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たぶん最終章、レースの魔法の女神様の再来と呼ばれるのは また別のおはなし。

その14

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 楽しいパーティーを終えた翌日、お姉さんとクロモは真剣な顔をして話し合い始めた。

 ちなみに昨日の夜はせまいけどお姉さんとお義兄さんに泊まってもらった。パーティーで夜遅くなっちゃったから。それでついさっき、お義兄さんを送り出したところ。

 難しい話は分からないから、話し合いは二人に任せてわたしは朝食と昨日の夜のパーティーの片づけに入る。

 ここに来たばっかりの頃は、水道もシンクもないからどうやって食器を洗うのかも知らなかったけど、今ではもうすっかり自分で出来るようになった。

 食器が少ない時はキッチンで済ますけど、今日はさすがに量が多いから、近くの小川へと食器を持って行く。

 鼻歌なんか歌いながら洗っていると、家からクロモがわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。どうしたんだろう?

 首を傾げつつ家に戻ると、クロモとお姉さんがちょっと難しそうな顔をして待っていた。

「レースの魔方陣の件だが、君の意見も聞きたい」

「え? わたし難しい事は分かんないよ?」

 だからクロモとお姉さんとで話し合う事になったんじゃ……。

「このレースの魔方陣、王様に報告して管理を任せた方が良いかもしれないって話になったのよ……」

 渋い顔でお姉さんがつぶやく。

「? 王様に報告? なんでですか? 管理を任せるってどういう事ですか?」

 あのレースがみんなに広まれば、みんなが」便利になる。魔方陣を編むことが出来ない人でも、簡単に魔法が使えるようになる。そんな話じゃなかったっけ? なんでそこに王様がでてくるんだろう?

「あ、もしかしてわたしが、お姫様(の身代わり)だから?」

 クロモと結婚したことで王族じゃなくなったはずだけど、それでも元王族だから何か問題が発生しちゃうのかな?

「いや、それは関係ない。問題は、便利すぎるかもしれない事だ」

「便利すぎるのが問題? えーっと?」

 首をひねるとお姉さんが魔方陣の本を取り出した。そして最初の辺りのページを開いてわたしに見せる。

「この辺りのね、簡単な魔方陣なら問題はほとんどないのよ。使い方によってはみんなとても役立つと思うの。でもね」

 今度はクロモが、本の最後の方のページを開いた。手書きの魔方陣は、とても複雑なうえ、ページに収まらなかったのか紙が継ぎ足してあって、本のサイズに合わせて折り込まれていた。その折ってあったものを広げてわたしに見せてくれる。

「この魔方陣は、爆炎の魔方陣だ。使う事は滅多にないが、戦や、あと公共の工事に使われる事もある」

 爆炎……? 爆弾?

「ダイナマイトみたいなもの? 上手に平和利用すれば便利になるけど、戦争に使ったら被害が大きくなる。……で、でも元々そういう魔法があるんだよね? だったらレースの魔法だからとか、関係ないんじゃ……」

 わたしの言葉にお姉さんが首を振る。

「この魔方陣は大きくて複雑だから、編み上げることが出来る人は限られているの。クロモちゃんは編めるけど、わたしは……たぶん集中力が途中で途切れてしまうわね」

 そっか。そうかも。レース編むのも同じだもんね。ちっちゃなドイリーやコースターならわたしでも日をまたがずに編めちゃうけど、ちょっと複雑だったり大きかったりすると途中で疲れて続きはまた明日ってなっちゃう。けど手慣れた人ならなんだかんだで編み切っちゃう人もいる。あ、もちろんどう考えたって一日で編める大きさじゃないレースは、どんなベテランさんだって何日もかけて編むけどね。

 あ、あれ……? 何日も掛ければ、編める……?

「つまり、本来なら限られた人にしか使えない魔法も、この方法なら編めちゃう……? それは確かに怖いかも……」

 魔方陣の形とレースの編み方整え方を覚えてしまえば、悪い人が危ない魔法を使っちゃうことだって出来るって話だ。

「そう。しかも魔力さえ注げば魔法が発動する。魔方陣の知識のない者に嘘を教え、その魔法を発動させて罪を着せる事も可能だろう」

 血の気がスッとひくのが分かった。

 ここ最近ずっと、簡単な魔方陣は編んできたからぼんやりとだけど『この模様は火系の魔法だな~』とか『これは水に関係する模様だよね』ってくらいは分かるようになった。けど、今目の前に広げている魔方陣を見ても火関係の魔法って事しか分からない。

 もしわたしが魔力持ってて、『この魔方陣に魔力を注げば綺麗な打ち上げ花火が見れますよ』なんて言われたら、信じて魔力を注いじゃうだろう。

「そんな怖いの、ダメだよ。このレース、魔法が発動する事みんなに内緒にした方がいいんじゃないの? 今なら知ってるのはわたし達四人だけなんだし、秘密に出来るよ」

 残念と思わないわけじゃない。けど悪い事に使われるくらいなら、なかった事にした方がいい。

「いや、それはもったいない。魔法が無くても暮らしてはいけるだろうが、あれば絶対に便利なんだ」

 クロモの言葉にお姉さんもうんうんと頷いている。

「例えば水は、わたし達も川を利用しているけれど、大雨の後とか水が濁って困る時があるでしょう? そんな時に魔法が使えたらみんな、助かるのよ」

 今まで水汲みはクロモがやってくれていたから、そんな事気づきもしなかった。元の世界でも蛇口を捻ればいつでも水は使えたし。

 でも、そうだよね。元の世界だって断水になるとみんな困ってた。そんな時に魔法で水が出せたら……助かるに決まってる。

 それに川から遠い場所に住んでる人だって、たった一枚のレースの魔方陣があるだけでどんなに助かるだろう。

 火だってそうだ。ここではクロモに魔法で火をつけてもらってるけど、他の魔法の使えない人達は種火を絶やさないようにしたり、消えてしまった時には火打ち石で苦労して着けたりしてるらしい。だけどレースがあれば、マッチやライターの代わりになる。

「そう、だね。簡単な魔方陣は普及できるといいよね。あ、でも簡単でも使い方間違うと危ないかも。ホラ、わたしの世界、魔法はないけど代わりに色々と道具が発達してるって話したでしょ。前に言ったマッチとかライター。火をつける道具なんだけど、簡単に火がつけられる分、ちっちゃい子が遊んで火をつけて火事を起こしたり火傷しちゃったりする事故が起きちゃうのね。魔力も小さい内から出せるんだったら、その辺りは気を付けた方がいいかも」

「成程。その辺りも報告しよう」

 クロモの言葉に王様に管理を任せようと言っていた事を思い出す。

「王様に管理を任せちゃうと、どうなるの?」

「勝手に作ったり売ったりする事を禁止する事になるだろう。作り方や道具も制限される」

「たぶん複雑な魔方陣はどこの誰が購入したか分かるようにするんじゃないかしら。金額も高額にするだろうし」

 クロモとお姉さんの言葉に、ボンヤリとだけど分かった気がした。



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