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異世界に飛ばされちゃったわたしは、どうもお姫様の身代わりに花嫁にされちゃったらしい。
その1
しおりを挟む一番最初に目に入ったのは、コスプレっぽい服を着た男の人だった。フードのついた、ローブっていうのかな? それを着た魔法使いっぽい格好の人。
その人は目深に被ったフードの奥から観察する様にじっとわたしを見ていた。
「言葉は分かるか?」
「へ?」
突然の質問にびっくりして、間抜けな声が出ちゃった。だけど男の人は気にしないで言葉を続ける。
「通じぬか?」
「えーと、どういう意味ですか?」
意味が分からなくて首を捻ったわたしに、男の人は頷いてみせた。けど、わたしの質問には答えてくれないままくるりと向きを変えると、そばに置いてあった服を手に取ってわたしに放ってよこした。
「それに着替えろ」
「はあ?」
ますます意味が分かんない。なんなんだろう、この人。
「なんで? どうして着替えなきゃいけないの? ていうか、あなた誰? 知ってる人じゃないよね? 声聞き覚えないし。あ、その前にここ、どこ? わたし今までショッピングセンターの連絡通路にいたはずなんだけど。なんでこんな所にいるの? あの通路の近くにこんな部屋あったっけ? でも移動した覚えないんだけど。あ、もしかしてこれ夢? だよね。それなら納得いく……」
「黙れ」
喋るわたしを制するようにその人は手を上げ、それから指で何かを宙に描く仕草をした。すると光の線が現れて、しゅるしゅるとまるでレース編みのドイリーの様な形へと変わっていった。そして形が完成すると、パァッと光が増し、打ち上げ花火が消える時のようにキラキラと崩れて消えていった。
その様子につい見とれてため息をつきながらつぶやく。
「なにこれ、きれ……」
い、と続けたはずの言葉が、途切れた。
あれ? 声が出ない? なんで声が出ないの?
いつものように喋ろうとするけど、口がパクパク動くだけで、声はちっとも出てくれない。
え? なんで? なんで急に声が出なくなったの?
すがるように男の人を見ると、その人はため息をつきながら放ってよこした服をもう一度指さした。
「それに、着替えてくれ」
こっちはそれどころじゃないのに、その人はまだそんな事を言ってる。けど、わたしがパニックになってるのに同じ事を言ってくるって事はもしかして、わたしが着替えなくちゃきっと、何か困る事があるんだ。
だけど困るのはこの人? それともわたし? それとも二人とも?
あれこれ考えてたらだんだん、何が何だか分からなくなってきた。
まーいっか。取りあえず言われた通りに着替えてみよう。
目の前にあるその服を手に取って広げてみた。ワンピースかな。サイズが合うといいんだけど。
ふと視線を感じて顔を上げるとその人はじっとわたしの方を見ていた。そしてそのまま、動こうとしない。
えーと。どこで着替えたらいいの? いくらなんでも知らない男の人の前で着替えるなんて無理だよ。
質問したいけど、相変わらず口はぱくぱく動くだけで声が出てくれない。どうしちゃったんだろう、わたしの喉。別に痛みとかないから、悪い病気じゃないと思いたいけど。
服を持ったままオロオロしてたら分かってくれたらしい。その人は部屋の隅を指さしてぶっきらぼうに言った。
「あの衝立の向こうで」
そこで着替えろって事ね。
素直にその通り衝立の向こうに行ってみたけど、ほんとのこと言えば滅茶苦茶不安。だってそんなに広くない部屋の中、わたしとその人を隔ててるのはその衝立だけなんだもん。こんなに頼りない状態で、着替えなきゃならないの?
とはいえ着替えようと決めたのはわたしだもん。とにかく着替えよう。オロオロしてるわたしに気づいて衝立を教えてくれたくらいだから、この人きっと覗いたりはしないだろう。……たぶん。
一度見知らぬ彼の言う通り着替える事にしたんだからそこは彼の事を信じようと、わたしは手に持っていた服に着替え始めた。
その服は肌触りの良いロングのワンピースで、サイズはピッタリだった。スカートの裾の広がり具合を見ていると、ワンピースというよりドレスと言った方がピッタリくるかもしれない。デコルテを綺麗に見せるデザインなのか、襟まわりがとても広く開いていて、ちょっと恥ずかしい。
ていうかこれ、ブラの肩ヒモとかバッチリ見えちゃってる?
見せブラとかいうのだったらこれでもオッケーなのかもしれないけど、普通のブラの肩ヒモ、やばいよね?
無理矢理肩から肩ヒモを外して服の中に押し込んでみたけど、なんか変な感じにゴロゴロしちゃってる。鏡がないからはっきりとは確認出来ないけど、きっと変なライン出ちゃってるよね。
スッキリ見せるなら、ブラを外した方がいいよね? と試しに外してみる事にした。衝立の向こうを気にしながらゴソゴソと外す。
「着替え終わったか?」
ひゃあっ。
まさかこのタイミングで声がかかるとは思ってもみなくて、ビクッとしてしまった。
声が出れば「まだ。ちょっと待って」って言えるけど、あいにくなぜか声は出ない。
こちらにやって来る気配がしたんで慌てて手に持っていたブラを脱いだ服の下へと隠した。
ドキドキしながら、やって来るのを待つ。ノーブラで人前に出た事なんてないから、不安この上ない。せめて上着があったら良かったのに。ワンピース一枚なんて恥ずかしすぎる。
向こうも万が一の事を考えてなのか、衝立から顔を出すまでに少し間があった。その行動に少しだけど好感が持てた。
なのにゆっくりと現れた彼はわたしが着替え終わっているのを確認すると、まるで値踏みをするようにわたしの上から下まで、眺め始めた。
ううう、恥ずかしい。やっぱり着替えるんじゃなかった? 似合ってるかどうかも分からないワンピースの上、胸元はすごく開いてるしブラもしてないし、それを男の人にじっくり見られるなんて、なんの拷問ですか!
やがてこっちの気持ちも知らないで、その人はゆっくりと頷き微笑んだ。
「よし。ではこちらへ」
スッと手を、差し出される。これって手をつなごうってこと?
赤かった顔が更に熱くなった。残念ながら彼氏のいないわたしは、男の人に免疫なんてない。しかも相手は年上っぽい。
立て続けに色んな事が起きて、頭がぐるぐるしてくる。
いつまでも手を出さないわたしにイラッときたのか、その人はわたしの手首を掴むとグイッと引っ張った。
「早く。こっちだ」
そのままどんどん歩き始める。
そんなギュッと握って引っ張ったら痛いんだけど。心配しなくてもちゃんとついて行くよ。
そう言いたいのに言えなくてもどかしいけど、言えないものは仕方がない。
まーいっか。一人で意識してたのがバカみたい。
ため息をついてそのまま後をついて行った。
そうしてたどり着いた扉の先にあったのは、なんとベッドだった。なんで寝室?
「そこに横になれ」
へ?
意味が分からない。わざわざこんなドレスみたいなロングのワンピースに着替えさせておいて、ベッドに寝かせて何をさせたいの? この人。
首を傾げて立ち尽くしたわたしの頭の中に、不意にマンガで読んだエッチなシーンが思い浮かんだ。
まま、まさか。自分好みの服を着せてそれを脱がせたがる変態さんっ?
混乱している間に引っ張られ、ベッドに座らされる形になる。
その反動で、胸が揺れた。ブラをつけてないから、いつもより余計にそっちに意識がいってしまう。
慌ててわたしは胸を隠すように自分自身を抱きしめた。
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