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7章、ユニコーンを探せ

第50話[ウォルター視点]

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 ジュリア姉さんが王宮治療院を退院したのは冬休みの2週間前だった。
 俺が冬休みが終わってから学園に戻ればいいと言ったのに、姉さんはすぐに魔法学園に戻って行った。

 留年したくないからとジュリア姉さんは言う。
 留年すればいいのに、そうしたら俺と同じ学年になる。でも、さすがにそんな事は言えない。

 ジュリア姉さんが登校を再開した日、俺は少し遠くから姉さんを見つめていた。
 これじゃ姉さんに付き纏ってきたストーカーみたいだ。

 寮の前でガイ・ハベルが待っている。
 女子寮から出てきたジュリア姉さんが嬉しそうにハベルさんに飛びついた。

 胸がギュッと苦しくなる。
 ジュリア姉さんを好きになる男は昔から沢山いた。でも、俺より親しくなった男はひとりもいない。このまま自然の流れで俺とジュリア姉さんは結婚するものだと思っていた。

 俺は考える。ジュリア姉さんとハベルさんはまだ恋人ではない。お互いに惹かれあっていても、未だそれを言葉にしていない。ジュリア姉さんは色恋に疎いから自分の気持ちに気づいていないかもしれない。

 今までジュリア姉さんの弟として隣りにいた。怖がりな姉さんに男だと意識され逃げられたくなかった。弟のままいつの間にか婚約者になり、結婚する。その流れでいいと思っていた。

 でも、それじゃ駄目だ。本気で落とさなければジュリア姉さんを奪われてしまう。

 冬休み、ハベルさんは帰省するらしい。ジュリア姉さんは王都の男爵家の別邸で過ごすことになった。

 両親は男爵領に戻ったままだ。ジュリア姉さんと別邸でずっと二人でいられる。

 年末年始は俺が任されている仕事もない。
 別邸で過ごすだけでなく、少し遠出するのも悪くない。
 いかにも女性が好きそうな場所を姉さんは好まない。自然に囲まれた少し変わった穴場を探してみよう。

 いつもと違う場所で、弟でなく男としての俺を意識させる。
 それから‥‥。

 ジュリア姉さんの美しい銀髪とスミレ色の瞳を思い起こす。
 誰にも渡したくない。それが人間として尊敬できるガイ・ハベルだとしても。

 ハベルさんが毒殺未遂事件の時、俺のためにしてくれた事に感謝している。でも、それとこれとは話が違う。

 俺だってジュリア姉さんを幸せにできるようにと努力してきたんだ。姉さんは絶対に渡さない。
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