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8章、ライメルスの聖女様
第59話[ガイ視点]
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今年の武闘大会は相当の覚悟で挑んだのに、3回戦でザック伯父上に負けた。伯父上の攻撃はひとつひとつが重く、俺は舞台上から弾き飛ばされた。リングアウトだ。
「まだまだだな」と言って伯父上が笑う。
伯父上は武術に優れるだけでなく魔力量も親父と変わらないオレンジだ。準貴族をやっているのが不思議な人間だが、ハベルには割とこんな人材が埋もれている。
その伯父上に決勝戦で親父が勝って、ハベルの領主であるところを見せつけて武闘大会は終わった。
武闘大会が終われば毎年恒例の酒宴だ。酒豪ばかりが集まっているから、用意されている酒の量はハンパない。
俺は15歳になった去年から酒宴に参加させられている。
さあ、酒宴を始めようとしたときに、王都から来た人間がとんでもない情報を持ち込んだ。
「ハベル様、王都に聖女様が現れました!」
情報は力だ。王都の道場主が馬を走らせて、ハベル家に知らせに来てくれた。
「聖女様、今度は本物なのか?」
親父が確認した。何年か前に自称聖女様が現れたことがある。まったくの偽物だったが。
「間違いなく本物です。白い光の柱が立ち昇りました。
俺も見ましたし、王都の広い範囲で目撃されています」
親父とザック伯父上が顔を見合わせて頷いた。
「荒れるな」とザック伯父上が呟いた。
「そうだな、波乱の時代が来る。一族の者に知らせて戦いの準備を始めなくてはならないな」
親父が早速動き出す。
「聖女様が現れて、戦いの準備を始めるのか?」
意味が分からない俺にザック伯父上が言った。
「今まで聖女様が現れたのはどんな時代だ?」
「この大陸に移住した時と魔獣が氾濫した時だ。また何か起こりそうなのか?」
「南方が危うい。もう何年も前から警告はされていたんだ。
南方の公爵家、侯爵家の力が落ちて来ている。魔獣を狩る量が落ちて魔獣の量が増え過ぎている。そこへ持ってきて聖女様の降臨だ。神々は意味もなく聖女の力を与えない。何かが起こるんだ」
「そういえば新たな聖女様はどんな人間なんだろう?」
俺は当たり前の疑問を口にした。
「まだはっきりした情報は入っていません。銀髪の少女であるとだけ‥」
「銀髪、王族か?いや、王族で少女と呼べる年齢なのは6歳の王女様だけか。王女は黒髪だ。高位貴族の娘に銀髪の娘はいたか?」
「最近、金髪も銀髪も聞いてないな。どこの娘だ?」
「ジュリアだ!」
俺の頭に銀髪にスミレ色の瞳を持つ少女の姿が思い浮かんだ。
「何だ。知り合いか?」
「ホーン男爵家の長女だ。俺と同級生の‥」
「男爵家なのに銀髪の娘なのか?そういえば妖精姫のところに王女の息子が婿養子に入ったな。あの男が銀髪だったか」
俺は呆然とした。今までも高嶺の花だと感じていたが、もうそれどころじゃない。
「ガイ、どうした?」
ぼうっと立ち尽くしている俺にザック伯父上が声をかけた。
「俺、王都に戻る。王都へ戻ってジュリアのもとに駆けつけてやらないと」
ジュリアが泣いているような気がした。
ちょっと目を離すと、とんでもないことに顔を突っ込んでる。
あいつは聖女様なんて柄じゃない。なのに何で聖女様になんてなっているんだよ。
「親父、ハベル家に聖女様を連れ帰ったらダメか?」
「大きく出たな。お前が惚れてんのなら何でもいい、連れて帰って来い!」
朝を待ってすぐに王都へと馬車を走らせた。
一分でも一秒でも早くジュリアに会いたかった。
「まだまだだな」と言って伯父上が笑う。
伯父上は武術に優れるだけでなく魔力量も親父と変わらないオレンジだ。準貴族をやっているのが不思議な人間だが、ハベルには割とこんな人材が埋もれている。
その伯父上に決勝戦で親父が勝って、ハベルの領主であるところを見せつけて武闘大会は終わった。
武闘大会が終われば毎年恒例の酒宴だ。酒豪ばかりが集まっているから、用意されている酒の量はハンパない。
俺は15歳になった去年から酒宴に参加させられている。
さあ、酒宴を始めようとしたときに、王都から来た人間がとんでもない情報を持ち込んだ。
「ハベル様、王都に聖女様が現れました!」
情報は力だ。王都の道場主が馬を走らせて、ハベル家に知らせに来てくれた。
「聖女様、今度は本物なのか?」
親父が確認した。何年か前に自称聖女様が現れたことがある。まったくの偽物だったが。
「間違いなく本物です。白い光の柱が立ち昇りました。
俺も見ましたし、王都の広い範囲で目撃されています」
親父とザック伯父上が顔を見合わせて頷いた。
「荒れるな」とザック伯父上が呟いた。
「そうだな、波乱の時代が来る。一族の者に知らせて戦いの準備を始めなくてはならないな」
親父が早速動き出す。
「聖女様が現れて、戦いの準備を始めるのか?」
意味が分からない俺にザック伯父上が言った。
「今まで聖女様が現れたのはどんな時代だ?」
「この大陸に移住した時と魔獣が氾濫した時だ。また何か起こりそうなのか?」
「南方が危うい。もう何年も前から警告はされていたんだ。
南方の公爵家、侯爵家の力が落ちて来ている。魔獣を狩る量が落ちて魔獣の量が増え過ぎている。そこへ持ってきて聖女様の降臨だ。神々は意味もなく聖女の力を与えない。何かが起こるんだ」
「そういえば新たな聖女様はどんな人間なんだろう?」
俺は当たり前の疑問を口にした。
「まだはっきりした情報は入っていません。銀髪の少女であるとだけ‥」
「銀髪、王族か?いや、王族で少女と呼べる年齢なのは6歳の王女様だけか。王女は黒髪だ。高位貴族の娘に銀髪の娘はいたか?」
「最近、金髪も銀髪も聞いてないな。どこの娘だ?」
「ジュリアだ!」
俺の頭に銀髪にスミレ色の瞳を持つ少女の姿が思い浮かんだ。
「何だ。知り合いか?」
「ホーン男爵家の長女だ。俺と同級生の‥」
「男爵家なのに銀髪の娘なのか?そういえば妖精姫のところに王女の息子が婿養子に入ったな。あの男が銀髪だったか」
俺は呆然とした。今までも高嶺の花だと感じていたが、もうそれどころじゃない。
「ガイ、どうした?」
ぼうっと立ち尽くしている俺にザック伯父上が声をかけた。
「俺、王都に戻る。王都へ戻ってジュリアのもとに駆けつけてやらないと」
ジュリアが泣いているような気がした。
ちょっと目を離すと、とんでもないことに顔を突っ込んでる。
あいつは聖女様なんて柄じゃない。なのに何で聖女様になんてなっているんだよ。
「親父、ハベル家に聖女様を連れ帰ったらダメか?」
「大きく出たな。お前が惚れてんのなら何でもいい、連れて帰って来い!」
朝を待ってすぐに王都へと馬車を走らせた。
一分でも一秒でも早くジュリアに会いたかった。
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