ありふれた僕の異世界復讐劇

モカ

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復讐劇

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「…あと、もう一仕事、」
 
 
顔を上げ、そう呟くと一陣の風が吹いて、ずっと被ったままだったフードが頭から外れる。けれど、被り直すことはしない。もう、顔は隠さずとも良いのだから。

落とした視線の先、未だ広がる紅に混じる黒曜石を拾い上げた。
 
それはシノノメが肌身離さず持っていたペンダントで、このレジスタンスの白ローブたちの洗脳の核になっているものだ。
 
それを握り砕くと、洗脳の波動が切れるような感覚の後に、ここまで混沌とした事態の中でもひたすら立ち尽くし、俺の放ったつららにたたらを踏んでいただけの連中が、一斉に瞳に光を取り戻す。
 
そしてこの状況を鑑み、悲鳴を上げ、困惑に揺れる彼らに、自我が戻ったと安堵する。
 
しかし、ただ開放するだけでは事態は収束しない。傷に響くだろうなぁと思いながら、大きく息を吸い込み、
 
 
 
「―――聞け!!」
 
 
 
叫んだ。
 
それなりに距離があろうとも、木々も何にもない荒野では、俺の声を阻むものは何もない。
 
思ったよりも響いたことに驚きながら、驚愕と恐怖に固まった白ローブたちに向けて言葉を紡ぐ。
 
 
「――心の弱きものたちよ、この場にいることが自らの意志でないのなら、その白い反逆の象徴を脱ぎ捨て、去れ!」
 
 
ほとんどがそのはずだ。
 
彼らは魔法で洗脳されているだけで、そこに自分の意志はなかったはず。
 
だから、
 
 
「――ここは、戦場である!!」
 
 
言い切り、僅かな静寂の後、やっと自身の立たされた立場を理解した彼らは白ローブを脱ぎ捨て、一斉に敗走を始めた。
 
怒号と悲鳴と慟哭が混じりあい、荒野に木霊す。
 
そして、
 
 
 
「………やっと姿を現したな」
 
 
そこに残ったのは、本物の『反逆者』。
 
白ローブを纏いながらも、確かにこの場に自己の意志で立っている彼らこそが、シノノメたちを唆し、この計画の立案者にして首謀者。
 
片手でも足りるほどの数。白いフードの下から覗くのは、正義側と称するのは濁り切った憎悪に満ちた目。
 
その対象は今や、『国』から『俺』へとシフトしている。
 
 
「………貴様ァ!」
 
「―――この裏切り者がッ!」
 
「だからこんな子供を信用するなとあれほど………!」
 
「……どうしてどうしてどうしてどうしてどうして、あんなに洗脳魔法をかけたのに!!」
 
 
嘆く内容はそれぞれであれ、その殺意の行き先は寸分違わず、『俺』だ。
 
向けられる敵意に、ふと笑みを零した。
 
 
 
――どうやら、計画は上手くいったようだ。
 
 
 
この状況は、俺が何度も思い描いた光景だった。シノノメを殺し、この『革命軍』の首謀者を炙り出す。
 
ここまで出来れば、大したものではないだろうか。ただ一般人だった俺が、ここまでやり切れたのだから悔いなど、もはや微塵も、
 
 
 
『カナデ』
 
 
 
「……………、」
 
 
ふと過った声に、頭を振る。
 
こんな汚れ切ってしまった手で、触れていい思い出ではない。
 
思い出すことすら烏滸がましい。擦り切れそうになった意識が縋ろうと、これ以上求めていいものなんて、俺にはないのだから。
 
 
 
 
 
「―――サツキ!」
 
 
鋭く聴覚に飛び込んできた、淀んだ響きを持つそれに反応した時には遅かった。
 
顔を上げた先、ギラリと光る真っ赤に染まった瞳孔と、鈍く光る凶器を視認した時には、回避行動が起こせるほどの猶予は残されておらず、
 
 
「…ようやく、」
 
 
訪れる終焉に抗わずに、ゆっくりと視界を閉じ――
 
 
 
 
「カナデ!」
 
 
 
 
ギン!と刃が交じる音と、凛とした声色が聞こえ、目を見開いた。
 
 
眼前に靡く漆黒のマントに、揺れる銀髪。
 
思ってもみなかった展開に、思わず「え…?」と間抜けな声が出る。
 
しかし、剣を弾き返して相手を切り伏せた彼は、俺を振り返って泣きそうなほどに顔を歪めた。
 
 
「カナデ、」
 
 
言葉を詰まらせる彼の後ろで捕縛されていく反逆者たち。
 
最優先事項が一気に入れ替わり、状況の変化に戸惑うばかりの俺を、彼は案じるように見下ろす。
 
透き通る水色が陰り、銀色が陽の光を受けて煌く様に見惚れながら、呆然と思ったことは一つ。
 
 
「(…………覚えて…?)」
 
 
それは確かに、俺は異世界人ーー『異人』で。そうそう忘れるほどの他愛ない物事じゃないかもしれないけど。

それでも戦いの中に身を置き、激動であろうその人生に置いて俺なんてさして重要でないし、覚えていたところで、何の役にも立たないだろうに。
 
 
「……それなのに、」
 
 
覚えていてくれた。――あぁ、もう、俺はそれで…
 
 
「…カナデ?」
 
 
零した言葉に反応し、傷が痛むのかと痛ましげに顔を歪め聞いてくる彼が、眩しく感じた。
 
嘘偽りのない善意に、俺は出来うる限りの笑みを浮かべる。
 
 
「…ルイズ、さん、」
 
「何かな、カナデ。あぁいや、それよりも傷の手当てをしよう、相当深く刺さっている。かなり痛むだろう、」
 
 
「……もう、いいよ」
 
 
「――え、」
 
 
手を差し伸べる彼を振りほどき、痛む体を叱咤して数歩後退する。
 
そんな俺に混乱し、動かない彼に笑みを深め、脇腹に刺さったナイフを引き抜いた。
 
 
「カナデ!」
 
 
叱責するように掛けられる声。溢れる血。引き抜いたそれに付いた余分なものを払って、
 
 
 
「もう、それだけで十分だよ」
 
 
 
呟き、ナイフをかざすと、意図を汲み取った彼が一歩踏み出し、
 
 
 
 
「――ありがとう」
 
 
 
 
しかし、制されるよりも先に自身の致命傷に向け、ナイフを振り切った。




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