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4章、弟がやって来た

第25話

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 ガイは私が思っていたより奥手だったようだ。
 最初に会った時、いきなり私を抱き上げたからそんな風に思わなかったが、女性に対して必要以上に緊張してしまうみたい。

 今までは7歳の妹と私を同一視していたのに私に初潮が来たことで女性だと強く意識してしまい、私との距離感に悩んでいた。

 私がある距離以上に近づくと挙動不審になり、離れて見えなくなると心配する。

 ピュアな人だ。私としては今まで通りの友人関係を続けていきたいけどガイのメンタルが大変そう。

 そう思ってガイから離れると色々な人が私に擦り寄ってくる。
 魔力量が金色の私に利用価値を見いだしたみたい。
 今までは男爵令嬢だし体が弱いしで私を下に見ていた。ところが思わぬ魔力量に私が高位貴族に嫁ぐ可能性が高いと思ったらしい。妙に私を褒めちぎってくるのが気持ち悪い。

 私ってそんなに馬鹿そうに見えるのかな?
 まあ、馬鹿ではあるんだけど、そんな明け透けなお世辞に喜ぶ程ではない。

 新ためて信じられるのはガイだけだと思う。
 入学初日に私はいい人に拾われた。友達になったのがガイで本当によかった。

 

 魔法学園の授業はいよいよ実践に入ってきた。
 実践はまず自分の持っている属性の初級魔法を撃つことから始まる。
 火、水、風、土、光、闇の6属性。大抵の人はひとつの属性しか持たない。
 私は火、水、風の3属性あった。
 3属性もあってヤバいかと思ったが、ガイはまさかの4属性持ちだった。
 ガイの属性は火、水、土、光。
 こっちの世界には属性占いというのがある。向こうの血液型占いみたいなの?
 それによれば水属性の人は優しく、光属性を持つ人は心の清らかな人とあった。結構当たっているかも。

 ゲームのヒロインは火と風の2属性持ちだった。何で属性がひとつ増えているんだろう?‥‥まっ、いいか。損してるわけじゃないし。

 光属性を持つ人は1年生ではガイひとりだけ。
 闇属性を持つ人もひとりだけ、レザード・シルウェス伯爵令息。グレーの髪と紺色の瞳を持つ攻略対象者の1人だ。攻略対象者だけあって見目麗しいが神経質そうで私はちょっと苦手なタイプ。

 属性ごとに固まりになって順番に初級魔法を撃つ。
 魔力量が少ない人はすぐにぐったりとしてしまう。
 私は魔法を撃つのは平気なんだけど、属性を掛け持ちしているからその移動で疲れてしまう。

 水属性のウォーターボールを撃っていたら、突然頭の中に激流に流されていく光景が甦ってきた。水の中で息が出来なくてもがき苦しんだ。
 苦しくて頭が真っ白になる。
 同時になつめがトラックに押し潰される光景も甦る。
 やはり苦しくって息が出来ない。やっぱりなつめは死んでいるんだと思った。
 水の中で苦しくって、私はまた死んでいくんだと感じていた。
 その時、水の中で何かが私に語りかけた。
 「まだ死んでは駄目。あなたにはやらなければいけない事があるの」
 あれは女神様?
 気がつくと、流木に引っ掛かった私を懸命に助け出そうとするウォルターの姿があった。
 「姉さん、掴まって!」
 必死に手を伸ばすウォルターに最後の力で掴まった。
 まだ少年のウォルターが私を引き揚げてくれた。

 ああ、あれは11歳の頃の私とウォルターの姿だ。
 私はあの時、女神から水の力を貰った。
 そしてまだ10歳のウォルターが命がけで私を助けてくれたんだ。

 突然記憶の一部分が戻ったせいか私は意識を失った。
 地面に倒れる直前にガイが私を抱きとめてくれたのを感じた。




 



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