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4章、弟がやって来た

第36話

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 ウォルターと話した後、私はまた熱を出した。

 ガイなら絶対に証言してくれると安心してしまったのかも知れない。
 それまでウォルターを助けなければと張っていた気が緩み、毒の影響からか体が全く動かなくなった。

 熱に魘されながら沢山の夢を見た。
 それはなつめの思い出だったりジュリアの子供の頃の思い出だったりした。

 ウォルターに初めて会った時、ジュリアは父親の影に隠れて、なんて綺麗な男の子だろうとウォルターに見惚れていた。ジュリアの初恋だった。

 ウォルターが養子として我が家に来たとき、ジュリアは嬉しい気持ちと両親を取られてしまいそうな不安の両方を感じていた。

 川に流されたことを思い出してから、少しずつ記憶を取り戻していた。虫食いだらけの歪な記憶。
 今迄は落馬事故の前のことは思い出せなかった。落馬事故の後はなつめ、その以前はジュリアだと思っていた。でも私はジュリアでもあったみたいだ。

 熱でぼんやりしながらお見舞いに来てくれたガイに会った。
 またげっそりとやつれてしまった私を見てガイが涙目になっている。
 「体調が悪いのには慣れているから大丈夫だよ。
 それよりウォルターのこと証言してくれてありがとう」
 「そんなの当たり前だろう」とガイが言った。

 そうだよね、ガイにとっては当たり前のことだ。
 だから私は安心してガイに甘えてしまう。

 「私ね、ずっと毒を飲まされて来たから何処まで体が戻るか分からないんだって。
 子供も産めないかも知れない。こんな体じゃ誰もお嫁さんにしてくれないよね」

 医師に子供が望めないかもと言われてショックを受けた。
 私はなつめの実家みたいな子供が沢山いる家庭を夢見ていた。誰とかは未だ分からないけれど、いつか賑やかな家庭で幸せに暮らしたかった。

 「ジュリアが子供を産めなくてもジュリアを嫁に欲しがる奴はいる。少なくとも一人は確実にいる」
 「ウォルターのこと?ウォルターは責任感が強いからそう言うかも」
 「ウォルターだけじゃない。ジュリアは魅力的だから子供なんかいなくてもイイって言う奴は大勢現れる」
 「子供なんかって、貴族は子孫を残すことが大切なんじゃない」
 「貴族なんて余っているんだ。後継ぎが必要なら養子を貰えばいい。
 準貴族になっちまえばもっと簡単だ。夫婦で幸せに暮らせばイイだけだ」
 ガイが簡単なことみたいに言う。
 私の心が少し軽くなる。

 「私、結婚出来るかな?」
 「ジュリアは絶対に結婚出来る。俺が保証してやる」

 どうしてだろう、ガイが言うなら間違いないと思ってしまう。

 「もう毒を飲まされることもない。ジュリアは健康になって、後は幸せになるだけだ」
 「うん」

 その日の夜、私は幸せな夢を見た。
 結婚して夫婦で幸せに暮らしている夢だ。相手が誰だか分からなかったけど、私はその人が大好きで一緒にいるだけで満たされていた。
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