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第1章
25話 旅支度⑤
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「これから俺は、アイツらに正面から殴りかかる」
「ほう、いつの間にそんな度胸がついたんだ? 見直したぞ、タケル」
「そしたら、殴られてすぐに気絶すると思うんだ」
「…………」
「気を失ったら、この体を使ってアイツらをお縄にしてやって欲しい」
「なるほど、作戦はわかった……そん時は秒殺してやるから安心していい」
「よし、頼んだよ!」
「あ、ちょっと待て! タケル」
タケルは覚悟を決めて雄叫びを上げながら盗賊たちに殴りかかって行った。
すると、盗賊たちは次々と腰の剣を抜き始めた。
そして、殴りかかって来たタケル目掛けて先頭の男がその剣を振り抜く。
「あっぶねぇ!」
タケルはギリギリの所でその剣を交わし、一命を取り留めたが、
間髪置かずに次々と刃がタケルを襲って来る。
「待って! 剣で切られたら! 気を失う前に! 死んじゃうよ!」
ケビンが毎晩体を鍛えてくれているおかげで、体は一流アスリート並みに
仕上がっている。そこに元の世界で日夜ゲームに明け暮れて鍛え抜いた
反射神経が合わさり、紙一重でその攻撃を避ける事ができている。
紙一重とはいえ、見事な避け方ではない。本当にギリギリの
運良く避けられているレベルの紙一重だ。
「ケビン! 頼むから早く入って!」
「無理だ。入れない」
いつでもタケルの体に入れるようにスタンバイしているケビンだったが、
その体に入ってもすり抜けてしまう。
「何か、この状況を切り抜けられるいい方法はない!?」
「いい方法つってもなぁ……危ない、後ろ!」
ケビンの忠告に反応して、即座に振り返るタケル。
後方の死角からの攻撃をギリギリでかわす。
「前からも来てる!」
タケルは必死にそれに反応する。死を目前にして集中力だけは
極限まで研ぎ澄まされている。
「とにかく剣を抜け!」
ケビンに言われるがまま剣を抜き、
「右から来る。すぐ左もだ!」
そん声に反応して、右、左と相手の剣を受け流し、盗賊の防御が甘くなると、
「左のヤツの足を切れ!」
人を殴った記憶も無かったタケルだったが、無我夢中でケビンに言われるがまま、
タケルは剣を振り続けた。
「次、右を切り上げて後ろの首、その後ろの脇腹だ!」
タケルは自分が何をしているのかもわかっていなかった。
無我夢中でケビンの指示に従い剣を振り続けた。
そうしてしばらくすると、周囲を取り囲んでいた盗賊が6人ほどにまで減っていた。
「ハァ…ハァ…ハァ」
その時、暗闇の中から警笛が鳴り響いた。
騒ぎを聞きつけた町の衛兵たちがようやく駆けつけて来たのだった。
8人の衛兵たちの足音が聞こえてくると、
残された盗賊たちは、さすがに劣勢を悟り散り散りに逃げていった。
「大丈夫ですか!?」
魔石をエネルギーとした魔道具らしきライトで周囲に倒れている盗賊たちを
確認した後、衛兵の1人がタケルに尋ねた。
「はい…なんとか」
毎晩、夜明け頃までケビンがタケルの体を使って剣を振り続けてくれていたおかげか、
タケルはそこまで肉体的な疲労は感じていなかった。
しかし、極限にまで集中し続けた精神的疲労でタケルはその場に膝をついた。
「こいつらは、指名手配中の盗賊団ですね。脱獄囚もいる」
衛兵の言葉はタケルの耳には届いていなかった。
「それにしても、お手柄ですね! これだけの人数を相手にして互角以上にやりあうとは、
見たところ冒険者のようですが、ランクは?」
「Hです」
「ハハハッ、ご冗談を。報奨金も出ますので、明日にでも役所にいらしてください。
それで、お名前を伺っておきたいのですが……」
衛兵が懐からメモ帳を取り出し、ごそごそとペンを握って顔を上げると、
そこにはもうタケルの姿はなかった。
闇夜に紛れて宿屋に戻って来たタケルは、自分のベッドに腰を落とすと、
ぐったりとそのまま横になった。
「あー疲れた」
「報奨金、もらわなくてよかったのか?」
「いいよ。だってあれはケビンのおかげだし。俺の手柄って勘違いされても困るから」
「おかげって、俺は……ちょっと動きを指示しただけだぞ」
「いいから、いいから。俺の体に入って体を動かしてくれたんだよね。ありがとう、
助けてくれて」
「はぁ?」
「俺にあんな動きができるはずないし。この変な疲れ方だって、
意識があるのに無理やり体を使って貰ったからだよね」
「だから、意識あったのに入れるはずないだろ」
「じゃあ、いつの間にか記憶失ってたのかな」
タケルは盗賊を相手に大立ち回りをしたのが、自分の力だとは思ってないようだった。
「本当にあれは……」
ケビンは、一向に信じようとはせずに疲れ切って耳を貸そうともしないタケルを見て、
それ以上説明をするのをやめた。
「まったく……」
面倒そうに椅子にふんぞり返るケビン。壁や体をすり抜けるケビンだったが、
自分の意思で物体をすり抜けないでいる事もできるようだった。
聞く耳を持たないタケルを面倒そうに横目で見ながらも、
「面倒な奴だけど、どうにも面白い奴に取り憑いちまってたみたいだな」
少し嬉しそうに微笑むケビンだった。
「ほう、いつの間にそんな度胸がついたんだ? 見直したぞ、タケル」
「そしたら、殴られてすぐに気絶すると思うんだ」
「…………」
「気を失ったら、この体を使ってアイツらをお縄にしてやって欲しい」
「なるほど、作戦はわかった……そん時は秒殺してやるから安心していい」
「よし、頼んだよ!」
「あ、ちょっと待て! タケル」
タケルは覚悟を決めて雄叫びを上げながら盗賊たちに殴りかかって行った。
すると、盗賊たちは次々と腰の剣を抜き始めた。
そして、殴りかかって来たタケル目掛けて先頭の男がその剣を振り抜く。
「あっぶねぇ!」
タケルはギリギリの所でその剣を交わし、一命を取り留めたが、
間髪置かずに次々と刃がタケルを襲って来る。
「待って! 剣で切られたら! 気を失う前に! 死んじゃうよ!」
ケビンが毎晩体を鍛えてくれているおかげで、体は一流アスリート並みに
仕上がっている。そこに元の世界で日夜ゲームに明け暮れて鍛え抜いた
反射神経が合わさり、紙一重でその攻撃を避ける事ができている。
紙一重とはいえ、見事な避け方ではない。本当にギリギリの
運良く避けられているレベルの紙一重だ。
「ケビン! 頼むから早く入って!」
「無理だ。入れない」
いつでもタケルの体に入れるようにスタンバイしているケビンだったが、
その体に入ってもすり抜けてしまう。
「何か、この状況を切り抜けられるいい方法はない!?」
「いい方法つってもなぁ……危ない、後ろ!」
ケビンの忠告に反応して、即座に振り返るタケル。
後方の死角からの攻撃をギリギリでかわす。
「前からも来てる!」
タケルは必死にそれに反応する。死を目前にして集中力だけは
極限まで研ぎ澄まされている。
「とにかく剣を抜け!」
ケビンに言われるがまま剣を抜き、
「右から来る。すぐ左もだ!」
そん声に反応して、右、左と相手の剣を受け流し、盗賊の防御が甘くなると、
「左のヤツの足を切れ!」
人を殴った記憶も無かったタケルだったが、無我夢中でケビンに言われるがまま、
タケルは剣を振り続けた。
「次、右を切り上げて後ろの首、その後ろの脇腹だ!」
タケルは自分が何をしているのかもわかっていなかった。
無我夢中でケビンの指示に従い剣を振り続けた。
そうしてしばらくすると、周囲を取り囲んでいた盗賊が6人ほどにまで減っていた。
「ハァ…ハァ…ハァ」
その時、暗闇の中から警笛が鳴り響いた。
騒ぎを聞きつけた町の衛兵たちがようやく駆けつけて来たのだった。
8人の衛兵たちの足音が聞こえてくると、
残された盗賊たちは、さすがに劣勢を悟り散り散りに逃げていった。
「大丈夫ですか!?」
魔石をエネルギーとした魔道具らしきライトで周囲に倒れている盗賊たちを
確認した後、衛兵の1人がタケルに尋ねた。
「はい…なんとか」
毎晩、夜明け頃までケビンがタケルの体を使って剣を振り続けてくれていたおかげか、
タケルはそこまで肉体的な疲労は感じていなかった。
しかし、極限にまで集中し続けた精神的疲労でタケルはその場に膝をついた。
「こいつらは、指名手配中の盗賊団ですね。脱獄囚もいる」
衛兵の言葉はタケルの耳には届いていなかった。
「それにしても、お手柄ですね! これだけの人数を相手にして互角以上にやりあうとは、
見たところ冒険者のようですが、ランクは?」
「Hです」
「ハハハッ、ご冗談を。報奨金も出ますので、明日にでも役所にいらしてください。
それで、お名前を伺っておきたいのですが……」
衛兵が懐からメモ帳を取り出し、ごそごそとペンを握って顔を上げると、
そこにはもうタケルの姿はなかった。
闇夜に紛れて宿屋に戻って来たタケルは、自分のベッドに腰を落とすと、
ぐったりとそのまま横になった。
「あー疲れた」
「報奨金、もらわなくてよかったのか?」
「いいよ。だってあれはケビンのおかげだし。俺の手柄って勘違いされても困るから」
「おかげって、俺は……ちょっと動きを指示しただけだぞ」
「いいから、いいから。俺の体に入って体を動かしてくれたんだよね。ありがとう、
助けてくれて」
「はぁ?」
「俺にあんな動きができるはずないし。この変な疲れ方だって、
意識があるのに無理やり体を使って貰ったからだよね」
「だから、意識あったのに入れるはずないだろ」
「じゃあ、いつの間にか記憶失ってたのかな」
タケルは盗賊を相手に大立ち回りをしたのが、自分の力だとは思ってないようだった。
「本当にあれは……」
ケビンは、一向に信じようとはせずに疲れ切って耳を貸そうともしないタケルを見て、
それ以上説明をするのをやめた。
「まったく……」
面倒そうに椅子にふんぞり返るケビン。壁や体をすり抜けるケビンだったが、
自分の意思で物体をすり抜けないでいる事もできるようだった。
聞く耳を持たないタケルを面倒そうに横目で見ながらも、
「面倒な奴だけど、どうにも面白い奴に取り憑いちまってたみたいだな」
少し嬉しそうに微笑むケビンだった。
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