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夜伽は夫夫のお勤めです※R18

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 この半年間、決して粗相のないようにと、ありとあらゆる資料を漁って初夜の知識を蓄えた。経験は一切ないが、夫となったブルストロード公の機嫌を損ねないよう、誠心誠意尽くそうと決めていた。

「ふ、不束者ですが、よろしくお願いいたします」

 寝台の上で三つ指をつき、深々と頭を下げる。
 畳で布団を敷いて眠る習慣のあった肇にとって、滑らかなシルクの感触すら戸惑う要因の一つになった。キングサイズと呼ばれる大の男二人が寝転んでも十分に余裕のあるベッドの大きさに驚かされ、二人きりの世界を演出するような薄紗の引かれた天蓋に及び腰になった。
 極め付けは、肇の対面に腰を下ろしたアレンの美貌と冷たい眼差しだ。自分とは明らかに不釣り合いな美男子に冷めた目を向けられ、緊張と不安から胃がキリキリと痛んだ。

「あ、あの、アレン、様……」

 一体何から始めればいいのか。資料にはまずはお互いの緊張をほぐすために接吻しながら身体を触り合うと良いと書かれていたが、許可もなくアレンの御身に触れて良いものか。
 戸惑うように視線を泳がせるばかりの肇を無言で見据えていたアレンが、呆れたように視線を伏せてため息をついた。そのことにすらびくりと肩が跳ねてしまう。
 目に見えて怯えた素振りを見せる肇に、元来刻まれていたアレンの眉間の皺がさらに深くなった。
 ああ、粗相をしないようにと身を引き締めた直後に失態を犯してしまった。まだことが始まってすらいないのにアレンの機嫌を損ねてしまうような己の不甲斐なさに涙が滲んだ。

「チッ……」

 頭一つ分高い位置から落とされた舌打ちにまたしても肩が跳ねる。小刻みに震え出した肇の腕を大きな手のひらが掴んだ。
 ふわり、と香ったのは甘やかで清潔な石鹸の香りだ。つい先ほど湯浴みを済ませた肇からも同じ匂いが香っている。二人の匂いが混じり合った時、ふにゅり、と唇に柔らかなものが触れた。
 口付けされたのだ。そう気づいた時には、僅かに開いた唇の隙間から分厚い舌が侵入していた。

「ん、ふぁ、ぁ、ンン、ふぅ、ん」

 体格差があるだけに、アレンの大きな舌に口内を蹂躙されると丸ごと全て喰らい尽くされているような錯覚を覚えた。
 敏感な上顎を尖らせた舌先でくすぐられ、快感に弛緩した舌を根本から扱くように絡め取られる。未知の快感に恐ろしくなって舌を引っ込めれば、逆にアレンの口内に引き摺り込まれた。
 舌同士をいやらしく絡め合いながら、舌先を甘噛みされたりぢゅっと吸われると脳髄がぢんと痺れた。

「はぁ、ン、やぁ、あ、ァ、んく、ンン、っ」

 口内で混ざり合った唾液が口の端からとろとろと零れ落ちる。何度も角度を変えて深く口付け合い、ほんの一瞬唇が離れた隙にはふはふと息を吸う。けれどすぐさま呼吸すらも逃さないというようにぴったりと唇を合わされてしまい、鼻にかかった声を漏らしながら快感に喘がされた。

「ん、っふ、あぁ、ン、あゥ、んぅ~っ」

 酸欠で頭がクラクラした。生理的な涙で視界がぼやける。
 視界の隅で月明かりに照らされたプラチナブロンドの髪がキラキラと輝くのが見えた。その美しさに惹かれるようにアレンの髪に指を通し、ポロポロと涙をこぼしながら許しを乞うた。

「んふ、ン、あれ、様、んぅ、ン~っ、はぁ、も、ゆるしてくださ、ふぅ、ン、~~っっ」

 くたりと力なく弛緩した体にようやく肇の限界を察してくれたらしい。
 最後にぐちゅぐちゅと淫らな音を立てて口内を荒らし尽くした舌がぬるりと引き抜かれる。互いの唾液で濡れそぼった唇がちゅぽっと音を立てて離れた。ツーッと唾液の糸が伝って、月明かりの下で見る淫猥さを見ていられずにパッと視線を逸らした。
 しわくちゃになったシーツに視線を落とす肇のつむじに視線が注がれている。覚悟を振り絞ってアレンを見上げれば、結婚式で垣間見た肉食獣の眼光と交錯した。
 薄暗がりに怪しく浮かび上がる双眸に知らずに喉が鳴った。

「っ……」
「……触れるぞ」
「っ、は、はい」

 カタカタと身を震わせながらも、恐怖に耐えるようにぎゅっと目を瞑って襦袢の紐を解いた。
 はらり、と薄衣がはだけ、月明かりに肇の裸体が照らされる。
 生来筋肉が付きにくく、脂肪のつきやすい体質であった。大食らいというわけでもないのに、胸元や臀部は同年代の青年に比べて肉付きがよく、内腿に至っては強く掴めば指が埋もれてしまうほどに柔く生白かった。
 体の至るところに点々とある黒子もコンプレックスの一つだ。右の乳首のそばにある二連の黒子や、かつて春子に指摘されて知った菊門付近の黒子を特に恥じており、叶うことならば一生人目に晒したくないほどだった。
 男として情けないばかりの肉体に、焼きつくような視線を感じる。恐ろしくて目を開けることはできなかった。
 ふいに、空気が揺れる気配がした。ぴとりと冷たい指先が胸板に触れた。

「ん……っ、ふ、ン」

 大きな手のひらにすっぽりと胸を覆われる。形を確かめるようにやわやわと揉まれ、くすぐったさからピクピクと指先が跳ねた。
 しばらく感触を楽しむように胸を揉んでいた手にぐっと力が籠った。五指が軟く弾力のある肉に埋まり、時折掠めるようにして乳首の先を撫でられた。
 最初はこそばゆいばかりだったそこが、次第にぢんぢんと疼き出した。噛み締めた唇の端から「ン、ふぅ、ん、っ」と甘えたような声が漏れるのを止められない。
 じっとりと汗ばみだした肌にアレンの指が吸い付き、皮膚を撫ぜられる感触にすら腰が震えた。

「んっ、ん……あ、はぁ……ン、く、んゥ、っ」

 滑らかなシーツを握りしめ、決して抵抗しないようにと堪えた。
 目を閉じていても、乳首がぴんとはしたなく立ち上がって胸板の上で主張しているのがわかった。空気が触れる刺激さえも快感で、堪らずにアレンの手に乳首を擦り付けてしまった。

「あっ、ん、んんっ……や、ぁ、あ、ハァ、ン」

 ぴくりとアレンの指が跳ね、次の瞬間、刺激を待ち侘びる乳首をぎゅっと摘まれた。
 びくんっと背中が反って、待ち望んだ快感に「ひアっ、ぁア」と淫らな嬌声を上げて打ち震えてしまう。ぶるぶると身を震わせて快感に浸る肇のはしたなさを叱るように、びしっと指先で乳頭を弾かれた。
 痛いくらいの刺激にも嬌声が漏れてしまう。ぢんぢんと疼く先端をあやすように撫でられると、下腹部の辺りがきゅんとして甘い絶頂感が波のように全身に伝わった。

「はぁ、ア、ひ、んふ、ンン、っ~~、ひアっ」
「……」
「んぅ、あれ、ん、様ぁ、あひっ、ン、ンゥ~っっ」

 ひたすらに喘がされてばかりの肇とは違い、終始無言を貫き通すアレンに不安が募った。
 相変わらず目を開ける勇気はなく、確かめるようにアレンの名前を呼んだ。返事の代わりにこりゅこりゅと乳首を捏ねられ、快感に弛緩した体がアレンの胸板にへたり込んだ。
 厚い胸板に擦り寄るようにして、「アレンさま、ぁ、はぁ、ン」と甘えた声で名前を呼んだ。すると、それまで好き放題に肇の乳首を弄んでいたアレンの指がぴたりと止まった。
 突然の解放に乳首が切なさを訴える。緩く立ち上がった陰茎も刺激を待ち侘びるようにぴくんぴくんと震えている。
 快感を欲する体が淫らにシーツの上を滑った。肉付きのよい腿をアレンの足に巻き付ければ、頭上で小さく息を詰める音がした。
 その直後、ガバッと肩を押されて身を引き剥がされた。突然のことに固く閉ざしていた瞼を開けてしまう。
 涙でぼやけた視界の向こうで、不機嫌に眉を顰めたアレンと目が合った。
 怒らせてしまった。逆鱗に触れてしまったと気づいた時には既に遅く、アレンは僅かに乱れた夜着を整えると、無言のまま寝台を降りてしまった。

「アレン、様……あの」
「外の風に当たる」
「お、俺、あの……」
「君は先に寝ていろ」
「……はい、申し訳ありません」

 ピシャリと言い竦められてしまえば、それ以上食い下がることはできなかった。
 こちらを振り返ることなく扉の向こうへ消えていった広い背中を脳裏に思い描き、一人で眠るには広すぎる寝台の上で眠れぬ夜を過ごした。
 結局その晩、アレンが夫夫の寝室に戻ることはなかった。
 泣き腫らした顔で対面する勇気が出ず、体調不良を理由に朝食の席には顔を出せなかった。アレンを乗せた馬車が街へと向かう様子を寝室の窓から見送って、結婚二日目にして早くも離婚の危機が訪れたことに肩を落とした。

「やっぱり、結婚相手が春子じゃなくて俺なんかじゃ不満だよな……」

 昨晩、快感に喘ぎ乱れる肇とは裏腹に、アレンの性器は一切反応を見せていなかった。薄暗がりの中ではあったが、きちんとアレンが自分で興奮してくれているだろうかと彼の性器を盗み見たのだ。薄い夜着越しであれば、僅かな反応であっても見てとれたはずだ。けれど、アレンの性器は平時と変わらず、やはり肇の容姿では不十分なのだと思い知らされた。
 唐突に性交を中断したのもきっと、甘えた声を出して擦り寄ってくる肇に嫌悪感を抱いたからだろう。後継のため、義務感で初夜に臨んだものの、体は正直で肇相手では興奮できなかったのだ。

「相手がこんな俺で、ごめんなさい」

 今はもうここにはいない夫を思って静かに涙を流した。
 せめてアレンにとっての苦行が一刻も早く終わるよう、早々に後継を身籠もって彼を解放させてあげなければいけないと思った。

「っ、泣くのはやめ、ぐすっ、よし、頑張るぞ」

 涙の滲んだ目元を乱暴に擦って、パチンと両手で頰を叩いた。
 政略結婚である以上、両家の間に子孫を残すという責務からは逃れられない。それならば、可能な限り早急に子供を身籠り、アレンにとって不快でしかない肇との子作りが必要最小限で済むように努力しようと心に決めた。
 そうと決まれば、早速準備に取り掛からねば。母は生前、思い立ったが吉日だと口癖のように言っていた。敬愛する母の言葉に従い、実家から持参してきた花嫁修行道具一式を寝台に広げた。

「なるべく拡張しておいたほうがいいよな。それに、処女は重くて面倒くさいと思われちゃうかもしれないし、それなりに経験のあるフリをしておかなきゃな」

 愛する伴侶が相手であったなら、己に操を誓ってほしいと多くの男が考えるはずだ。けれど、性処理の相手であれば話は違ってくるだろう。
 ただ欲求をぶつけるだけの相手ならば、程よく熟れた穴と後腐れない程度に遊び慣れているほうが気楽でいい。最低な父親が酔っ払った際に声高に話していたことを思い出し、肇は持参してきた中でも最も細身の張型を手にして意気込みを新たにした。

「よし、まずはこれが入るように頑張って拡張しよう」

 朝っぱらから自分は何をしているのだろう。我に返りそうになって、慌てて寝台に寝転んで人目につかないよう頭からシーツを被った。
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