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1章、ヒロイン転生は突然に
第6話 [ウォルター視点]
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ジュリア姉さんが魔法学園へ旅立って俺の胸にポッカリと大きな穴が空いたような気がした。
俺が9歳でホーン男爵家の養子になってからジュリア姉さんと離れたことなど1日もない。
ジュリア姉さんと初めて出会ったのは俺が7歳のとき。
叔父のホーン男爵が仕事で王都へ来た時、実家であるモラント伯爵家に立ち寄ったのが最初だ。
叔父の影から顔を覗かせるジュリア姉さんは天使のようだった。こんなに可愛い少女がいるなんてと思った。
俺の初恋はジュリア姉さんだ。
モラント伯爵家の三男に生まれた俺は家族にさえ気を許せないでいた。
貴族の世界はイス取りゲームだ。貴族の血を引く人間は沢山いるけど継げる爵位は少ない。爵位を継げない人間は準貴族になる。準貴族は本人は貴族と認められてもその子供は平民に落ちる。みんな貴族であり続けるために必死だ。
長男は爵位を保証されているようで、そうでもない。当主に継承者として不適格だとされ、爵位を継げないこともある。
貴族の兄弟はひとつの爵位を狙い合うライバルだ。
俺は二人の兄達から酷く警戒されていた。
原因は俺の銀髪にある。金髪や銀髪は王族や高位貴族にしか表われない色だ。魔力が髪に滲み出ていると言われ、魔力の多さが保証されている。
俺はこの銀髪を元王女だった祖母から受け継いだ。
よくある焦げ茶色の髪の二人の兄は俺に爵位を奪われることを恐れた。
物心がついた頃には兄達からの嫌がらせを受けていた。
大きくなると兄からの暴力が酷くなった。母親に言っても信じてくれない。
「ウォルターが心を開いてくれないから、つい意地悪をしてしまうのですって。
もう少しウォルターの方から歩み寄ったら良いのではないかしら」
母親の言葉が信じられなかった。
父親は見て見ない振りをしていた。
いつか兄達の暴力で殺されてしまうのではと考えていた頃、俺を助ける手が思わぬところから差し出された。
「なあ、ウォルター、お前ホーン男爵家の養子に入らないか?」
父方の叔父にあたるホーン男爵が俺に言った。
「養子ですか?」
「ああ、俺のところにはジュリアしか子供がいない。
男爵家だし伯爵家よりは家格は落ちるが、田舎は気楽でイイぞ」
叔父がニッコリと笑った。平民みたいな笑い方だと思った。けれどモラントの家族より安心できる笑顔だった。
俺は叔父に言われるまま男爵家の養子に入ったが、男爵夫人やジュリア姉さんから疎まれるのではないかと心配していた。
しかし男爵家に入った俺を待っていたのは熱烈な歓迎だった。
「その銀髪、やっぱりウォルターは義兄さんよりあなたに似てるわね」
「そうだろう、ウォルターは俺の息子になる運命だったんだな」
叔父が大きな手で俺の背中を叩いた。
その手の温かさに思わず涙が溢れそうになった。
「弟が出来て嬉しいわ」
ジュリア姉さんがはにかんだように笑った。その笑顔に俺は二度目の恋をした。
俺は男爵家に入ってからふたつだけ後悔している事がある。
俺が乗馬に誘ったせいでジュリア姉さんが落馬したことと、俺が泳げなかったせいで川で溺れたジュリア姉さんをすぐに助けることが出来なかったことだ。
熱病に罹ったこともあり、ジュリア姉さんはすっかり体が弱くなってしまった。
けれど心の優しさは変わらない。熱病に罹っていたときも、自分が大変なのに俺に感染ってしまうことを心配してくれた。
俺は男爵家の両親にとても感謝している。そしてジュリア姉さんを守るためなら何だって出来ると思うんだ。
俺が9歳でホーン男爵家の養子になってからジュリア姉さんと離れたことなど1日もない。
ジュリア姉さんと初めて出会ったのは俺が7歳のとき。
叔父のホーン男爵が仕事で王都へ来た時、実家であるモラント伯爵家に立ち寄ったのが最初だ。
叔父の影から顔を覗かせるジュリア姉さんは天使のようだった。こんなに可愛い少女がいるなんてと思った。
俺の初恋はジュリア姉さんだ。
モラント伯爵家の三男に生まれた俺は家族にさえ気を許せないでいた。
貴族の世界はイス取りゲームだ。貴族の血を引く人間は沢山いるけど継げる爵位は少ない。爵位を継げない人間は準貴族になる。準貴族は本人は貴族と認められてもその子供は平民に落ちる。みんな貴族であり続けるために必死だ。
長男は爵位を保証されているようで、そうでもない。当主に継承者として不適格だとされ、爵位を継げないこともある。
貴族の兄弟はひとつの爵位を狙い合うライバルだ。
俺は二人の兄達から酷く警戒されていた。
原因は俺の銀髪にある。金髪や銀髪は王族や高位貴族にしか表われない色だ。魔力が髪に滲み出ていると言われ、魔力の多さが保証されている。
俺はこの銀髪を元王女だった祖母から受け継いだ。
よくある焦げ茶色の髪の二人の兄は俺に爵位を奪われることを恐れた。
物心がついた頃には兄達からの嫌がらせを受けていた。
大きくなると兄からの暴力が酷くなった。母親に言っても信じてくれない。
「ウォルターが心を開いてくれないから、つい意地悪をしてしまうのですって。
もう少しウォルターの方から歩み寄ったら良いのではないかしら」
母親の言葉が信じられなかった。
父親は見て見ない振りをしていた。
いつか兄達の暴力で殺されてしまうのではと考えていた頃、俺を助ける手が思わぬところから差し出された。
「なあ、ウォルター、お前ホーン男爵家の養子に入らないか?」
父方の叔父にあたるホーン男爵が俺に言った。
「養子ですか?」
「ああ、俺のところにはジュリアしか子供がいない。
男爵家だし伯爵家よりは家格は落ちるが、田舎は気楽でイイぞ」
叔父がニッコリと笑った。平民みたいな笑い方だと思った。けれどモラントの家族より安心できる笑顔だった。
俺は叔父に言われるまま男爵家の養子に入ったが、男爵夫人やジュリア姉さんから疎まれるのではないかと心配していた。
しかし男爵家に入った俺を待っていたのは熱烈な歓迎だった。
「その銀髪、やっぱりウォルターは義兄さんよりあなたに似てるわね」
「そうだろう、ウォルターは俺の息子になる運命だったんだな」
叔父が大きな手で俺の背中を叩いた。
その手の温かさに思わず涙が溢れそうになった。
「弟が出来て嬉しいわ」
ジュリア姉さんがはにかんだように笑った。その笑顔に俺は二度目の恋をした。
俺は男爵家に入ってからふたつだけ後悔している事がある。
俺が乗馬に誘ったせいでジュリア姉さんが落馬したことと、俺が泳げなかったせいで川で溺れたジュリア姉さんをすぐに助けることが出来なかったことだ。
熱病に罹ったこともあり、ジュリア姉さんはすっかり体が弱くなってしまった。
けれど心の優しさは変わらない。熱病に罹っていたときも、自分が大変なのに俺に感染ってしまうことを心配してくれた。
俺は男爵家の両親にとても感謝している。そしてジュリア姉さんを守るためなら何だって出来ると思うんだ。
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