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復讐劇
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しおりを挟む「なら聞くけど! あの場面でお前の手を取らないという選択を俺ができたと本気で思ってんのか!? どんだけ能天気なんだよお前!! 俺が喜んでお前に協力したとでも? 自分を拷問した相手を本当に信頼できると? そもそも俺はお前とは立場がちげぇんだよ! そりゃ、お前はこの世界に落とされた理不尽の犠牲者かもしんねーよ、けどな、俺はそんなお前の野望のために巻き込まれた被害者なんだよ!! 世界や国よりもお前を恨んで何が悪い! むしろそれが筋ってもんだろ!? なんで気付けねぇんだよ、なんで考えねぇんだよ、そんなんだからこの世界の誰にも受け入れられねぇんだろうが!!」
「……………!!」
今まで冷静に受け答えしていた俺が急に声を荒げたからか、シノノメは目を見開いて動揺していた。
でも、すべて本音だった。ずっと彼にぶちまけたかった、紛れもない俺の本心。
よろめくように後退した彼が、ふと俯く。
「………最初から、同志などではなかったと」
「…はっ、人を自分勝手に巻き込んでおいてよく言う」
叫びすぎてかすれた声で呟いたシノノメを、鼻で嗤う。
ゆら、と顔を上げたシノノメは見たことのない無表情で俺を見、ナイフを持つ手に力を込めた。
「――…では、容赦など、しなくていいですね」
ぐ、と踏み出したシノノメが肉薄し、一瞬にして距離が詰まる。
「――…!」
僅かに交差した瞳には、すでに怒りは消えていて、鋭い殺意だけが灯っていた。
「――死ね」
低く構えられたナイフが、脇腹に深く突き刺さる感覚と共に、胃に流れ込んできた血液が喉を逆流し、口から溢れた。
ごぽ、と吐き出した血液がシノノメにかかり、殺意の灯る瞳が目的を達成し、消えようとしているのを見て、
思わず口角が吊り上がる。
「――だから、ツメが甘いんですよ」
「………ぐっ!?」
隠し持っていた小型ナイフを取り出し、無防備に晒された背中の心臓部に向け、思いっきり突き立て、念のために抉るようにして引き抜く。
聞くに堪えない悲鳴を上げ、見開かれた黒曜石の瞳が驚愕に染まり、俺よりも大量の血液を吐き出して、ふらふらと俺から離れる。
「…な、ぜ……、」
そう言いながらシノノメはその場に倒れ伏した。
激痛と自分が死にゆく事実に混乱しながらも、彼は俺に理由を問いただす。
その様は本当に愚かで、滑稽で、自身のエゴに満ちていて、一回りして憐れにも思えた。
「…殺す気で狙うなら、ここしかないでしょ」
「…………サ、ツキィィ……!」
慟哭を上げ、憎悪に身を焦がしながら、何も出来ずにシノノメは絶命した。
しとどに滴る紅を見下ろして、ほっと、息を吐く。
「――っ、」
気が抜けたからか、今更ながらに脇腹の傷が痛みを持って意識に訴えかけてきた。
膝を着きそうになって、しかしそれは寸でで堪えた。
ここで膝を折ってしまえば、もう二度と立ち上がれない気がしたから。
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