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4章、弟がやって来た

第28話

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 「此処ってジュリアが好きそうな店でしょう」
 そうウォルターに連れて来られたカフェはまさに私好みの店構えだった。
 裏道でおじいさんが趣味でやっていそうな、流行りではないけどゆっくりと落ち着けそうなそんなお店。

 私の方はまだあんまりウォルターのことを知らないのに、向こうは私のことを良く知っている。変な気分だ。

 私たちはデザートとコーヒーを注文した。

 「どうかした?」
 「さっきからウォルターが私のことをジュリアって呼ぶから‥」
 「ジュリアが言ったんじゃないか。
 俺が姉さんって呼ぶと周りが変な顔をするから、外では名前で呼んでくれって」
 「そうだった?」

 「ジュリア」
 ウォルターが体を近づけて私の瞳をジッと見つめた。
 近くにある綺麗な若草色の瞳にドギマギする。
 「本当は俺のこと、覚えていないんでしょう」
 「そんなことないよ。全部は覚えていないけど、ちょっとずつ思い出しているところだから」

 はぁ、とウォルターがため息をついた。
 「落馬した時とおんなじだ。
 あの時も俺のことが思い出せないのに知っているふりをしてた。
 どうして覚えているふりをするんだろう?」
 「ちゃんと覚えているよ。
 川で流されたときに助けてくれたよね。流木に引っ掛かったのを、掴まれって手を引っ張ってくれた。ウォルターも流されそうになって大変だったじゃない」

 「全部は忘れてないんだ。あと、どんなことを覚えている」
 「昔のウォルター、可愛いかったよね。
 上品だからお姫様みたいで、私より男の子にモテてた」
 「俺がお姫様扱いされるのを嫌がっていたのは忘れてしまったの?」
 「そうだったかな?」
 「最近のことは何か覚えてる?」

 「ええと、魔法学園に入学する時に見送ってくれて」
 「頭に怪我をする前のことは?」
 「ええと、うーん、何かあった?」
 「川で溺れたあたりのことまでしか覚えていないんだね」
 「そうだけど、そんなに困ってないから大丈夫だよ」
 「ジュリア姉さんの大丈夫ほど信用出来ないものはないから」

 「ハァ、また最初っからやり直しだ。
 俺がジュリア姉さんの信頼を得るのに、どれだけ時間を費やしたと思っているんだよ?」
 「私、ウォルターのこと信じているよ。命の恩人だし」
 「でも俺のことがよく分からないから記憶のことを隠していた、そうだよね」
 「えっ、あ、うん、そうかも」
 「ジュリアは人見知りが激しいから最初が大変なんだ。
 それなのにハベルさんにはすごい馴染んでた。たった1か月で」
 「ガイはすごいいい人なんだよ」
 「その手放しの信頼感が信じられない。ジュリアはわりと誰も信じないのに」
 「そうかな?」

 「今回も記憶が無くなってから誰かに相談した?
 家族にも相談しないで自分だけでなんとかしようとしてたよね。
 よく知らない人が苦手で、友達もあまり作らない」
 「それじゃあ私、すごく気難しい人みたいじゃない」
 「怖がりなんだよ。なかなか人を信じられない」

 「でも私、ガイとはすぐに友達になったよ」
 「どのくらいで?」
 「会ったその日のうちに」

 「ジュリアは格闘家が好みのタイプなのか?」
 ウォルターがすごい顔をして何やら考え込み始めた。

 
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