上 下
44 / 69
6章、悪役令嬢の登場

第44話

しおりを挟む
 私が王宮治療院を退院出来たのは12月に入ってからだった。結局1か月も入院してしまった。もう、あと2週間で冬休みが来てしまう。

 ウォルターは冬休みが終わってから魔法学園に戻った方がいいと言っていたけど、私は少しでも早く学園に帰りたかった。

 久しぶりに学園に通うために寮を出ると、私が戻って来たことを知っていたガイが寮の前で待っていてくれた。
 「ガイ!」
 久しぶりの登校が嬉しくて小走りでガイに駆け寄った。
 「走ったりして大丈夫なのか?」
 「うん、大丈夫だよ。久しぶりに学園に行けるのが嬉しくって!」
 私はガイに飛び付いた。
 ガイがひょいっと私を抱き上げる。
 「今日は自分で歩かないのか?」
 「うん、まだペースが掴めないから‥‥」
 私はガイの首にしがみつく。ホッとする匂いがした。

 魔法の授業は私がいない1か月のうちに大分進んでいた。冬休みの後からダンジョンに挑むことになっている。
 私が不安になっているとガイが言った。
 「ジュリアは俺とおんなじパーティーに入っている。体力の無さは俺がカバーしてやるから、魔法の練習だけしとけよ。ジュリアの魔力の多さに期待してるからな」

 ガイが中級魔法の練習をする中、私は初級魔法の練習だ。
 でも初級魔法の練習をしているのは私だけじゃない。魔力量の問題で初級魔法しか撃てない人もいる。私を入れて5人の人間が的に向かって初級魔法の練習をしていた。

 自分の魔力の限界を知るのも大切だと言われたけど、私は初級魔法ならいくらでも撃てるみたい。魔法の先生もすぐに中級に移っても大丈夫だと言ってくれた。
 思ったよりも遅れてなくて安心した。

 ガイがいないと付き纏って来た面倒くさい人たちが私に近づかなくなった。私が毒の影響で子供を望めないらしいと噂されたからだ。
 どこから情報が漏れたのかな?ガイが腹を立てていたけど、私はむしろ清々していた。

 ガイが側にいるだけで私の心は安定する。依存しちゃダメだと思いながら、私のガイ依存は進んでいる。

 何の問題もなく冬休みに入れるかと思ったら、第2王子のエドワード殿下が私を訪ねて教室にやって来た。護衛のカイルも不機嫌そうな顔でついて来ている。
 「何か御用でしょうか?」
 「ああ、コレを君に頼まれたんだ」
 私は封筒をエドワード殿下から渡された。
 王子を使いっ走りにするなんて誰だよ。裏返してみると、ディビットと名前が書かれていた。
 「弟が君によろしくと言っていたよ。いつの間に手紙のやり取りをする程仲良くなったか聞いてもいいかな?」
 「入院中に偶然出会いまして、それから病室を訪ねて下さるようになりました」
 「会いたがっていたから連絡してあげて」

 第2王子はそれだけ言うと去って行ったが、話はそれだけでは済まなかった。
 すぐにキャサリン・ルアーノ公爵令嬢がやって来たのだ。
 ルアーノ公爵令嬢は有名人だ。エドワード王子の婚約者候補として第2王子と少しでも仲良くしている人に苦情を言いに来る。

 真っ赤な髪とエメラルド色の瞳、私を睨みつける目つきはまさに悪役令嬢そのもの。

 「ジュリア・ホーン、あなたに話があるの。わたくしについていらっしゃい」
 呼び出された私は手首を掴まれて、ルアーノ公爵令嬢にそのまま連行されて行った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

婚約破棄された悪役令嬢は王子様に溺愛される

白雪みなと
恋愛
「彼女ができたから婚約破棄させてくれ」正式な結婚まであと二年というある日、婚約破棄から告げられたのは婚約破棄だった。だけど、なぜか数時間後に王子から溺愛されて!?

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

処理中です...