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魔女の森
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「あの・・・不安ですか?ユウトさん」
セブルが心配そうに声を掛けてくる。心境を言い当てた質問にユウトはドキッとした。
ここまでの白灰の魔女の評判から只者ではないことがユウトには十分感じ取れている。実際に会って調べてもらえばゴブリンの体について明確な答えが出るとだろうと予想できた。
しかし だからこそこの世界で生き続けることができるのか、もしくは元の世界へと帰ることができるのかという答えがはっきりと宣告されること、事実を明示されることに恐怖が滲みだしている。もしその答えが自身にとって不都合なものであったとき、その後どうすればいいのかユウトには想像もつかなかった。
想像が暴走しつつある頭をいったん止めるようにユウトは乱暴に桶の水で顔を洗う。冷たい水が顔を引き締めた。
「うん、大丈夫だ。少し考えすぎてしまったのかもしれない。避けては通れないんだから開き直るしかないな」
自らに言い聞かせるようにユウトはセブルへ返答する。そして前日に届けられた新しい魔剣を取り出した。それはガラルドに初めて渡されたものと同じ形の魔剣だったがユウトには心なしか軽く感じる。重さのある刀身の剣を懐かしみつつ慣れた構えをとりゆっくり剣を振り始め初めて魔剣を握った日のことを思い出しあの時のようなどん底を落ちまいと気持ちを強く持った。
日課をこなし魔防壁の活用を試そうとしたところでネイラから声がかかり少し名残おしく朝食に向かう。ガラルドのいない朝食を全員で取ったのちユウトとヨーレン、レナは工房から出かけようとしていた。
「夜までには戻ると思うよ。それでは行ってくる。ノノはちゃんと睡眠を取っておくように」
ヨーレンが出入り口の扉で見送るネイラとノノに声を掛ける。
「はいよ。くれぐれも気を付けて」
「はいぃ。すみません」
ハキハキと答えるネイラと頭がこっくりしているノノを後にユウト達は出発した。
しばらく歩いてレナと別れユウトとヨーレンで大工房の街並みを歩く。建物の様相はだんだんと変わっていき建物のサイズが小柄になり最後には草原へと出て人影はなくなった。道も石畳から土へと変わり景色が開けている。さらに少し歩くと道をさえぎるように直角に等間隔で杭が打ち並べられた所でヨーレンは足を止めた。
ユウトの二倍ほどの高さが地表に現れて打ち立てられた杭は街道から大工房に入る際にもユウトは見た覚えがある。一対の大きな柱から等間隔に延びる杭たちと同じだった。
「ユウトは魔術杭を間近に見るのは初めてだったかな。この杭は隣同士の杭と連携して通りぬけようとした魔物や人に対して反応するように魔術式が組まれている。だから街を出入りするには決められた検問所のある場所でしか基本出来ない」
「基本、ということは例外もあるのか」
「その通り。ごく一部の人にしか知られていない秘密だから口外は控えてくれ」
そういってヨーレンは両手をそれぞれ道を挟んだ杭にかざす。手のひらは輝きはじめたかと思うと杭に小さなオレンジの明かりがともった。
「この区間だけ反応を切っている。今のうちに渡ってくれ」
ヨーレンは輝く手のひらをかざしたままユウトを先に杭の間を通り抜けさせた後、自身も通り抜ける。ユウトには通り抜ける時、杭と杭の間にうねる複数の透明な糸のような物が見えた。通り抜ける杭からは発せられていない。この斜めから目を凝らしてやっと見える程度の細い糸状の何かが魔物を捉えるのだろうとユウトは予測した。
通り抜けた後ヨーレンは手を下ろす。すると明かりは消えた。ユウトはぐっと注視すると他の杭同様に糸が張り直され柵としての機能を発揮していることがわかる。
「さぁ、行こうか」
草に浸食され始めているあぜ道をユウト達はまた歩きだす。その道の先には木々が生い茂る森が広がっていた。
ほどなくしてユウトとヨーレンは森に入る。この森の木々は野営地の森と異なり幹の太さも高さもほどほどであり枝葉の形が違うことから種類も豊富な豊かな森だったがユウトは何か不自然さを感じた。
あまりに整いすぎて美しい。ユウトの知る雑多な森の影はなく枝の延びる方向や日の当たる面積まで事細かに計算されているような精緻さ、緊張感があった。
その感覚を裏付けるようにこの森は歩きやすく植物に邪魔されない。ユウトは通り過ぎる枝に触れようとしたその時それに気づいたヨーレンが止めに入った。
「待ってくれ。すまない言い忘れていた。基本的にこの森のものには触れないようしてくれ。多少触ったくらいは問題ないのだけど余計な心配をしたくないんだ」
「あ、ああ。すまない。気を付ける」
ユウトは自身の違和感が正しかったと理解する。違和感を抱きつつもその森の中を歩く分には清々しく木漏れ日が気持ちいいものだった。
そして歩く道の先が開け森を抜ける。そこには石垣に家が一軒と池。青々とした芝生で覆われた複雑に折り重なる丘には多種多様な花や植物が整然と植えられていた。
薄暗い森から抜けて初めに目に飛び込んでくる明るい景色は随分と昔に眺めた教科書の絵画の風景をユウトは思い起こされる。思わずユウトはその場に立ち止まってしまっていた。
セブルが心配そうに声を掛けてくる。心境を言い当てた質問にユウトはドキッとした。
ここまでの白灰の魔女の評判から只者ではないことがユウトには十分感じ取れている。実際に会って調べてもらえばゴブリンの体について明確な答えが出るとだろうと予想できた。
しかし だからこそこの世界で生き続けることができるのか、もしくは元の世界へと帰ることができるのかという答えがはっきりと宣告されること、事実を明示されることに恐怖が滲みだしている。もしその答えが自身にとって不都合なものであったとき、その後どうすればいいのかユウトには想像もつかなかった。
想像が暴走しつつある頭をいったん止めるようにユウトは乱暴に桶の水で顔を洗う。冷たい水が顔を引き締めた。
「うん、大丈夫だ。少し考えすぎてしまったのかもしれない。避けては通れないんだから開き直るしかないな」
自らに言い聞かせるようにユウトはセブルへ返答する。そして前日に届けられた新しい魔剣を取り出した。それはガラルドに初めて渡されたものと同じ形の魔剣だったがユウトには心なしか軽く感じる。重さのある刀身の剣を懐かしみつつ慣れた構えをとりゆっくり剣を振り始め初めて魔剣を握った日のことを思い出しあの時のようなどん底を落ちまいと気持ちを強く持った。
日課をこなし魔防壁の活用を試そうとしたところでネイラから声がかかり少し名残おしく朝食に向かう。ガラルドのいない朝食を全員で取ったのちユウトとヨーレン、レナは工房から出かけようとしていた。
「夜までには戻ると思うよ。それでは行ってくる。ノノはちゃんと睡眠を取っておくように」
ヨーレンが出入り口の扉で見送るネイラとノノに声を掛ける。
「はいよ。くれぐれも気を付けて」
「はいぃ。すみません」
ハキハキと答えるネイラと頭がこっくりしているノノを後にユウト達は出発した。
しばらく歩いてレナと別れユウトとヨーレンで大工房の街並みを歩く。建物の様相はだんだんと変わっていき建物のサイズが小柄になり最後には草原へと出て人影はなくなった。道も石畳から土へと変わり景色が開けている。さらに少し歩くと道をさえぎるように直角に等間隔で杭が打ち並べられた所でヨーレンは足を止めた。
ユウトの二倍ほどの高さが地表に現れて打ち立てられた杭は街道から大工房に入る際にもユウトは見た覚えがある。一対の大きな柱から等間隔に延びる杭たちと同じだった。
「ユウトは魔術杭を間近に見るのは初めてだったかな。この杭は隣同士の杭と連携して通りぬけようとした魔物や人に対して反応するように魔術式が組まれている。だから街を出入りするには決められた検問所のある場所でしか基本出来ない」
「基本、ということは例外もあるのか」
「その通り。ごく一部の人にしか知られていない秘密だから口外は控えてくれ」
そういってヨーレンは両手をそれぞれ道を挟んだ杭にかざす。手のひらは輝きはじめたかと思うと杭に小さなオレンジの明かりがともった。
「この区間だけ反応を切っている。今のうちに渡ってくれ」
ヨーレンは輝く手のひらをかざしたままユウトを先に杭の間を通り抜けさせた後、自身も通り抜ける。ユウトには通り抜ける時、杭と杭の間にうねる複数の透明な糸のような物が見えた。通り抜ける杭からは発せられていない。この斜めから目を凝らしてやっと見える程度の細い糸状の何かが魔物を捉えるのだろうとユウトは予測した。
通り抜けた後ヨーレンは手を下ろす。すると明かりは消えた。ユウトはぐっと注視すると他の杭同様に糸が張り直され柵としての機能を発揮していることがわかる。
「さぁ、行こうか」
草に浸食され始めているあぜ道をユウト達はまた歩きだす。その道の先には木々が生い茂る森が広がっていた。
ほどなくしてユウトとヨーレンは森に入る。この森の木々は野営地の森と異なり幹の太さも高さもほどほどであり枝葉の形が違うことから種類も豊富な豊かな森だったがユウトは何か不自然さを感じた。
あまりに整いすぎて美しい。ユウトの知る雑多な森の影はなく枝の延びる方向や日の当たる面積まで事細かに計算されているような精緻さ、緊張感があった。
その感覚を裏付けるようにこの森は歩きやすく植物に邪魔されない。ユウトは通り過ぎる枝に触れようとしたその時それに気づいたヨーレンが止めに入った。
「待ってくれ。すまない言い忘れていた。基本的にこの森のものには触れないようしてくれ。多少触ったくらいは問題ないのだけど余計な心配をしたくないんだ」
「あ、ああ。すまない。気を付ける」
ユウトは自身の違和感が正しかったと理解する。違和感を抱きつつもその森の中を歩く分には清々しく木漏れ日が気持ちいいものだった。
そして歩く道の先が開け森を抜ける。そこには石垣に家が一軒と池。青々とした芝生で覆われた複雑に折り重なる丘には多種多様な花や植物が整然と植えられていた。
薄暗い森から抜けて初めに目に飛び込んでくる明るい景色は随分と昔に眺めた教科書の絵画の風景をユウトは思い起こされる。思わずユウトはその場に立ち止まってしまっていた。
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