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優しい人[イザベル視点]
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貴族の子供は5歳を過ぎると他家の子供達と付き合うようになる。と言っても最初は同じ系統の家の子供、私なら氷の家系の子供と会わせられた。同じ系統は殆ど親戚筋だし、もし子供が攻撃魔法を使ってしまっても同系統の魔法には耐性がある。
私は子供たちと会わせられる事にウンザリしていた。
私は早熟な方だったので、同じ年頃の子供たちが馬鹿に見えて仕方がなかった。
特に男の子たちはひどかった。私に気に入られて将来護衛になるようにと親に言われていたのだろう。私の前で棒切れを振り回し、勇敢なところを見せようと馬鹿げた騒ぎを繰り返した。ショーンは人見知りでいつも他の人達から離れていた。その穏やかなところと口が堅いところが気に入って、今護衛をしてもらっている。
8歳を過ぎると同じ家格の人達、私だと初代九家の人達との付き合いが始まる。
オスカーともこの頃、知り合った。男性は女性が生意気なことを言うと嫌うものだがオスカーには男女差別がなく、割と良い印象を持ったのを覚えている。
私は大人たちと話がしたかったが、大人は子供に口を挟まれることを嫌う。私は口を挟まないでジッと大人たちの話に耳を傾けた。
大人の話は私の知らない興味深いこともあったが、子供の話以上に下らないことも多かった。子供の話が意味もなく下らない話だとするなら、大人の話は悪意のある下らない話だ。
定番の悪口というのが幾つかあってティリエ公爵家のものも、その一つだった。
ティリエ公爵家には3人も子息がいるが、まともなのは次男のフランシスしかいない。長男は光の家系なのに少しも光の素質を受け継いでいないし、三男は軽薄な女好きだと言われていた。
軽薄な女好きはともかく、光の素質を受け継ぐかどうかなんて本人の努力ではどうにもならない。そんな事も分からないのかと腹が立った。
シモン・ティリエは黒髪に紺色の瞳を持ち、痩せぎすで神経質そうに見えた。王族と見間違いそうな色合いなのに、光の家系に生まれたというだけで悪く言われる。
ルイ・ティリエは噂通りに女性と見れば甘い言葉を振りまいていた。白金の髪に明るい水色の瞳、中性的な可愛い容姿の青年だった。女性に言い寄っているように見えて、そこに性的ないやらしさは感じない。うっかり女性が自分に振り向きそうになると、他の女性に目移りしたフリをして行ってしまう。女性好きだという評判だけが欲しいようだった。
何故なのだろうと不思議に思った。男色家なのを隠しているのかと思ったが、男性に興味があるようにも見えない。
やがて兄の悪口が半分自分に向くようにしているのだと気がついた。
ルイは見目も良く、軽薄を装っているが実は優しく気遣いの出来る人だ。親世代には嫌われていたが、彼の内面を感じとった年頃の女性にモテていた。
ある日ルイは女性たちに囲まれて困っていた。誰も傷つけたくない彼は本気の女性を苦手としている。いつもは絶対に自分に振り向かない年上の女性、クリスティーナの元などに気のあるフリで逃げ込んでいるのだが、この日は丁度いい女性がいない。
誰も傷付けないなんて無理なのにバカな人だ。
「ルイ・ティリエ、私と約束していたのを忘れたの。そんな女たちにカマってないで早く来て。」
私はルイの腕を取って女性たちの中から引っ張り出した。
「あなたにはルイのお相手は早いのではないかしら。」
一人の女性がまだ8歳の私を見下ろして言った。
「あら、フェロン公爵家の私に意見が出来るなんてどこの家の方なのかしら?」
私は権力を振りかざしてルイを連れ出した。
ルイはありもしない約束をたてに連れ出されてオロオロしていた。
「イザベル、あんな言い方をしたら君が悪く言われるよ。」
「平気よ。普段から生意気で可愛げが無いって言われているもの。」
「でも助かった。囲まれて困っていたんだ。」
「女好きのフリも大変ね。」
ルイが驚いた顔をして私を見つめた。
「僕の態度はそんなに分かりやすいかな?」
「さあ?私は人間観察が趣味だから。」
「その年にしては面白い趣味だね。」
「私は子供が苦手なのよ。大人は相手をしてくれないから人間観察くらいしかすることがないの。」
「じゃあ僕と話をしようか。」
「子供の相手は退屈ではなくて?」
「下手な大人と話すより楽しいよ。」
それから私はルイが女性に囲まれていると助けたり、私が社交の場で退屈そうにしているとルイが話かけてくれたり、良い関係を保っていた。
私が13歳になったある日、ルイが女性をエスコートしているのを見た。
いつもの女性好きのフリでなく、ルイの瞳には彼女への好意が溢れていた。彼は私より12歳も年上だ。恋人が出来てもおかしくない。
初めて自分の気持ちが恋に変わっていたことに気づいた。
彼に気軽に話しかけられなくなり、呼びかけもルイ様と他人行儀になった。
ルイが少し寂しそうに見えた気がした。
私は子供たちと会わせられる事にウンザリしていた。
私は早熟な方だったので、同じ年頃の子供たちが馬鹿に見えて仕方がなかった。
特に男の子たちはひどかった。私に気に入られて将来護衛になるようにと親に言われていたのだろう。私の前で棒切れを振り回し、勇敢なところを見せようと馬鹿げた騒ぎを繰り返した。ショーンは人見知りでいつも他の人達から離れていた。その穏やかなところと口が堅いところが気に入って、今護衛をしてもらっている。
8歳を過ぎると同じ家格の人達、私だと初代九家の人達との付き合いが始まる。
オスカーともこの頃、知り合った。男性は女性が生意気なことを言うと嫌うものだがオスカーには男女差別がなく、割と良い印象を持ったのを覚えている。
私は大人たちと話がしたかったが、大人は子供に口を挟まれることを嫌う。私は口を挟まないでジッと大人たちの話に耳を傾けた。
大人の話は私の知らない興味深いこともあったが、子供の話以上に下らないことも多かった。子供の話が意味もなく下らない話だとするなら、大人の話は悪意のある下らない話だ。
定番の悪口というのが幾つかあってティリエ公爵家のものも、その一つだった。
ティリエ公爵家には3人も子息がいるが、まともなのは次男のフランシスしかいない。長男は光の家系なのに少しも光の素質を受け継いでいないし、三男は軽薄な女好きだと言われていた。
軽薄な女好きはともかく、光の素質を受け継ぐかどうかなんて本人の努力ではどうにもならない。そんな事も分からないのかと腹が立った。
シモン・ティリエは黒髪に紺色の瞳を持ち、痩せぎすで神経質そうに見えた。王族と見間違いそうな色合いなのに、光の家系に生まれたというだけで悪く言われる。
ルイ・ティリエは噂通りに女性と見れば甘い言葉を振りまいていた。白金の髪に明るい水色の瞳、中性的な可愛い容姿の青年だった。女性に言い寄っているように見えて、そこに性的ないやらしさは感じない。うっかり女性が自分に振り向きそうになると、他の女性に目移りしたフリをして行ってしまう。女性好きだという評判だけが欲しいようだった。
何故なのだろうと不思議に思った。男色家なのを隠しているのかと思ったが、男性に興味があるようにも見えない。
やがて兄の悪口が半分自分に向くようにしているのだと気がついた。
ルイは見目も良く、軽薄を装っているが実は優しく気遣いの出来る人だ。親世代には嫌われていたが、彼の内面を感じとった年頃の女性にモテていた。
ある日ルイは女性たちに囲まれて困っていた。誰も傷つけたくない彼は本気の女性を苦手としている。いつもは絶対に自分に振り向かない年上の女性、クリスティーナの元などに気のあるフリで逃げ込んでいるのだが、この日は丁度いい女性がいない。
誰も傷付けないなんて無理なのにバカな人だ。
「ルイ・ティリエ、私と約束していたのを忘れたの。そんな女たちにカマってないで早く来て。」
私はルイの腕を取って女性たちの中から引っ張り出した。
「あなたにはルイのお相手は早いのではないかしら。」
一人の女性がまだ8歳の私を見下ろして言った。
「あら、フェロン公爵家の私に意見が出来るなんてどこの家の方なのかしら?」
私は権力を振りかざしてルイを連れ出した。
ルイはありもしない約束をたてに連れ出されてオロオロしていた。
「イザベル、あんな言い方をしたら君が悪く言われるよ。」
「平気よ。普段から生意気で可愛げが無いって言われているもの。」
「でも助かった。囲まれて困っていたんだ。」
「女好きのフリも大変ね。」
ルイが驚いた顔をして私を見つめた。
「僕の態度はそんなに分かりやすいかな?」
「さあ?私は人間観察が趣味だから。」
「その年にしては面白い趣味だね。」
「私は子供が苦手なのよ。大人は相手をしてくれないから人間観察くらいしかすることがないの。」
「じゃあ僕と話をしようか。」
「子供の相手は退屈ではなくて?」
「下手な大人と話すより楽しいよ。」
それから私はルイが女性に囲まれていると助けたり、私が社交の場で退屈そうにしているとルイが話かけてくれたり、良い関係を保っていた。
私が13歳になったある日、ルイが女性をエスコートしているのを見た。
いつもの女性好きのフリでなく、ルイの瞳には彼女への好意が溢れていた。彼は私より12歳も年上だ。恋人が出来てもおかしくない。
初めて自分の気持ちが恋に変わっていたことに気づいた。
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ルイが少し寂しそうに見えた気がした。
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