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8章、ライメルスの聖女様
第63話[ガイ視点]
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ジュリアに会いたくて王都に戻ったのに、なかなか会う事が出来なかった。
王宮にいると聞いて会いに行っても、聖女に会いたい人間が長蛇の列を作り、たとえ学友であっても会わせてもらえない。
聖女様として王宮のバルコニーで挨拶したときに、また倒れたと聞いた。心配だけど俺は何も出来ずにいた。
心を落ち着けて、今出来る事を考える。
ジュリアは聖女様になった。今までの聖女のあり方を考えても安全な場所にいられるとは思えない。聖女様はいつも危険の中心にいた。
ジュリアを守ろうと思えば力が必要になる。戦いの中心に立てるだけの力が‥‥。
結局出来る事といえば道場で鍛錬する事しか思い浮かばない。
目標は高く‥次はザック伯父上にも親父にも負けない。ジュリアの前に少しの危険も通さない強さが欲しい。
王宮からの使いが俺のもとに来た。ジュリアが俺に会いたがっていると言われた。
嬉しさから顔が綻ぶ。
王宮に行くとクーリエ先生が迎えに来た。ジュリアが心労から弱ってしまっていると聞かされた。
「ガイ・ハベル、君のことだから分かっていると思うがジュリアを刺激するような話しは避けて欲しい」
「何かあったんですか?」
「ロンメル伯爵家が襲撃されたことは知っているか?」
「噂で聞きました」
民衆が集団になって暴走した。聖女の為だと起こされた嫌な事件だった。
「侍女の一人がそれをジュリアに伝えた。聖女様に気に入られたかったらしい」
「ジュリアは他人の話であっても血生臭い話は好きじゃないのに‥」
「それは王宮の人間にも伝えていた。自分に毒を用意した一族の話なら喜ぶと思ったみたいだ。ジュリアはそれから食事を取れていない」
「分かりました。細心の注意をはらいます」
久々に会えたジュリアはやつれていた。眠れていないみたいで目の下にくっきりとした隈があった。それでも俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
ジュリアは聖女様への期待に押し潰されそうになっていた。
俺に抱きついて泣きじゃくるジュリアを肩をそっと抱きよせた。細い肩だ。俺がちょっと力をいれたら折れてしまいそうでこわくなる。
ジュリアが俺にお願いがあると言った。護衛騎士になって欲しいと頼まれた。
ジュリアの側にいて守ることが出来る。俺がそれを断るはずがない。
「側にいてくれる?」とジュリアが俺に尋ねる。
「ずっと側にいる」と約束するとジュリアは安心したように眠ってしまった。
まるで恋人同士の愛の囁きのようだが、ジュリアの心は幼い。俺を男として見ているわけではない。
それでもジュリアに求められると、それだけで嬉しい。
「君のジュリアに対する影響力は大したものだな」
眠りについたジュリアを見てクーリエ先生が言った。
「すぐに君に護衛騎士としての仕事を頼みたい。
本来、学生の護衛騎士は学園の中だけの仕事だが、ジュリアが見ての通り不安定だ。毎日少しでも王宮に顔を出して貰いたい」
「分かりました」
それからジュリアが目を覚ますまで、俺は彼女の隣にいた。
目を覚ましたジュリアは慌てたようにキョロキョロして、俺を見つけるとホッとしたように息を吐いた。
寮に帰らなければいけない時間になると、ジュリアが泣き出しそうな顔になった。
「また明日な」
「うん、また明日会おうね」
愛しいという気持ちが初めて分かった気がした。
王宮にいると聞いて会いに行っても、聖女に会いたい人間が長蛇の列を作り、たとえ学友であっても会わせてもらえない。
聖女様として王宮のバルコニーで挨拶したときに、また倒れたと聞いた。心配だけど俺は何も出来ずにいた。
心を落ち着けて、今出来る事を考える。
ジュリアは聖女様になった。今までの聖女のあり方を考えても安全な場所にいられるとは思えない。聖女様はいつも危険の中心にいた。
ジュリアを守ろうと思えば力が必要になる。戦いの中心に立てるだけの力が‥‥。
結局出来る事といえば道場で鍛錬する事しか思い浮かばない。
目標は高く‥次はザック伯父上にも親父にも負けない。ジュリアの前に少しの危険も通さない強さが欲しい。
王宮からの使いが俺のもとに来た。ジュリアが俺に会いたがっていると言われた。
嬉しさから顔が綻ぶ。
王宮に行くとクーリエ先生が迎えに来た。ジュリアが心労から弱ってしまっていると聞かされた。
「ガイ・ハベル、君のことだから分かっていると思うがジュリアを刺激するような話しは避けて欲しい」
「何かあったんですか?」
「ロンメル伯爵家が襲撃されたことは知っているか?」
「噂で聞きました」
民衆が集団になって暴走した。聖女の為だと起こされた嫌な事件だった。
「侍女の一人がそれをジュリアに伝えた。聖女様に気に入られたかったらしい」
「ジュリアは他人の話であっても血生臭い話は好きじゃないのに‥」
「それは王宮の人間にも伝えていた。自分に毒を用意した一族の話なら喜ぶと思ったみたいだ。ジュリアはそれから食事を取れていない」
「分かりました。細心の注意をはらいます」
久々に会えたジュリアはやつれていた。眠れていないみたいで目の下にくっきりとした隈があった。それでも俺を見て嬉しそうに微笑んだ。
ジュリアは聖女様への期待に押し潰されそうになっていた。
俺に抱きついて泣きじゃくるジュリアを肩をそっと抱きよせた。細い肩だ。俺がちょっと力をいれたら折れてしまいそうでこわくなる。
ジュリアが俺にお願いがあると言った。護衛騎士になって欲しいと頼まれた。
ジュリアの側にいて守ることが出来る。俺がそれを断るはずがない。
「側にいてくれる?」とジュリアが俺に尋ねる。
「ずっと側にいる」と約束するとジュリアは安心したように眠ってしまった。
まるで恋人同士の愛の囁きのようだが、ジュリアの心は幼い。俺を男として見ているわけではない。
それでもジュリアに求められると、それだけで嬉しい。
「君のジュリアに対する影響力は大したものだな」
眠りについたジュリアを見てクーリエ先生が言った。
「すぐに君に護衛騎士としての仕事を頼みたい。
本来、学生の護衛騎士は学園の中だけの仕事だが、ジュリアが見ての通り不安定だ。毎日少しでも王宮に顔を出して貰いたい」
「分かりました」
それからジュリアが目を覚ますまで、俺は彼女の隣にいた。
目を覚ましたジュリアは慌てたようにキョロキョロして、俺を見つけるとホッとしたように息を吐いた。
寮に帰らなければいけない時間になると、ジュリアが泣き出しそうな顔になった。
「また明日な」
「うん、また明日会おうね」
愛しいという気持ちが初めて分かった気がした。
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