ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
上 下
44 / 213

飛翔

しおりを挟む
 魔鳥の吐き続ける光帯の量も無限ではなく徐々にその出力を弱めてい記載後は振り絞るように出し尽くす。魔鳥はその動きを止めた。

 押さえつけられる圧力から解放されたセブルはその足取りを回復させ再び加速を始める。ディゼルは耐えきった。

 しかし肩で息をするディゼルはユウトから見て体力も魔力も消耗していることは明らかに伝わってくる。セブルは止まることを考えずもうすぐ前に魔鳥が迫った。

「あとはまかせろ」

 ユウトはつぶやき握った魔剣に力がこもる。魔鳥まであと少しというころ、先ほどまで静止していた魔鳥は突然動き出した。

 折りたたみ体を支えるように地面に下ろしていた翼を目一杯に広げ立ち上がる。迫るユウト達を威嚇するように大きく広げられた翼の内側、金属板の隙間から赤く輝く光のラインが浮かびあがると強い風が発生した。

 そして魔鳥は羽ばたきもせず宙に浮く。セブルが到達するあと少しのところで魔鳥は真上へ浮上した。

 魔鳥がいたはずの場所を通過するときユウトは魔鳥に届くまで魔剣の刃を伸ばして切りつける。刃の先端は魔鳥の装甲をなだただけで確かなダメージを与えることはなかった。

 効果的な攻撃を行うことはできず、セブルは踏ん張りスピードを落として静止する。空中に浮かび上がった魔鳥をユウト達は見上げた。

 魔鳥はある程度まで高度をとると動きを止める。そして安定せず翼を小刻みに調節しては全身をふらつかせていた。

 日の出とともに強まりだしていた風はその勢いを増し魔鳥を河下へ押し出す。魔鳥の位置は橋上から流され河の上空だった。

 ユウトは魔鳥の姿をよく観察する。片方の翼の光の輝きが不安定だった。そこはレナから放たれた魔槍によって傷を負った部分だったことを思い出す。

「飛び去ることはできないみたいだが・・・魔剣は届きそうか?」

 ディゼルはユウトへ尋ねる。

「ダメだ。伸ばせば届くと思うけど確実な損傷を与えられない。どうしたら・・・」

 ユウトは思考を巡らす。このまま魔鳥が何もしないまま飛び去る保証はない。こうして近づくことができるチャンスも今が最後かもしれない。何よりディゼルやセブルの頑張りを無駄にしたくなかった。

 今一度使える手札ユウトは思い起こす。ユウト自身、ディゼル、セブル、丸薬、魔術剣、魔術盾。一つ一つの要素の種から連想の根を伸ばし、組み合わせ、魔鳥へ致命的な一撃を与えるという目的にたどり着かせる発想の糸口を全力で探る。そして細く頼りない糸をユウトは掴んだ。

「ディゼル。魔術盾でオレを打ち出すことはできるか?」

 ユウトの突然の問いにディゼルは驚きユウトの方を向いた。突拍子もないことはユウトは承知している。波紋のように広がる力場のようなものを生成する魔術盾なら逆に収縮させることも可能ではないかと発想した結果だった。

「確かにできる。打ち出す衝撃に僕が耐えきれれば・・・セブルに体を固定してもらえればなんとかなるかもしれない」
「よし、時間はない。やろう」

 ユウトはディゼルと簡単に流れを打ち合わせする。セブルにはディゼルの体を地面へ固定させるよう指示をだした。



 城壁の上ではクロノワが渋い顔をしてユウト達の様子を見つめている。心配そうにヨーレンが声を出した。

「飛び上がれるほど回復の時間を与えてしまったんでしょうか」
「いや、完全に回復しきれてはいない。魔鳥を追い込んでいるのは確かだ」

 ヨーレンに対してクロノワが言葉を返す。

「あいつ等動き出した。何をするつもりなんだろ」

 レナも緊張した面持ちでユウト達の状況を声にあげる。

「なんにせよ。安全に事が済みそうにはないな。船の用意を」

 クロノワは傍らの兵士に指示をだした。

「・・・」

 ガラルドは黙ったまま表情も変えず静観し続けていた。



 ユウトは魔鳥とディゼルをつないだ直線上にディゼルから助走距離をとる。さらに丸薬を口に含んで飲み込んだ。

 セブルは体の側面で密着し流動する毛をまとわりつかせ、踏ん張る四肢は石畳の隙間を這うように毛を潜り込ませ固定させる。ディゼルは右手で盾を装備した左腕を握りユウトの方へ突き出す。

「来い!ユウト!」

 ディゼルが声をかける。ユウトはうなずき全力で走り出した。

 ディゼルの数歩手前でユウトは地を蹴り飛び上がる。構えられた盾に着地するような態勢でディゼルに迫った。

 ユウトが盾の前に迫ると同時に空間に同心円状の波が発生する。その波はこれまでの攻撃をいなす時と違い外から内側へと小さな波紋を発生し始めた。

 ユウトの足が波紋に触れる瞬間、大きな波が起こる。その波は中央で重なり激しい一波に膨れ上がるとユウトを魔鳥めがけてはじき飛ばした。



 ユウトが弾き飛ばされるのを見つめる二つの影。その影達はクロノワの砦の対岸の河岸にあった。

 木陰に身を隠しながら細身で体に不釣り合いな大きな頭を持った小人の影は棒を横に両手で持ち背中をまげて頬を添えている。そしてその棒の先端はもう一つの大きな卵の影の上に据えられていた。

 真っすぐ伸びた棒の先端が向いているのは空中を舞うユウトの方向だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...