42 / 213
黎明
しおりを挟む
魔鳥が居座る大石橋。その橋が遠目に見通せる大河の岸でうごめく一対の影があった。
一つは小人、もう一つはたまごのシルエットをしている。卵型は音もなく浮いており、小人はその上に楽々と座っていた。
その二つの影は生い茂る草と木々の間から魔術灯で照らされた魔鳥をじっと見つめる。そして何かを決心し夜明け前の暗闇に消えていった。
日の沈んだ反対方向の空が白めきだしてくる。ユウトが眠る部屋まではその様子は伝わってこない。しかし木の板の上を歩いて近づく振動は板とベッドの足を伝いユウトの体を刺激した。
ユウトは目を覚ます。気配の方向に顔を向けてみればそれはディゼルだった。
「ディゼルか。もう時間かな」
「ああ、そうだ。体力と魔力の回復はどうだい?」
「うん・・・大丈夫だ。万全とは言えないけど十分回復している。これなら丸薬を使わなくても今のところ行けそうだよ」
ユウトは体の内側を覗き見るように手足の先まで意識を集中すると今現在の自身の魔力量を把握する。ディゼルの魔術具への魔力供給を行ったことでその感覚をより鮮明に実感できるようになっていた。
「わかった。では準備を始めよう」
レナの姿はなくユウトが寝た後すぐに出て行ったそうだとユウトはセブルから聞いた。
ディゼルはユウト用に装備を用意してくれている。魔術盾の魔力充填を行った机の上には革製の防具が置かれていた。ユウトはディゼルに手助けしてもらいながらそれを装備する。最も寸法の小さい物を用意してくれたということだったが細身の今のユウトの体には少し余裕がるぐらいだったが見た目ほど固さもなく柔軟なおかげで体になじみ動きやすいとユウトは感じた。
装備が終わるとディゼルは朝食の代わりにと湯を沸かして飲み物を作ってくれる。チョコという名称にユウトは非常に心躍らされた。正確にはユウトの知るチョコではなく香辛料の効いた滋養強壮剤といった飲み物だったが味は確かにチョコレートも含まれている。久々の甘みも感じることができユウトは非常に満足だった。
そして橋への門の扉の前に向かうと砦の中を通る街道沿いに人だかりがあり街道の中央にはクロノワ、ガラルド、ヨーレン、レナの姿がある。歩いてきたユウトに気づくとユウトとディゼルを輪に加えた。
「よし。そろったな」
ディゼル、ユウト、セブルを確認してクロノワが語りだす。
「最後の事前説明を行う。破壊目標は橋上の魔鳥だ。日の出とともに対岸の砦より魔鳥に対して陽動をかける。それを確認して私が襲撃の合図を出し、門が開かれディゼルの魔術盾で防御をしつつ魔鳥へ接近。ユウトの魔術剣で攻撃を行う。
注意してもらいことがある。
一つは橋への損傷をできる限り少なくして欲しい。これは中央への配慮だ。しかしできる限りでかまわん。魔鳥の討伐が最優先だ。
もう一つ、攻撃する部位について魔鳥の首元にはレナの槍によってできた傷がまだ確認できる。そこなら致命的な損傷を与えることができるはずだ。
最後に・・・」
クロノワの表情が険しくなる。
「絶対に死ぬなよ。手に負えないと思えばすぐに河に飛び込め。そこまではヤツも追ってこない。今回でダメでも次がある。人的資源を失ってまで倒さなければならない相手ではない。無理をするなよ」
「了解しました」
「わかった」
ディゼル、ユウトともクロノワへ返事を返す。クロノワの最後の言葉の重さにユウトは悲痛な感情の波を感じ取っていた。
「よし。準備を開始してくれ。作戦開始はもうすぐだ」
クロノワはそういうと河側の城壁の上へ向かっていく。入れ替わりにガラルド、ヨーレン、レナがユウトのもとに集まってきた。
「気分はどう?緊張してない?」
最初に声をかけてきたのはレナだった。
「緊張はちょっとしてるかな。でも魔獣と戦った時と比べれば今回は一人じゃない。随分と気持ちは楽だ」
ユウトは作戦前の緊張より目の前のレナによっておこる緊張の方が問題の比重が重かったが黙っていた。もしかしたらディゼル一緒に飲んだチョコのせいでいつも以上に敏感かもしれないと思う。
続いてヨーレン。
「重大な役目だけど無理はしないでくれ」
「ああ、わかってる。できることをやってくるよ」
最後にガラルド。
「能力に不足はない」
「が、がんばるよ」
それぞれと言葉を交わして別れた。
ディゼルの元には何やら小さな人々が集まっている。ユウトより少し背が低く横幅があり屈強そうな体つきに髭を蓄えていた。
その人たちがディゼルへ何かお願いしている。話し終わるとその人々はディゼルから離れていった。気になったユウトはディゼルに話しかける。
「今のは?」
「彼らが大石橋の整備担当員のドワーフ達だ。あの大橋は彼らが作った。だから彼らにとっては作品でもあるし、子供みたいなものなんだと思う」
「守ってくれって?」
「いや、壊れても自分たちがすぐに直して見せるから存分にやって欲しいそうだ。心配しないでくれと」
「そっか・・・」
ユウトは自身の気持ちを言い表す言葉が思いつかない。ただどうしても、命がかかるこの作戦を成功させたいと思った。
一つは小人、もう一つはたまごのシルエットをしている。卵型は音もなく浮いており、小人はその上に楽々と座っていた。
その二つの影は生い茂る草と木々の間から魔術灯で照らされた魔鳥をじっと見つめる。そして何かを決心し夜明け前の暗闇に消えていった。
日の沈んだ反対方向の空が白めきだしてくる。ユウトが眠る部屋まではその様子は伝わってこない。しかし木の板の上を歩いて近づく振動は板とベッドの足を伝いユウトの体を刺激した。
ユウトは目を覚ます。気配の方向に顔を向けてみればそれはディゼルだった。
「ディゼルか。もう時間かな」
「ああ、そうだ。体力と魔力の回復はどうだい?」
「うん・・・大丈夫だ。万全とは言えないけど十分回復している。これなら丸薬を使わなくても今のところ行けそうだよ」
ユウトは体の内側を覗き見るように手足の先まで意識を集中すると今現在の自身の魔力量を把握する。ディゼルの魔術具への魔力供給を行ったことでその感覚をより鮮明に実感できるようになっていた。
「わかった。では準備を始めよう」
レナの姿はなくユウトが寝た後すぐに出て行ったそうだとユウトはセブルから聞いた。
ディゼルはユウト用に装備を用意してくれている。魔術盾の魔力充填を行った机の上には革製の防具が置かれていた。ユウトはディゼルに手助けしてもらいながらそれを装備する。最も寸法の小さい物を用意してくれたということだったが細身の今のユウトの体には少し余裕がるぐらいだったが見た目ほど固さもなく柔軟なおかげで体になじみ動きやすいとユウトは感じた。
装備が終わるとディゼルは朝食の代わりにと湯を沸かして飲み物を作ってくれる。チョコという名称にユウトは非常に心躍らされた。正確にはユウトの知るチョコではなく香辛料の効いた滋養強壮剤といった飲み物だったが味は確かにチョコレートも含まれている。久々の甘みも感じることができユウトは非常に満足だった。
そして橋への門の扉の前に向かうと砦の中を通る街道沿いに人だかりがあり街道の中央にはクロノワ、ガラルド、ヨーレン、レナの姿がある。歩いてきたユウトに気づくとユウトとディゼルを輪に加えた。
「よし。そろったな」
ディゼル、ユウト、セブルを確認してクロノワが語りだす。
「最後の事前説明を行う。破壊目標は橋上の魔鳥だ。日の出とともに対岸の砦より魔鳥に対して陽動をかける。それを確認して私が襲撃の合図を出し、門が開かれディゼルの魔術盾で防御をしつつ魔鳥へ接近。ユウトの魔術剣で攻撃を行う。
注意してもらいことがある。
一つは橋への損傷をできる限り少なくして欲しい。これは中央への配慮だ。しかしできる限りでかまわん。魔鳥の討伐が最優先だ。
もう一つ、攻撃する部位について魔鳥の首元にはレナの槍によってできた傷がまだ確認できる。そこなら致命的な損傷を与えることができるはずだ。
最後に・・・」
クロノワの表情が険しくなる。
「絶対に死ぬなよ。手に負えないと思えばすぐに河に飛び込め。そこまではヤツも追ってこない。今回でダメでも次がある。人的資源を失ってまで倒さなければならない相手ではない。無理をするなよ」
「了解しました」
「わかった」
ディゼル、ユウトともクロノワへ返事を返す。クロノワの最後の言葉の重さにユウトは悲痛な感情の波を感じ取っていた。
「よし。準備を開始してくれ。作戦開始はもうすぐだ」
クロノワはそういうと河側の城壁の上へ向かっていく。入れ替わりにガラルド、ヨーレン、レナがユウトのもとに集まってきた。
「気分はどう?緊張してない?」
最初に声をかけてきたのはレナだった。
「緊張はちょっとしてるかな。でも魔獣と戦った時と比べれば今回は一人じゃない。随分と気持ちは楽だ」
ユウトは作戦前の緊張より目の前のレナによっておこる緊張の方が問題の比重が重かったが黙っていた。もしかしたらディゼル一緒に飲んだチョコのせいでいつも以上に敏感かもしれないと思う。
続いてヨーレン。
「重大な役目だけど無理はしないでくれ」
「ああ、わかってる。できることをやってくるよ」
最後にガラルド。
「能力に不足はない」
「が、がんばるよ」
それぞれと言葉を交わして別れた。
ディゼルの元には何やら小さな人々が集まっている。ユウトより少し背が低く横幅があり屈強そうな体つきに髭を蓄えていた。
その人たちがディゼルへ何かお願いしている。話し終わるとその人々はディゼルから離れていった。気になったユウトはディゼルに話しかける。
「今のは?」
「彼らが大石橋の整備担当員のドワーフ達だ。あの大橋は彼らが作った。だから彼らにとっては作品でもあるし、子供みたいなものなんだと思う」
「守ってくれって?」
「いや、壊れても自分たちがすぐに直して見せるから存分にやって欲しいそうだ。心配しないでくれと」
「そっか・・・」
ユウトは自身の気持ちを言い表す言葉が思いつかない。ただどうしても、命がかかるこの作戦を成功させたいと思った。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる