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過去編:夏の華2
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握り飯を入れた風呂敷を手に梗夏は家を出た。
夜は昼間と違ってとても冷える。ふと夜空を見上げた梗夏は疑問に思う。
「あれって……ほぼ満月なんじゃ……」
そう呟くと複数の足音が聞こえてきた。
暗闇の中、目を凝らしてみると村の男どもが向こうのほうから明かりを灯してやって来ている。
昼間に生贄に捧げると言われて夜に死ぬとか聞いていない。早すぎる。
「ん?あそこにいるのは………女だ。生贄の女が逃げてるぞっ!!!」
そしてあっさりと見つかってしまった。
青年に満面の笑みで生贄の儀式から逃げると言ってしまったばかりなのに。
足の速さはやはり男どもの方が優れていた。梗夏は逃げようとしたが腕を捻りあげられ痛みで動けなくなる。
「全く…お前が逃げたら他のやつが生贄になるんだ。わかってるな?」
確かこの男には可愛らしい娘がいたはずだ。どうせ自分の娘が生贄になるのを恐れているのだ。
「私の両親がいないことをいいことに好き勝手しやがってっ……!!許さないから!!!死んだら霊になってお前らを呪い殺してやる!!!」
薄々気づいていたことがある。
梗夏の両親は戻ってきていない、その理由が。
「呪えるものなら呪ってみろよ、その貧弱な力で何ができるってんだ?」
「お前の両親はな……」
『死んでるんだよ。都で』
気づいていたんだ。そんなこと。
けれど改めて突きつけられた現実に梗夏は泣きそうになる。
大人しく連行された梗夏は儀式が行われる沼へと連れて行かれた。
沼の少し離れた所にある小屋へと入ると田植えの時お世話になったおばさんがそこにいた。手には白装束をもっている。
「どうしておばさんがここに……?」
何も答えてくれなかった。
黙々と梗夏に白装束を着せていく。
「私ね、馬鹿なのよ」
おばさんは梗夏の髪を綺麗に梳かしていた。
「母さんも父さんも死んでるってわかってたけど、認めたくなくてずっと帰ってくるのを待ってたの。村の人たちに両親のことを聞いても苦笑いで返されるし、でも噂してるのを耳にして……」
梗夏の髪を梳かしている手が止まった。
「それに私好きな人ができたのよ」
助けに行くと言ってくれた青年のことを思い出した。
過去に想いを馳せていると、突如後ろから抱きしめられる。
「おばさん…….?」
「ごめんなさいっ………守ってあげられなくてごめんなさいっ………!」
梗夏は急に涙が込み上げてきた。
おばさんはよく家に食料を届けにきてくれていた。心配そうにまだ年若い梗夏に色々なことを教えてくれた。
梗夏はもうそろそろで死ぬ。怖くて怖くてたまらない。
おばさんの体温が恐怖で冷え切った梗夏の心を暖めてくれているようだった。
「極楽浄土でまた会いましょうおばさん」
足音が聞こえてきた。小屋に一人の男がやってきてこう言った。
「準備が整った。外に出るぞ」
外に出ると沼の周りには松明が置かれていて、沼のほとりに小さな船が浮かんでいる。
船の上には村長と村の男が1人座っていた。
梗夏の手足には重石がつけられ船に乗ると、ゆっくりと動き出した。
緊張した沈黙が続く。
沼の中心へと来ると村長が立ち上がり声を張り上げた。
「これより生贄を捧げる」
あっという間だったな。
両親にもう一度会いたい。美味しいものをたらふく食べたい。
好きな人ともう一度話したい。
そう思うと人生は短いと思った。もう少し、楽しんでおけばよかったと。
一歩、船から足を出したその時。
沼の底から唸り声が聞こえ、その瞬間水の入った桶をひっくり返したような雨が降ってきた。
船が大きく揺れ、梗夏が船から落ちそうになったその時。
沼から大きな影が出てきて何かが梗夏を拾い上げる。
ずぶ濡れの梗夏が顔を勢いよくあげるとそこには青年がいた。
「助けに来たよっ!!!!」
大きな、とても大きな龍の背に乗った青年が娘の手を強く握る。
夜なのにあたりがとても明るくなり、青年の笑顔が見える。
梗夏は嬉しさで泣きそうになりながらも必死の思いを伝えた。
「私貴方のことが好きよ!!!」
青年はとても嬉しそうに笑った。
これが当主様と奥方様が出会った時のお話。
夜は昼間と違ってとても冷える。ふと夜空を見上げた梗夏は疑問に思う。
「あれって……ほぼ満月なんじゃ……」
そう呟くと複数の足音が聞こえてきた。
暗闇の中、目を凝らしてみると村の男どもが向こうのほうから明かりを灯してやって来ている。
昼間に生贄に捧げると言われて夜に死ぬとか聞いていない。早すぎる。
「ん?あそこにいるのは………女だ。生贄の女が逃げてるぞっ!!!」
そしてあっさりと見つかってしまった。
青年に満面の笑みで生贄の儀式から逃げると言ってしまったばかりなのに。
足の速さはやはり男どもの方が優れていた。梗夏は逃げようとしたが腕を捻りあげられ痛みで動けなくなる。
「全く…お前が逃げたら他のやつが生贄になるんだ。わかってるな?」
確かこの男には可愛らしい娘がいたはずだ。どうせ自分の娘が生贄になるのを恐れているのだ。
「私の両親がいないことをいいことに好き勝手しやがってっ……!!許さないから!!!死んだら霊になってお前らを呪い殺してやる!!!」
薄々気づいていたことがある。
梗夏の両親は戻ってきていない、その理由が。
「呪えるものなら呪ってみろよ、その貧弱な力で何ができるってんだ?」
「お前の両親はな……」
『死んでるんだよ。都で』
気づいていたんだ。そんなこと。
けれど改めて突きつけられた現実に梗夏は泣きそうになる。
大人しく連行された梗夏は儀式が行われる沼へと連れて行かれた。
沼の少し離れた所にある小屋へと入ると田植えの時お世話になったおばさんがそこにいた。手には白装束をもっている。
「どうしておばさんがここに……?」
何も答えてくれなかった。
黙々と梗夏に白装束を着せていく。
「私ね、馬鹿なのよ」
おばさんは梗夏の髪を綺麗に梳かしていた。
「母さんも父さんも死んでるってわかってたけど、認めたくなくてずっと帰ってくるのを待ってたの。村の人たちに両親のことを聞いても苦笑いで返されるし、でも噂してるのを耳にして……」
梗夏の髪を梳かしている手が止まった。
「それに私好きな人ができたのよ」
助けに行くと言ってくれた青年のことを思い出した。
過去に想いを馳せていると、突如後ろから抱きしめられる。
「おばさん…….?」
「ごめんなさいっ………守ってあげられなくてごめんなさいっ………!」
梗夏は急に涙が込み上げてきた。
おばさんはよく家に食料を届けにきてくれていた。心配そうにまだ年若い梗夏に色々なことを教えてくれた。
梗夏はもうそろそろで死ぬ。怖くて怖くてたまらない。
おばさんの体温が恐怖で冷え切った梗夏の心を暖めてくれているようだった。
「極楽浄土でまた会いましょうおばさん」
足音が聞こえてきた。小屋に一人の男がやってきてこう言った。
「準備が整った。外に出るぞ」
外に出ると沼の周りには松明が置かれていて、沼のほとりに小さな船が浮かんでいる。
船の上には村長と村の男が1人座っていた。
梗夏の手足には重石がつけられ船に乗ると、ゆっくりと動き出した。
緊張した沈黙が続く。
沼の中心へと来ると村長が立ち上がり声を張り上げた。
「これより生贄を捧げる」
あっという間だったな。
両親にもう一度会いたい。美味しいものをたらふく食べたい。
好きな人ともう一度話したい。
そう思うと人生は短いと思った。もう少し、楽しんでおけばよかったと。
一歩、船から足を出したその時。
沼の底から唸り声が聞こえ、その瞬間水の入った桶をひっくり返したような雨が降ってきた。
船が大きく揺れ、梗夏が船から落ちそうになったその時。
沼から大きな影が出てきて何かが梗夏を拾い上げる。
ずぶ濡れの梗夏が顔を勢いよくあげるとそこには青年がいた。
「助けに来たよっ!!!!」
大きな、とても大きな龍の背に乗った青年が娘の手を強く握る。
夜なのにあたりがとても明るくなり、青年の笑顔が見える。
梗夏は嬉しさで泣きそうになりながらも必死の思いを伝えた。
「私貴方のことが好きよ!!!」
青年はとても嬉しそうに笑った。
これが当主様と奥方様が出会った時のお話。
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