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9章、魔法学園、本格始動

第68話

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 魔法学園にあるダンジョンはファーストダンジョンと呼ばれている。魔法使いが最初に入るダンジョンだからだ。
 しかしファーストダンジョンは甘いダンジョンではない。学生たちは10階層辺りで経験を積むが、ダンジョンの最大到達階数は50階層まで、最下層が何階になるのか知られてもいないダンジョンだった。

 「最下層まで探索出来ないのは魔法学園内にあるのが原因ですね。魔法学園に学園関係者以外は入れないですし、たった3年の学生生活では到達出来る階層に限界があります」
 レザードが私に説明してくれる。
 「そんなこと、どうでもいいわ。5階層まで行って戻って来るのが今日の課題でしょう。さっさと済ませましょう」
 カレンが苛立ったように言った。
 「そうだな、女性に難しいことを言っても意味がない。
 課題を終わらすことを優先しよう」
 ユーリがカレンに微笑んだが、それって女性蔑視だよね。私はそう思うんだけど、カレンは同意されて嬉しいみたい。

 「意味はある。最下層まで攻略されていないダンジョンは変異を起こしやすい。レザードはそれを言いたいのだろう」
 ガイが言った。
 「ダンジョンの変異って、どんなことが起こるの?」
 「その階層に見合わないような強い魔獣が現れることがある」
 「そんなの1000回や2000回に一度のことだろう。よっぽど運が悪くないと当たらないよ」
 ユーリがのんきなことを言うけど、私は運の悪さに自信がある。
 落馬し、川で流され、熱病に罹り、毒を飲まされる。歩けばストーカーに目をつけられ、うっかり聖女様なんかになってしまう。運が悪いこと、この上ない。
 私がガイを見つめると、ガイも同じ事を考えていたみたい。
 「神は愛し子を鍛える為に敢えて試練を与えると言われている。
 聖女を抱えている俺たちは殊更に気をつけるべきだ」
 「はぁい」
 カレンが気のない返事をした。

 「あっ、そこに段差があるよ」
 ユーリが婚約者候補のケイトを放っておいて、カレンに手を差し出した。
 「ユーリ様、ありがとうございます」
 カレンはユーリの手を取って赤くなっている。満更でもない様子だ。
 カレンってレザードの悪役令嬢だよね?ユーリでもいいのかな?
 悪役令嬢って悪役だけあって怖いけど、一途なイメージがあった。キャサリン様はエドワード王子一筋だし、ケイトにはユーリしか見えていない。
 悪役令嬢でも色んなタイプがあるのかも知れない。
 ユーリとカレンはダンジョン内とは思えないくらいベタベタとイチャついていた。

 今回は私の悪運も仕事をしなかったようで、弱い魔獣を倒して5階層から普通に戻って来れた。何にもなくてよかったとホッとしたのも束の間、私は泣き出してしまったケイトにしがみ付かれた。

 好きな人が他の人とイチャイチャしてたら、それは辛いよね。それも目の前で。
 私はケイトを慰めながら、このパーティーメンバーで本当にやって行けるのか不安になった。
 
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