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春節祭[ギルバート視点]
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おれが意識を取り戻した時、まだ陽が差していた。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。護身術教室のために借りた部屋の中で、おれとアランとショーンの護衛の三人が倒れて転がっている。高位貴族の三人がいなくなっていた。
やられた!薬を盛られたのだ。
薬を盛ったのはソフィアだろう。彼女は弱味を抱えている。そこを突かれたのだ。
そっと体を起こした。手足を動かしてみる。不具合はない。
部屋の中には三人のほかに誰もいない。部屋の外にも見張りがいない。
違和感があった。初代九家の三人を誘拐するのに忙しかったのは確かだろう。けれど発覚を引き延ばすためにおれ達を眠らせるだけなのは変だ。
一番楽なのはおれ達を殺してしまうことだ。そうすれば見張りも要らない。
胸のポケットに何かが入っていることに気がついた。
畳まれた便箋にソフィアの綺麗な文字で裏切り者と書かれ、その下に名前が並んでいた。最後にソフィア・ハミットと書かれていた。おれはその部分だけ破り取った。
おれが生きているのはソフィアが薬を入れ替えたからだと確信していた。奴らはおれ達が死んだものだと思っている。だから見張りもいない。
便箋に並んだ名前には知っているものがいくつかあった。
ハロルド・ハミット、ソフィアの兄の名前だ。あいつの兄が取り込まれていたのか。
ウィリアム・ハイデルは思っていた通りだ。
問題はバーナード・カミエール、王国騎士団の団長の名前があることだ。
貴族学園は正門も裏門も王国騎士団に守られている。逆に言えば押さえられていることになる。
王国騎士団の誰を信じていいのかわからない。エドガー兄さんは味方だ。兄さんが ユインティーナ様を裏切るわけがない。けれど、兄さんに伝える術がない。
騎士団副団長の兄さんは今日は王城にいるはずだ。
おれはエドガー兄さんのことを知らなすぎる。普段、仲良くしている人間の話も聞いたことがない。
誰か相談出来そうな人はいないだろうか?
ユインティーナ様は冒険者をしていた時からエドガー兄さんと親しくしていたと言っていた。ならば冒険者なら兄さんと繋がれる人間がわかるだろうか?
おれは例の抜け穴から学園の外に出た。
たった一人、冒険者の知り合いがいる。ユインティーナ様がサラ姐さんと呼んでいた女性だ。冒険者ギルドに行けば彼女に会えるだろうか?
下町の裏道を走っているとおれに声がかけられた。
「おい金髪、貴族じゃないかと思っていたけど、その制服、やっぱり貴族だったんだね。」
「サラさん!」
「そんなに慌ててどうしたんだい。」
「ユインが拐われた。助けて欲しい。」
「此処じゃ人目がある。ついて来な。」
サラさんに連れて来られた場所は冒険者ギルドの中にある一室だった。
「最初から話してごらん。」
「まず名前を名乗らせて欲しい。おれはギルバート・アンベール。王国騎士団の副団長をやっているエドガー・アンベールの弟だ。」
「この間の赤毛も貴族だろう。ユインはいいとこの実の親に引き取られたって聞いたけど、それが貴族だったわけだ。」
「ああ、そうだ。」
「それがどうして拐われたりする。大体、簡単に拐えるような娘じゃないだろう。」
「信用している人間に薬を盛られた。学園の中でだ。」
「あそこは王国騎士団が警備してんだろう。」
「その王国騎士団に裏切り者がいる。バーナード・カミエール団長だ。」
「ああ、あのイヤな野郎ね。」
「兄さんにユインが拐われたことを伝えたいけど、誰を信用していいのか分からないんだ。誰か兄さんを裏切らない人間を紹介して欲しい。」
「あたしが裏切るとは思わないのかい。」
「サラさんのことはユインが信用していた。」
サラさんは個室から顔を出して叫んだ。
「オズマ、ちょっと騎士団へ行ってダグラス・オーエンを呼んできな。」
「王国騎士団には王城騎士隊と王都騎士隊がある。王城騎士隊の方はカミエール団長が指揮している。王都騎士隊はアンベール副団長に従っている。その中でもダグラス・オーエンは学園にいる頃からの親友らしいよ。」
「ありがとう、サラさん。」
「あとはあんたの仕事だ。しっかり頑張んな。」
サラさんがニヤリと笑った。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。護身術教室のために借りた部屋の中で、おれとアランとショーンの護衛の三人が倒れて転がっている。高位貴族の三人がいなくなっていた。
やられた!薬を盛られたのだ。
薬を盛ったのはソフィアだろう。彼女は弱味を抱えている。そこを突かれたのだ。
そっと体を起こした。手足を動かしてみる。不具合はない。
部屋の中には三人のほかに誰もいない。部屋の外にも見張りがいない。
違和感があった。初代九家の三人を誘拐するのに忙しかったのは確かだろう。けれど発覚を引き延ばすためにおれ達を眠らせるだけなのは変だ。
一番楽なのはおれ達を殺してしまうことだ。そうすれば見張りも要らない。
胸のポケットに何かが入っていることに気がついた。
畳まれた便箋にソフィアの綺麗な文字で裏切り者と書かれ、その下に名前が並んでいた。最後にソフィア・ハミットと書かれていた。おれはその部分だけ破り取った。
おれが生きているのはソフィアが薬を入れ替えたからだと確信していた。奴らはおれ達が死んだものだと思っている。だから見張りもいない。
便箋に並んだ名前には知っているものがいくつかあった。
ハロルド・ハミット、ソフィアの兄の名前だ。あいつの兄が取り込まれていたのか。
ウィリアム・ハイデルは思っていた通りだ。
問題はバーナード・カミエール、王国騎士団の団長の名前があることだ。
貴族学園は正門も裏門も王国騎士団に守られている。逆に言えば押さえられていることになる。
王国騎士団の誰を信じていいのかわからない。エドガー兄さんは味方だ。兄さんが ユインティーナ様を裏切るわけがない。けれど、兄さんに伝える術がない。
騎士団副団長の兄さんは今日は王城にいるはずだ。
おれはエドガー兄さんのことを知らなすぎる。普段、仲良くしている人間の話も聞いたことがない。
誰か相談出来そうな人はいないだろうか?
ユインティーナ様は冒険者をしていた時からエドガー兄さんと親しくしていたと言っていた。ならば冒険者なら兄さんと繋がれる人間がわかるだろうか?
おれは例の抜け穴から学園の外に出た。
たった一人、冒険者の知り合いがいる。ユインティーナ様がサラ姐さんと呼んでいた女性だ。冒険者ギルドに行けば彼女に会えるだろうか?
下町の裏道を走っているとおれに声がかけられた。
「おい金髪、貴族じゃないかと思っていたけど、その制服、やっぱり貴族だったんだね。」
「サラさん!」
「そんなに慌ててどうしたんだい。」
「ユインが拐われた。助けて欲しい。」
「此処じゃ人目がある。ついて来な。」
サラさんに連れて来られた場所は冒険者ギルドの中にある一室だった。
「最初から話してごらん。」
「まず名前を名乗らせて欲しい。おれはギルバート・アンベール。王国騎士団の副団長をやっているエドガー・アンベールの弟だ。」
「この間の赤毛も貴族だろう。ユインはいいとこの実の親に引き取られたって聞いたけど、それが貴族だったわけだ。」
「ああ、そうだ。」
「それがどうして拐われたりする。大体、簡単に拐えるような娘じゃないだろう。」
「信用している人間に薬を盛られた。学園の中でだ。」
「あそこは王国騎士団が警備してんだろう。」
「その王国騎士団に裏切り者がいる。バーナード・カミエール団長だ。」
「ああ、あのイヤな野郎ね。」
「兄さんにユインが拐われたことを伝えたいけど、誰を信用していいのか分からないんだ。誰か兄さんを裏切らない人間を紹介して欲しい。」
「あたしが裏切るとは思わないのかい。」
「サラさんのことはユインが信用していた。」
サラさんは個室から顔を出して叫んだ。
「オズマ、ちょっと騎士団へ行ってダグラス・オーエンを呼んできな。」
「王国騎士団には王城騎士隊と王都騎士隊がある。王城騎士隊の方はカミエール団長が指揮している。王都騎士隊はアンベール副団長に従っている。その中でもダグラス・オーエンは学園にいる頃からの親友らしいよ。」
「ありがとう、サラさん。」
「あとはあんたの仕事だ。しっかり頑張んな。」
サラさんがニヤリと笑った。
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