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1章、ヒロイン転生は突然に

第1話

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 ある朝、目覚めたらヒロインだった。

 ほんと、何の前触れもなく、いきなり乙女ゲームのヒロインになっていた。

 朝起きたとき、何だか布団が妙に軽かったの。いつもの綿布団ではなく羽布団が掛けられていた。

 あれ、私、ベッドで寝ている?

 我が家は今どき珍しい子沢山の貧乏家族。5人も兄妹がいるから、ベッドなんてとてもとても‥。和布団を三つ並べて敷いて、5人の兄妹で寝ていた。

 あれ、旅行にでも来てたのかな?

 私がベッドで寝た記憶なんて数える程、前の時は中学校の修学旅行の時だった。4人部屋にベッドが4つ。えっ、普通のことだって。私にとっては特別なことだよ。自分だけの布団で眠れるだけで贅沢な感じがする。ベッドで眠るなんてお嬢様になったかのような気分。

 記憶を辿ってみる。

 昨日は結構遅くまで起きていた。友達のチカにゲームを貸して貰ったから、それをやっていたんだ。ソフトだけじゃないよ、ハードまで貸してくれるなんて至れり尽くせり。まあ、1世代前のゲーム機だったけれど。

 チカが貸してくれたのは乙女ゲームだった。乙女ゲームなんてやるの、初めて。一番下の9歳の妹が食い入るように画面を見つめていた。

 「くるみ、チョット離れてくれない」
 携帯ゲーム機のゲームをやるのにこんなに張り付かれては、ほんとに邪魔。
 「お姉ちゃん、ズルイよ。わたしだってやりたい」
 「終わったらくるみにも貸してくれるように、チカに頼んであげるから」
 「ほんと、ウソ付かない?」
 「うん、だから離れて。最初から自分でやった方が楽しいよ」
 「はやくやってね。ちゃんとチカちゃんにくるみにも貸してねって、頼んでね」
 くるみがやっと離れてくれた。
 まあ、くるみなら大丈夫。三男の拳士郎なら絶対に貸さないけどね。あいつ、クラッシャーなんだもの。乙女ゲームには興味がないから良いけど。

 それから、眠るまでずっとゲームをしていた。
 両親は仕事でいつも帰りが遅い。いつもなら私が夕飯の支度をするけど、代わりに兄さんがやってくれた。長男の光太郎兄さんは優しいのだ。自分も別の家事の分担された仕事があるのに私のフォローをしてくれる。
 お互い様だよ、と兄さんは言うけど私は甘えてばかりいる。

 そう、私は昨日、自宅でゲームをしていたのだ。
 なのに、何でベッドで寝ているんだろう?
 こんなにフワフワな羽布団なんて我が家にはない。

 うん、コレは夢だ。

 「ジュリアお嬢様、起きてください」
 メイドさんが現れた。
 クラッシックなメイド服に身を包んだ茶色い髪を二つに縛った可愛らしいメイドさん(西洋人と思われる)が私に声をかける。

 「ジュリアお嬢様って、だあれ?」
 「何、寝ぼけたこと仰っているんです。今日は魔法学園に入学する為に王都に出発する日ですよ。シャキッとして下さい」

 私はメイドさんに急かされるようにして洗面所に向かった。
 何だか家の造りが高級だけど古風なかんじ。歴史のある洋館を探索しているみたいだ。

 顔を洗うと綺麗な洋服に着替えさせられ、ドレッサーの前に座らされた。

 鏡に映る自分は自分じゃない。
 銀色のサラサラしたロングヘアーにぱっちりとしたスミレ色の瞳、なんだかとんでもない美少女が鏡に映っている。
 
 コレ、だれ?
 私がわたわたすると、鏡の中の美少女もわたわたしている。

 「お嬢様、少しじっとしてください」

 私がじっとすると鏡の中の美少女も大人しくなった。
 メイドさんに髪を整えられながら考える。

 私は夢を見ている。とんでもない美少女になる夢だ。
 夢なのに妙に鮮明だ。
 美少女は睫毛も長い。銀色の睫毛がびっしりと生えている。肌は真っ白できめ細かい。年の頃は12、13歳くらいかな?

 こんな美少女見たことないのに、何か既視感があった。
 何かが記憶の隅に引っかかっている。うーん。

 あっ、昨日やっていた乙女ゲームのヒロインにそっくりなんだ。
 あのイラストを実写化するとまさにこんな感じ。

 そうか、私、乙女ゲーム『恋する乙女は千里をかける』のヒロイン、ジュリア・ホーンになった夢を見ているんだ。
 



 

 
 

 
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