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3章、貴族も楽じゃない

第24話[ガイ視線]

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 魔法学園に入ってからこっち、俺はジュリア・ホーンの事ばかり考えている。
 あいつはなんていうか、危なっかしくて目が離せないんだよ。

 ちょっと目を離すと目眩を起こしてぶっ倒れる。
 慌てて医務室に運ぶ毎日だ。

 俺が声を掛けたらすぐに気を許してきたから人懐こいのかと思ったら、案外そうでもない。人に囲まれると無表情で固まってしまう。
 そして俺を見つけると安心したような顔をして駆け寄って来る。

 ジュリアは可愛いから男も女も、可愛いがりたがっている奴は沢山いる。
 それなのにジュリアは何故か俺にだけ気を許した表情を見せるのだ。
 これで可愛いと思わない訳がない。
 よく聞く娘を溺愛する父親の気持ちが分かったような気がした。心配で少しも目を離せない。

 俺はずっとジュリアを小さな女の子のように感じていた。
 同じ15歳だとわかっていながら、目の前のジュリアを妹のように扱っていた。
 
 魔力開封の儀式のあと、ジュリアが水晶を金色に光らせると周りの目の色が変わった。
 ジュリアは王族でも少ない水晶を金色に光らせる程の魔力量を持っていた。

 銀髪だから魔力が強いだろうとは思っていた。でも男爵家の血筋だ、赤まで届けばいい方だろう、銀髪でもオレンジかもしれないと言われていた。それが金色。

 今まではただ体の弱い可愛い子だったジュリアが高魔力を持つ重要人物になった。

 もし体が弱くなかったら高位貴族の間で取り合いになっただろう。
 いや、体が弱くても取り合いになるかもしれない。
 それだけの魅力がジュリアにはあった。

 本人はそれに気づきもしない。
 「男爵令嬢なのに目立ち過ぎてイヤになっちゃう」なんて呑気なことを言っていた。

 ジュリアはだいぶ変わっている。
 爵位の上下に拘らない。と言うか高位貴族に関わることを面倒だと考えているみたいだ。

 アンソニー・クーリエに口説かれているのを見たことがある。
 王弟殿下のくせに校医なんかやっている変わり者だ。
 王族特有のすごい綺麗な顔をした奴で、女子生徒たちの憧れの的だ。
 ジュリアは揶揄われているだけだと言っていたが、俺は案外本気なんじゃないかと思っている。ジュリアの何かがクーリエ先生の琴線に触れたのだ。

 王弟殿下だと知らなかったようで、ジュリアはすごくイヤそうな顔をした。
 「なんでそんな人が医務室にいるの?王族になんて絶対に関わりたくないのに」
 「王族って女性はみんな憧れるものじゃないのか?」
 「男爵令嬢には荷が重いもの」
 そうジュリアは言うが金色の魔力量を持つ彼女にはこれから高位貴族が群がってくるだろう。

 その日、いつものように寮の門のところでジュリアを待っていた。
 学生寮は男女別々で異性は入ることが許されない。門の前で体を軽く解しているとジュリアが現れた。

 俺はジュリアを見て硬直した。
 ジュリアの髪に沢山のリボンが編み込まれている。初潮が来た時の邪霊避けだ。
 かっと全身が赤くなるのを感じた。
 「お、おめでとう」とモゴモゴと言った。
 「ありがとう」と返事を返したジュリアも少し顔が赤くなっていた。

 俺たちはいつもみたいに学園に向かって歩き出したが、マズい、ジュリアの顔が真っ直ぐに見られない。

 俺は妹のエレナとおんなじようにジュリアを扱って来たが、彼女は初潮がくるような年齢だった。それはそうだ、俺と同じ15歳なんだから。

 沢山のリボンを編み込まれたジュリアの顔が眩しく見えた。
 ジュリアってこんなに可愛いかっただろうか?

 俺がこんなに意識しているのにジュリアはいつもと変わらない。
 目眩がするから抱っこしてと両手を広げて来た。
 女性に触れていいものかと躊躇っていると今更何を言っているのかと言われた。
 そう、今更だ。俺は昨日まで平然とジュリアを抱き抱えて歩いていた。

 目眩を起こしたジュリアを抱き抱えるとふんわりと甘い匂いがした。
 初めて会った1か月前より肉付きがよくなって、更に美しくなっている。

 どうして昨日までの俺はジュリアを抱き抱えて普通にしていられたんだろう。
 俺はどうしてしまったんだろう。
 ジュリアに魅き付けられて、でも目を合わすことも出来ない。
 俺は自分の気持ちの急激な変化についていけないでいた。


 

 
 




 
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