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8章、ライメルスの聖女様

第62話

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 ガイに連絡を入れるとガイはすぐに王宮まで来てくれた。
 道場で鍛錬をしていたらしい。

 「練習の邪魔をしてごめんね」
 「いや、俺もジュリアに会いたかったから連絡してくれて嬉しい」
 ガイがそう言って笑った。琥珀色の瞳が優しく細められた。
 私が聖女になってもガイの態度は何も変わらない。ガイに会ってホッとした。

 私は体調不良でまともに立てないし動けない。主治医のクーリエ先生に付き添ってもらって、ベッドに横になったままの対面だった。

 「眠れてないのか?」
 ガイが私の頬に手をあてて訊いた。
 「うん、目の下が隈だらけだよね」
 明るく喋りたいけど、泣きそうになる。
 「私ね、聖女になって、こんな大騒ぎになってから、聖女がどんな存在か気づいたの。馬鹿だよね」
 笑おうとして涙が溢れる。
 「ユニコーンが見えていたんだろう。聖獣が勝手に選ぶんだ」
 「ホーン男爵領から王都に出て来て、すぐにユニコーンを見たの。でもユニコーンが見えるのが聖女なんて知らなかった。
 キャサリン様に教えてもらって初めて知ったの。聖属性の魔法で私の病気が治るって知って、ユニコーンを探し始めたの。私、聖女様なんかじゃないよ。自分のことばっかりなんだもの」
 「体が悪かったら治したいと思うのは普通のことだ」
 「聖女様は民衆の為に尽くすものなのでしょ?
 ガイ、私、コワイの。みんなが私に聖女様を求めても私には何にもないんだもの!」
 ガイが私を抱きしめて私の背中を撫でてくれた。
 私はガイにしがみ付いて泣いた。わんわん泣いた。聖女の私を求める人が見たら幻滅するだろう。でもガイはそんな事関係ないと言ってくれた。
 「ジュリアはそのままでいいんだ」
 「何も出来なくても?」
 「ああ、聖女様はそこにいるだけでいい。笑ってくれたらもっといいけどな」
 ガイが涙でぐちゃぐちゃの私の顔を拭いてくれた。
 
 「ガイ、あのね、お願いがあるの。もしダメだったら断っていいんだけど」
 「ん、何だ?」
 「私の護衛騎士になってくれる?ガイのやりたい事の邪魔になるようなら、断ってくれて構わないんだけど‥」
 「俺が護衛騎士で構わないのか?」
 「ガイがいいの。でも聖女様の護衛騎士の打診を受けたら断りずらいでしょう。
 だから正直に話して。私の護衛騎士をするのは迷惑じゃない?」
 「俺で良いのなら是非やりたい。ジュリアを守ること以上にやりたい事なんて、今の俺にはないからな」
 「ホントに?」
 「ああ」
 「ずっと側にいてくれる?」
 「ああ、ずっと側にいる」
 ガイの言葉を聞いていると心がポカポカと温かくなる。
 ずっと碌に眠れなかったのに、急に眠気が襲って来た。
 「なんだか眠くなって来ちゃった」
 「碌に寝てないんだろ、このまま眠って構わないぞ」
 「寝ている間にどこかに行ってしまわない?」
 「このままジュリアの隣で手を繋いでいる」
 ガイが私の手をギュッと握って言った。
 「うん、ガイがいれば大丈夫」
 私は手を握ったまま眠りに落ちた。
 久々に怖い夢から解放されて深い眠りに落ちていった。
 私の隣でガイとクーリエ先生が何か話していたけど、眠くて何も聞き取れなかった。
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