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魔膜
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ユウトはその晩は翌朝まで城壁の上で過ごすことにしていた。昼間に十分睡眠をとることができていた、というのが建前半分でレナの近くで眠れる気がしなかったというのが主な理由だった。
暇を持て余していたユウトは一人城壁の上で日課としている魔剣の訓練にいそしんでいる。ユウトの様子を見て哨戒をしていたディゼルが声をかけてきた。
「ユウトは熱心だね。つい今朝、戦闘を終えたばかりなのに」
「いや、何かやってないと不安だっていうのもあるんだよ」
ユウトは構えをといてディゼルに向き合い荒くなった息を整える。
「こんな身なりだろ。何かあったとき、できることを増やしておきたいんだ。
あっ!そういえば昨日の夕方、魔鳥の攻撃から荷馬車を助けるとき城壁を飛び降りてどうして無事だったんだ?あれも魔術か?」
ユウトはディゼルが高所から飛び降りて無事だったことへの疑問を思い出し、ぱあぁっと表情が明るくなると食いつくようにディゼルへ尋ねる。
「あれは魔術膜の応用だよ。着地する直前に展開した膜で空気を包み込んで圧縮し衝撃を最大に吸収したところで一方向に破裂させたんだ」
「え?膜?包み込む?どういうことなんだ」
ユウトにはディゼルの言っていることに全く見当がつかずぽかんとしている。そのユウトの様子にディゼルは少し驚いた。
「すまない。あの戦いぶりからもう知っているものだと思っていた。
そうだな。ちょっと実践してみようか。僕の手にユウトは拳で打ってみてくれ」
ディゼルはそういうとユウトに向けて右手のひらを掲げる。ユウトはそこへ気軽にパンチを放った。
するとパンと音を立ててユウトの拳はディゼルに受け止められる。他愛もない一連の動きの流れだったがユウトはとても驚いていた。
それはまるでディゼルの手を風船越しにパンチを行ったような感覚。パンという音は手と拳が合わさった音ではなく触れるほんの一瞬前に鳴っている。
「体の表面に魔力を放出して膜を作り出す。そしてその膜の中に魔力を気体のような魔力を充満させる。そうして膜の強度、収縮、注入する魔力量を調節することで衝撃の吸収、反発などの現象を起こすことができるんだ。これは魔術より体術に近い原始魔術だから魔術師や魔導士じゃなくても使いやすい。
この技術は使用者の器用さと修練次第。老兵でもこの技術で衰えた筋力を補っている者も多いよ」
「一つ質問なんだけどディゼルは全身鎧を身に着けてるよな、どうやって鎧越しにその能力を使用しているんだ?」
「この膜は魔力を流しやすいものに触れていれば拡張して発現することができるんだ。金属は魔力を通しやすいから出力しやすいね。
ほらブーツの裏に金属が見えるだろ。軍用服にも魔力を通しやすい素材が織り込まれているね」
ディゼルはそういって片足を持ち上げ裏面を見せる。等間隔に点を打つように金属の円が見えた。
ユウトも自身の片足をあげてブーツをのぞき込んでみるとディゼルのモノより少ないが同じような金属の円があるのを確認できる。ユウトは「おお」と感嘆の声をあげた。
「防御に使われることが多いけど、調整のうまい人になると攻撃にも転用できるよ。
まずは手のひらでできるように練習するといい」
「なるほど。ありがとうディゼル。とても勉強になった」
ユウトがディゼルへ礼を言い終わったタイミングで遠くからディゼルを呼ぶ声が聞こえる。
「副隊ちょー!そろそろ交代だそーでーす」
城壁の下り階段の近くでカーレンが大きく手を振りながらディゼルよ呼んでいた。
「じゃあユウト。そろそろ行くよ。またいつか」
ディゼルはそういって手を差し出した。
ユウトは一瞬その意味がわからなかったが握手を求めていることに気づき慌てて手を出し握る。ディゼルは力強く握り返した。
「ああ。またいつか」
そして二人は手を離すとディゼルはカーレンの方に向けて歩き出し去っていった。
ユウト達が大橋砦に来て二回目の朝を迎える。日の光が差すころケランの馬車はちょうど門を抜け大石橋を渡りだした。
二回目に見るユウトはまぶたを重たそうにゆっくりと上下させながらケランの横の御者席で日の光を浴びている。
ディゼルと別れたあと、新しい魔力の使い方に興奮し夜通し修練をこなしていた。そのため消費された魔力と酷使した集中力から身体が睡眠を求めていた。
「ユウトさん。ボクとラトムで周りを警戒しときますから今は寝てください」
「そっス、そうっス。初任務がんばるっス」
二匹の申し出にユウトは甘えることにして警戒を頼み背中を持たれかけされフードで日の光をさえぎりユウトは仮眠の態勢を取る。何かが楽しくて、熱中して、夜通しやり続けて寝不足なんていつ以来だろうかとユウトは思った。
疲れた体と充実した精神でユウトの意識は眠りに落ちた。
暇を持て余していたユウトは一人城壁の上で日課としている魔剣の訓練にいそしんでいる。ユウトの様子を見て哨戒をしていたディゼルが声をかけてきた。
「ユウトは熱心だね。つい今朝、戦闘を終えたばかりなのに」
「いや、何かやってないと不安だっていうのもあるんだよ」
ユウトは構えをといてディゼルに向き合い荒くなった息を整える。
「こんな身なりだろ。何かあったとき、できることを増やしておきたいんだ。
あっ!そういえば昨日の夕方、魔鳥の攻撃から荷馬車を助けるとき城壁を飛び降りてどうして無事だったんだ?あれも魔術か?」
ユウトはディゼルが高所から飛び降りて無事だったことへの疑問を思い出し、ぱあぁっと表情が明るくなると食いつくようにディゼルへ尋ねる。
「あれは魔術膜の応用だよ。着地する直前に展開した膜で空気を包み込んで圧縮し衝撃を最大に吸収したところで一方向に破裂させたんだ」
「え?膜?包み込む?どういうことなんだ」
ユウトにはディゼルの言っていることに全く見当がつかずぽかんとしている。そのユウトの様子にディゼルは少し驚いた。
「すまない。あの戦いぶりからもう知っているものだと思っていた。
そうだな。ちょっと実践してみようか。僕の手にユウトは拳で打ってみてくれ」
ディゼルはそういうとユウトに向けて右手のひらを掲げる。ユウトはそこへ気軽にパンチを放った。
するとパンと音を立ててユウトの拳はディゼルに受け止められる。他愛もない一連の動きの流れだったがユウトはとても驚いていた。
それはまるでディゼルの手を風船越しにパンチを行ったような感覚。パンという音は手と拳が合わさった音ではなく触れるほんの一瞬前に鳴っている。
「体の表面に魔力を放出して膜を作り出す。そしてその膜の中に魔力を気体のような魔力を充満させる。そうして膜の強度、収縮、注入する魔力量を調節することで衝撃の吸収、反発などの現象を起こすことができるんだ。これは魔術より体術に近い原始魔術だから魔術師や魔導士じゃなくても使いやすい。
この技術は使用者の器用さと修練次第。老兵でもこの技術で衰えた筋力を補っている者も多いよ」
「一つ質問なんだけどディゼルは全身鎧を身に着けてるよな、どうやって鎧越しにその能力を使用しているんだ?」
「この膜は魔力を流しやすいものに触れていれば拡張して発現することができるんだ。金属は魔力を通しやすいから出力しやすいね。
ほらブーツの裏に金属が見えるだろ。軍用服にも魔力を通しやすい素材が織り込まれているね」
ディゼルはそういって片足を持ち上げ裏面を見せる。等間隔に点を打つように金属の円が見えた。
ユウトも自身の片足をあげてブーツをのぞき込んでみるとディゼルのモノより少ないが同じような金属の円があるのを確認できる。ユウトは「おお」と感嘆の声をあげた。
「防御に使われることが多いけど、調整のうまい人になると攻撃にも転用できるよ。
まずは手のひらでできるように練習するといい」
「なるほど。ありがとうディゼル。とても勉強になった」
ユウトがディゼルへ礼を言い終わったタイミングで遠くからディゼルを呼ぶ声が聞こえる。
「副隊ちょー!そろそろ交代だそーでーす」
城壁の下り階段の近くでカーレンが大きく手を振りながらディゼルよ呼んでいた。
「じゃあユウト。そろそろ行くよ。またいつか」
ディゼルはそういって手を差し出した。
ユウトは一瞬その意味がわからなかったが握手を求めていることに気づき慌てて手を出し握る。ディゼルは力強く握り返した。
「ああ。またいつか」
そして二人は手を離すとディゼルはカーレンの方に向けて歩き出し去っていった。
ユウト達が大橋砦に来て二回目の朝を迎える。日の光が差すころケランの馬車はちょうど門を抜け大石橋を渡りだした。
二回目に見るユウトはまぶたを重たそうにゆっくりと上下させながらケランの横の御者席で日の光を浴びている。
ディゼルと別れたあと、新しい魔力の使い方に興奮し夜通し修練をこなしていた。そのため消費された魔力と酷使した集中力から身体が睡眠を求めていた。
「ユウトさん。ボクとラトムで周りを警戒しときますから今は寝てください」
「そっス、そうっス。初任務がんばるっス」
二匹の申し出にユウトは甘えることにして警戒を頼み背中を持たれかけされフードで日の光をさえぎりユウトは仮眠の態勢を取る。何かが楽しくて、熱中して、夜通しやり続けて寝不足なんていつ以来だろうかとユウトは思った。
疲れた体と充実した精神でユウトの意識は眠りに落ちた。
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