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4章、弟がやって来た

第34話

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 取り調べ室に行く時、私はクーリエ先生について来て欲しいとお願いした。
 クーリエ先生は意外そうな顔をした。私が先生の身分を利用しようとしていることに気がついたからだ。

 「私は差し出口を挟まないよ、それでもいいなら同行しよう」
 私はそれでも良いからとお願いした。
 取り調べ官の様子、それから我が家が男爵家であることを考えるとウォルターがまともな扱いを受けているとは思えなかった。
 クーリエ先生がいるだけで何かが変わるかも知れない。

 サンドール取り調べ官が少し嫌そうな顔を見せた。
 「王弟殿下に来て頂くような場所ではありません」
 「ジュリアは私の患者だ。まだ付き添いが必要な状態だ」
 そう言ってクーリエ先生はついて来てくれた。

 「自分を殺そうとした相手を気遣うなんて、私には考えられないな」
 私の車椅子を押してくれながらクーリエ先生が言った。
 「それが間違いなんです。みんながウォルターがホーン男爵家の爵位を継ぎたくて私に毒を盛ったと言います。でもウォルターは男爵家に執着する必要なんてないんです。
 ウォルターは見目もよく、聡明な子です。髪色も銀髪で魔力量も約束されている。
 ウォルターを婿養子に欲しいと言う打診が沢山来ています。ホーン男爵家より高位の令嬢たちからです」
 私が婿養子の打診のあった家の名前をあげるとクーリエ先生が驚いた顔をした。どこも伯爵家以上で力のある家からの打診だったからだ。
 「確かにジュリアを殺してでも男爵家の爵位を欲しがるのはおかしいな」
 「ウォルターは幾らでも選べる立場なんです。
 ホーン男爵家でもウォルターのしたいようにするように言っていました」

 「そんな話は聞いていない」
 サンドール取り調べ官が呟いた。
 「まともに話を聞かないような取り調べだったんじゃないんですか?」

 取り調べ室に入ると私の心配が的中していたことが分かった。
 ウォルターは目の下に隈を作り虚ろな顔をしていた。
 私が倒れてから5日間、ろくに眠らせてもらっていないのだろう。
 ウォルターは私たちが部屋に入ったことにも気付けないでいた。

 「こんな状態で何が喋れるって言うんです⁈」
 私がウォルターのところへ駆け寄ると部屋にいた取り調べ官がイヤな顔をして笑った。
 「これぐらいしないと犯罪者は素直にならないんですよ」
 「ウォルターは犯罪者じゃないわ。ちゃんと調べれば分かるはずよ」
 「ほら、いい加減に白状しろよ。侍女と結託して姉を殺そうとしたんだろ」
 取り調べ官がウォルターの髪の毛を掴んで顔を揺らした。
 「‥‥やっていない。姉さんが大切、なんだ‥」
 ウォルターが掠れた声で言った。
 「本当にしぶといな」
 取り調べ官がドンとウォルターの肩を叩いた。
 ウォルターが力なく床に崩れ落ちた。
 こんな取り調べを受けていたと思うと泣きたくなった。
 「こんなの拷問だわ」
 私は床に倒れたウォルターを抱きしめた。
 「‥ねえ、さん」
 初めて気付いたようにウォルターが私を見た。
 「ふうん、あんたが殺されかかった姉か。
 まだ目が醒めないのか?どうせコイツの見た目に誑かされているんだろう」

 「確かにこれは酷いな」
 口を挟まないと言っていたクーリエ先生が口を開いた。

 取り調べ官がクーリエ先生とウォルターを見て笑った。
 「男爵家のお嬢さんは本当に色男が好きなんだな。
 今回のことで顔が良いだけの男に嫌気がさしたかと思ったが」
 サンドール取り調べ官が止めようとしたがその男の口は止まらなかった。
 「今度は顔の良い医師か、面食いもいい加減にしないとまた毒を盛られても知らないぜ」

 「取り調べ官の質も下がったものだな」
 クーリエ先生がため息をついた。
 「はあ、顔で女に擦り寄るような男に何が分かる」
 「分かるよ、君は無能だ」
  取り調べ官がクーリエ先生を殴ろうとしたのを先生の護衛が止めた。
 「取り調べ官なら王族に手を出したらどんな罪に問われるか知っているだろう」
 クーリエ先生が馬鹿にしたように笑った。

 「王弟の顔さえ分からない無能の取り調べ官か。ウォルターくんの話は改めて聞くことにしよう。
 サンドール取り調べ官、明日また出直す。それまではウォルターへの尋問は禁止する。しっかり休ませておけ」
 「ははっ」サンドール取り調べ官が頭を下げた。
 

 

  

 

 

 
 
 
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