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死に損なった、先の話
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しおりを挟む「お待ちしておりました、ヴェルフェウル様!」
「あぁ。もう皆様はお揃いか?」
「はっ、あの方を除き、全て揃っております!」
「…そうか。ご苦労」
そんな会話をしている横で。扉の向こうから聞こえてくる喧騒を聴きながら、俺は何となく理解した。
「(…………今日、俺はこの国の王様に、この国の法で、裁かれるのか)」
俺の事情など一切無視した、弁護人すらいないこの裁判場で、きっと抗弁することすら許されずに。
一方的な決めつけと、今まで行って来た行為によって、判決が下されるのだろう。
よくて死罪…悪ければきっと死ぬまでこの国に奉仕することになるだろうーー奴隷のように。
「おい、貴様」
ふと声をかけられ、顔を上げた。
礼服を着た男は、上の空だった俺を蔑むように見下ろして、決して無礼なことをするなと注意事項をつらつらと説明し始める。
それを聞きながら、ふと浮かんだ疑問を零した。
「……あの、これ。ルイズさんも知ってるんですか?」
刹那、無防備に見上げた首に衝撃が走る。
「ーーっ、」
「……貴様、」
声も出せないほど鋭く掴まれた首に、男の指が食い込む。
取り込める酸素が極端に薄くなり、目の前が明滅する。辛うじて上げた視線に映ったのは、ひどく激昂したように鋭い眼差しに憤怒を灯して、俺を見下す男の顔。
「どんな権利があって、あの方をそんな軽々しく呼ぶ」
「……っ?」
問われた言葉の意味が分からずに顔を歪めれば、男はそれさえも苛立ったようで、俺の首を絞めたまま壁に押し付けた。
ガンッ、と音がし、首がまた締まる。
「っ、ぁ……ぐ…っ、」
「お前のような野蛮な異人に、あの方の名前を呼ぶ権利など、塵ほども存在しない。世界に愛され、国に最大の利益を齎す、慈悲深い至高のお方だ! お前などの命では到底釣り合いの取れない、特別なお方だ…っ。この世界に呪われているお前とは違う……身の程を弁えろ!」
ルイズさんへの、敬意と。俺へのーーいや、これは『異人』への憎悪、だろうか。
そんな感情がぐちゃぐちゃに入り混じった男の叫びに、俺は何も応えることが出来なかった。
「(……………分かってる、そんなことは)」
俺がどれだけあの人に相応しくないかなんて、それこそ一番俺が感じているし、理解している。
この状況がどれだけ彼を貶めることになるのか。……それなのに、手を振り払っても、振りほどいても、彼は俺の手を離そうとしない。
それが義務感からなのか、同情からなのかは分からないけれど、拒絶し続けているのに諦めない彼に対して、この世界は、俺にどうしろというのだろう。
「………まぁ、いい。これから始まる裁判で痛感するといい。この世界は…、特にこの国は、お前に甘くなどない」
一頻り叫んで溜飲が下がったのか、男は俺の首から手を離し、歩き出す。
急に入ってきた酸素に咳き込みながら、よろよろと立ち上がりその後に続いた。
ーーその嫌味とも忠告とも取れる彼の言葉に、優しさは一欠片も存在はしなかったけど。でも、それが俺に対する男の最大の譲歩のような気がして、俺は言葉を返すのをやめた。
「(………これが、普通の反応だ。俺に対してするべき、正しい対応)」
あぁ、大丈夫。分かってる、十分すぎるほどに。
俺はこの世界の異物ーー『異人』。
過去に大いなる災害を齎し、この世界にとっては、未知で、おぞましく、そして何よりも招かれざる客なのだから。
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