嫌いの公爵家嫡男に気に入られて?!
どうなる?私の人生!
※R15は保険です。
※しれっと改正することがあります。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる