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老婆
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「こっちだよ。ついてきてくれ」
ヨーレンは平がる庭へ足を進める。ユウトもそれに続いた。
いくつものの種類の草花がある程度まとめられて意図的に植えられており、高さや色合いを計算し、意図して植えられていることがわかる。その様子を歩きつつも物珍しく眺めていたユウトは草花の間を忙しく動き回る何かに目が留まる。
ユウトには最初、小動物のように見えたがそれらをより注視すると二足で立ち手には道具を握って草を抜き、枝を切り、刈込を行っている。それらの大きさはけして背の高くないユウトの膝上ほどの大きさしかなく頭も大きいそのシルエットはぬいぐるみのようなかわいらしさがあった。
その生き物かどうかも怪しい人型に注視するユウトは何か糸のようなものがそれぞれの頭から伸びていることを知覚する。それはまるで魔術柵に杭と杭の間に張られた糸に似ていたがその糸の先は拡散していて辿ることができなかった。
何かに操作されているのかとユウトは考えていたその時、人型達はそれぞれの作業の手を一斉に止め、ほんの一瞬ユウトへ顔を向ける。ユウトはぎょっとして思わず立ち止まったがそれらはすぐに目線を戻しもくもくと作業を再開していた。
まるで観察するような全方向からの視線にユウトは気味の悪さを感じたがヨーレンは平然と歩みを続けている。ユウトは立ち止まっているうちに広がってしまったヨーレンとの距離を小走りで埋めた。
ユウトはヨーレンの向かう先に目を移す。小高い石垣の丘の上にある石造りの古そうな家。小さくはないが豪邸でもない質素で堅牢そうなその家は蔓が壁をつたい花を咲かせて庭に溶け込んでいた。
そして軒先の日陰に一人の人物が見える。椅子に座り立てた杖に両手を重ねている手は白い。上衣とスカートがつながった青いゆったりとした服を着込んでいる女性だとわかった。
さらに近づくとその女性は肌も髪もまるで石灰のように白く、まとめ上げられた髪が後頭部でまとめ上げられ長い耳がのぞかせていた。
長くとがった耳はネイラのものと似ていただどこか下に垂れている印象をユウトは受ける。それについてユウトはあまり不思議には思わなかった。その女性の瞳が閉じられた顔には深く皴が刻まれており背筋が伸びた長い首ではあるもののたるみが見え、高齢であることがたやすく想像できる。そのせいかはわからなかったがユウトにとって日ごろ不便な緊張感を意識することがなかった。
「予定外の訪問にて失礼したします。お機嫌はいかがですか?師匠」
ヨーレンはうやうやしく膝をまげ目を伏せ礼を頭を下げる。
「やぁヨーレン。気分はいつも通り良いよ。頼み事だろう?用件はなんだい?」
老人は閉じた瞳をそのままにヨーレンへ聞きかえす。師匠という呼ばれ方からしてこの老齢な人物が大工房にきてから皆が噂する白灰の魔女なのだろうとユウトは思ったがこの人物の何にそれほど気を揉まされているのかがまだ理解できなかった。
「はい。連れてきた人物、名をユウトと申しております。ゴブリン討伐遠征でのこと。ゴブリンの洞窟にて発見されたゴブリンの体へ帰られた人であると考えられます。師匠にはこのユウトの身体について調査をお願いしたい」
「なるほど。そのユウトが人に害なすゴブリンの密偵でないかどうか。ほかにも同種の個体がいないかどうかを聞きたいということかな。それで、我が弟子弟子ヨーレンとしてはどう考える?」
「数日間共にしてその人間性に疑いはありません。短期間ではありますが協調性、社会性にはゴブリンでは再現が難しく、魔物との戦闘における本人の働きにもゴブリン以上の目を見張るものがあり実績を持っています。私はユウトを人として社会に迎え入れるべきと考えております」
ヨーレンはどこか必死さを持って師匠へ陳情しているようにユウトには見える。ユウト自身を助けるため弁明するかのように語るヨーレンの姿からユウトはありがたさでうれしくなった。
「わかった。その願い受け入れよう」
白灰の魔女はそう言うと閉じていた瞼を上げて灰色の瞳をあらわにし、顔をユウト達の方へ向ける。そして言葉続いた。
「だがもしも、その仮説が外れていたならヨーレン、お前の命を払ってもらう」
続けて放たれた老婆の言葉にユウトは体に雷を打たれたような緊迫感が駆け巡る。それは言葉だけの意味でなく年老いた女性とは思えないほどの殺気の視線が白灰の魔女から放たれたのを感じ取ったからだった。
「待ってくれ!ヨーレンにそんな代償を払わせるわけにはいかないッ!申し出を断るッ!」
ユウトはほとんど条件反射的に身を乗り出して叫びに近い声を上げる。それはこの世界に来る前の記憶を持つことを隠してきたことへの罪悪感も突然の行動への後押ししていた。
「うおっ。びっくりした。いきなりどうしたんだい?ユウト」
ヨーレンはユウトの突然の声に驚いている。ユウトはそのヨーレンの反応に困惑した。命を掛けろという師匠からの指示を平然と受け入れられるものなのかと理解と共感がついていかずうろたえる。その様子を見ていた白灰の魔女の口の端が吊り上がるのがユウトには見えた。
そして白灰の魔女はまた話し出す。
「対価は受け取った。いい狼狽っぷりだったぞユウト。調査が楽しみだ」
瞬間ユウトは理解する。振り返ればヨーレンの命についての語りに違和感があった。それはセブルやラトムとの意思疎通をするときの聞こえ方に近くヨーレンには聞こえていない。自身は試され、精神を揺さぶられたのだとわかった。
ユウトはもてあそばれた事実にこの世界に来て初めて怒りを思い出す。これが皆の顔を曇らせる白灰の魔女なのだと納得した。
ヨーレンは平がる庭へ足を進める。ユウトもそれに続いた。
いくつものの種類の草花がある程度まとめられて意図的に植えられており、高さや色合いを計算し、意図して植えられていることがわかる。その様子を歩きつつも物珍しく眺めていたユウトは草花の間を忙しく動き回る何かに目が留まる。
ユウトには最初、小動物のように見えたがそれらをより注視すると二足で立ち手には道具を握って草を抜き、枝を切り、刈込を行っている。それらの大きさはけして背の高くないユウトの膝上ほどの大きさしかなく頭も大きいそのシルエットはぬいぐるみのようなかわいらしさがあった。
その生き物かどうかも怪しい人型に注視するユウトは何か糸のようなものがそれぞれの頭から伸びていることを知覚する。それはまるで魔術柵に杭と杭の間に張られた糸に似ていたがその糸の先は拡散していて辿ることができなかった。
何かに操作されているのかとユウトは考えていたその時、人型達はそれぞれの作業の手を一斉に止め、ほんの一瞬ユウトへ顔を向ける。ユウトはぎょっとして思わず立ち止まったがそれらはすぐに目線を戻しもくもくと作業を再開していた。
まるで観察するような全方向からの視線にユウトは気味の悪さを感じたがヨーレンは平然と歩みを続けている。ユウトは立ち止まっているうちに広がってしまったヨーレンとの距離を小走りで埋めた。
ユウトはヨーレンの向かう先に目を移す。小高い石垣の丘の上にある石造りの古そうな家。小さくはないが豪邸でもない質素で堅牢そうなその家は蔓が壁をつたい花を咲かせて庭に溶け込んでいた。
そして軒先の日陰に一人の人物が見える。椅子に座り立てた杖に両手を重ねている手は白い。上衣とスカートがつながった青いゆったりとした服を着込んでいる女性だとわかった。
さらに近づくとその女性は肌も髪もまるで石灰のように白く、まとめ上げられた髪が後頭部でまとめ上げられ長い耳がのぞかせていた。
長くとがった耳はネイラのものと似ていただどこか下に垂れている印象をユウトは受ける。それについてユウトはあまり不思議には思わなかった。その女性の瞳が閉じられた顔には深く皴が刻まれており背筋が伸びた長い首ではあるもののたるみが見え、高齢であることがたやすく想像できる。そのせいかはわからなかったがユウトにとって日ごろ不便な緊張感を意識することがなかった。
「予定外の訪問にて失礼したします。お機嫌はいかがですか?師匠」
ヨーレンはうやうやしく膝をまげ目を伏せ礼を頭を下げる。
「やぁヨーレン。気分はいつも通り良いよ。頼み事だろう?用件はなんだい?」
老人は閉じた瞳をそのままにヨーレンへ聞きかえす。師匠という呼ばれ方からしてこの老齢な人物が大工房にきてから皆が噂する白灰の魔女なのだろうとユウトは思ったがこの人物の何にそれほど気を揉まされているのかがまだ理解できなかった。
「はい。連れてきた人物、名をユウトと申しております。ゴブリン討伐遠征でのこと。ゴブリンの洞窟にて発見されたゴブリンの体へ帰られた人であると考えられます。師匠にはこのユウトの身体について調査をお願いしたい」
「なるほど。そのユウトが人に害なすゴブリンの密偵でないかどうか。ほかにも同種の個体がいないかどうかを聞きたいということかな。それで、我が弟子弟子ヨーレンとしてはどう考える?」
「数日間共にしてその人間性に疑いはありません。短期間ではありますが協調性、社会性にはゴブリンでは再現が難しく、魔物との戦闘における本人の働きにもゴブリン以上の目を見張るものがあり実績を持っています。私はユウトを人として社会に迎え入れるべきと考えております」
ヨーレンはどこか必死さを持って師匠へ陳情しているようにユウトには見える。ユウト自身を助けるため弁明するかのように語るヨーレンの姿からユウトはありがたさでうれしくなった。
「わかった。その願い受け入れよう」
白灰の魔女はそう言うと閉じていた瞼を上げて灰色の瞳をあらわにし、顔をユウト達の方へ向ける。そして言葉続いた。
「だがもしも、その仮説が外れていたならヨーレン、お前の命を払ってもらう」
続けて放たれた老婆の言葉にユウトは体に雷を打たれたような緊迫感が駆け巡る。それは言葉だけの意味でなく年老いた女性とは思えないほどの殺気の視線が白灰の魔女から放たれたのを感じ取ったからだった。
「待ってくれ!ヨーレンにそんな代償を払わせるわけにはいかないッ!申し出を断るッ!」
ユウトはほとんど条件反射的に身を乗り出して叫びに近い声を上げる。それはこの世界に来る前の記憶を持つことを隠してきたことへの罪悪感も突然の行動への後押ししていた。
「うおっ。びっくりした。いきなりどうしたんだい?ユウト」
ヨーレンはユウトの突然の声に驚いている。ユウトはそのヨーレンの反応に困惑した。命を掛けろという師匠からの指示を平然と受け入れられるものなのかと理解と共感がついていかずうろたえる。その様子を見ていた白灰の魔女の口の端が吊り上がるのがユウトには見えた。
そして白灰の魔女はまた話し出す。
「対価は受け取った。いい狼狽っぷりだったぞユウト。調査が楽しみだ」
瞬間ユウトは理解する。振り返ればヨーレンの命についての語りに違和感があった。それはセブルやラトムとの意思疎通をするときの聞こえ方に近くヨーレンには聞こえていない。自身は試され、精神を揺さぶられたのだとわかった。
ユウトはもてあそばれた事実にこの世界に来て初めて怒りを思い出す。これが皆の顔を曇らせる白灰の魔女なのだと納得した。
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