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7章、ユニコーンを探せ

第56話

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 ユニコーンと見つめ合いながら、私は途方に暮れていた。出会えた後のことを全く考えていなかった。

 ええと、召喚獣契約ってどうすれば良いの?調べてみたけど本には載っていなかった。

 「あ、あの、はじめまして。私はジュリア・ホーンです」
 人間関係の基本は挨拶だ。相手は人間ではないけど、取り敢えず基本は抑えておこう。
 「ジュリア姉さん、どうしたの?」
 ウォルターがぽかんとした顔をした。
 そうか、ウォルターには見えてないんだ。私が何もない空間に向かって喋り出したように見えたはずだ。
 「あのね、ウォルター。そこにユニコーンがいるの」
 「どこに?」
 「その草むらのところ。えっ、信じてくれるの?」
 「姉さんはくだらない冗談は言うけど、こんな嘘は吐かないよ」
 私はユニコーンがいると言っても信じてもらえるなんて思わなかった。毒が頭に回ったと思われそうじゃない。

 『娘よ、やはり我が見えるのだな』
 「は、はい、見えております」
 ユニコーンの声が頭に響いて、私は慌てて返事をした。
 『そうか、見えていながら我をずっと無視していたのだな』
 「うっ、そ、それは‥‥」
 『無視していたのだな!』
 ユニコーンの不機嫌そうな声が頭に響き渡る。

 「ごめんなさい」
 もう平謝りするしかない。
 「ユニコーンさんと目を合わせてはいけないと勘違いしていました!」
 『は、‥‥何故そんな馬鹿な勘違いをした』
 「王都に入った時に馬車を追って来たのが怖かったんです」
 『我は聖獣ユニコーンだぞ。何が怖いと言うのだ』
 「ごめんなさい。私、頭を打って記憶を失っていまして、ユニコーンさんが聖獣だと知らなかったんです」

 『其方の気配を感じて探しに行った我を無視しておきながら、今さら我に何の用がある?』
 ユニコーンの私に対する心証は非常に悪いみたい。そうだよね、ずっと無視していたんだから。さすがに毒を飲まされて体調が悪いから召喚獣契約してください、なんて言えない雰囲気だ。
 「それは‥」
 『言えないような用なのか?さっさと言え』
 「私と召喚獣契約してください!」
 思わず言ってしまった。
 『嫌だ』
 ユニコーンがプイッと横を向いた。
 「そうですよね」
 まあ、それはそうだ。ずっと無視してきたんだから。

 『何故、今さら我と召喚獣契約などしたがる?』
 「実は私、ずっと毒を飲まされ続けて体が弱いんです。聖属性の魔法でそれが治ると聞いてユニコーンさんを探していました」
 『なんだと!』
 ユニコーンの怒声が響き渡った。
 大地が揺れる。ユニコーンの怒りは相当なものだ。
 『どこの馬鹿が我の聖女に毒を盛った。我が八つ裂きにしてくれる!』
 急に突風が吹いて木々を震わせた。
 これ、ユニコーンがしているの?
 「落ち着いてください。もう私に毒を盛った犯人は捕まっているんです」
 『赦さぬ、絶対に赦さぬ!』
 「ジュリア姉さんに毒を盛っていたニーナは罰せられました。もうこの世にはおりません」
 ウォルターが口を挟んだ。
 「ウォルターにもユニコーンが見えるの?」
 「見えてはいない。だが声が聞こえた」
 『お前は我が聖女の弟か。何故毒を与えた者を聖女に近寄らせた』
 「申し訳ありません」
 ウォルターがユニコーンに向かって頭を下げた。
 「ユニコーンさん、ウォルターは悪くないの。私が川で流されて死にそうになった時もウォルターは命がけで助けてくれたんだよ」
 『我が聖女はそんな目にあっていたのか。これからは我が守ろう。我に名をつけよ』
 ユニコーンが私の瞳をジッと見つめてきた。
 その黒い瞳が私に日本の家族を思い起こさせた。お父さん、お母さん、末っ子のくるみ、わんぱく坊主の拳士郎、反抗期の総次郎、いつも優しかった光太郎兄さん。
 いつの間にか、私の目の前に光太郎兄さんが立っていた。
 『我に名をつけよ』と目の前の光太郎兄さんが言った。
 そうか、これは兄さんではない。ユニコーンの仮の姿だ。私の記憶の中から光太郎兄さんの姿を拾ってきたんだ。
 光太郎兄さんではないから、そう呼ぶのは変だ。でもこんなに似ているとまったく違う名前も違和感が残る。
 お母さんが兄さんを呼ぶときの愛称が頭に浮かんだ。
 「こうちゃん」
 私がユニコーンに呼びかけた途端に眩しい閃光が辺りを照らした。
 白い光の柱が私と光太郎兄さんの姿を包み込んだ。
 まるでスポットライトを浴びているみたい。
 お祭りの日に白い光を浴びている私は最高に目立っている。もう、とんでもなく目立っている。
 「取り敢えず、ここから逃げよう」
 ウォルターが私を抱き上げてそのまま走り出した。私たちの後を兄さんの姿をしたユニコーンが付いて来た。
 
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