上 下
38 / 63

透見と小鬼とそれから……? その4

しおりを挟む



 みんなが帰って来たのはそれから少ししてからだった。

「遅いから心配したんだよ~」

 ざっとみんなの様子を確認してみる。みんな特にこれといった大きな怪我は無いようなんで、ホッとした。

「ごめんごめん。心配かけちゃったね?」

 ペロリと舌を出し、園比が笑う。

「姫様こそご無事でなによりです」

 飛んで来た棗ちゃんはわたしを上から下まで見回した後、ほっとした笑顔でそう言ってくれた。

「うん。みんなのおかげで大丈夫だったよ。それでね……」

 あの少年の事を言いかけて、ふと剛毅が浮かない顔をしている事に気がついた。

「どうしたの? 剛毅。もしかしてどこか怪我した?」

 ぱっと見、怪我してないように見えたんで安心してたけど、もしかしたら服の下に打撲とか骨折とか分かりづらい怪我をしているのかもしれない。

 びっくりして剛毅に駆け寄ろうとしたわたしを、戒夜が止めた。

「姫。心配はいりません。剛毅は怪我などしていない」

 いつもの冷静な口調で戒夜が言う。だけど、いつも朗らかな剛毅がこんな風に顔を曇らせてたら、心配にもなるよね。

「姫さん、オレ……」

 剛毅が暗い顔をして、ポツリと口を開いた。

「すみません。オレ、守護者の資格、ないです」

 突然の言葉にびっくりする。

「どど、どうしたの? なんで急にそんな事……」

 ついさっきまでわたしの事守ってくれてたのに、なんで急に?

 だけど剛毅はそれきり口を開こうとしない。見かねた戒夜がため息をつきながら渋い顔で口を開いた。

「剛毅は先程の事を気にしているのですよ、姫。敵にはじかれたとはいえ、剛毅のナイフが貴女を傷つけるところだった。それが許せないのです」

「そんな……」

 戒夜の言葉に耳を疑い、剛毅を見る。けれど剛毅はそれを肯定するように俯いたままだ。

「そんなので辞めるなんて言わないで。誰にだって失敗なんてあるし、あれは小鬼が弾いたせいでしょ? 剛毅のせいなんかじゃないじゃん」

 剛毅の所まで行き、顔を覗き込む。でも剛毅はすっと顔を背けた。

 そこへ透見がやって来て、いつもの優しい笑顔のまま口を開いた。

「それならば剛毅さん。私も守り手である事を辞めなくてはなりません。……神社を出た時に姫君に魔術をかけていれば小鬼に見つかる事はなかったのですから」

 さっきの思いが還ってきたのか、透見までが苦い顔をしてそんな事を言い出す。

「だからそれは……」

 もう一度わたしが二人に「気に病む事はない」と言おうとしたら、透見は笑顔で頷いてくれた。

「ええ。姫君は私のせいではないと言って下さいました。そして剛毅さん、貴方も」

 だから守護者を辞めるなんて言ってはいけない、と言っているようだった。

「そうだよ。それに剛毅が抜けたらますますこっちが不利になるじゃん。小鬼めちゃくちゃいるのにさ」

 園比の言葉に戒夜も頷く。

「失敗を悔やむなら、これまで以上に姫を守る事で取り戻せ。それが我々の選んだ道だったろう?」

「そうね。今更辞めるなんて言っても辞められるものじゃないでしょう? 同じミスは繰り返さない。それでいいじゃない」

 棗ちゃんもそう言って剛毅の肩をポンと叩いた。



 結局、剛毅は守護者を辞めるってのは撤回したものの、落ち込んだままだったのが気になって、すっかり公園で会った少年の事は頭から抜け落ちてしまった。

 その日の夜、寝室にノックの音と共に棗ちゃんがやって来た。

「姫様、よろしいですか?」

「はい、どうぞ」

 入ってきた棗ちゃんの手には、ティーポットやクッキーの乗ったお盆。

「今日はお疲れでしたから、甘いのもをと思いまして」

 棗ちゃんの心遣いが嬉しい。

「いつもありがとう、棗ちゃん」

 わたしがお礼を言うと嬉しそうに棗ちゃんも笑った。そしてこの間のように二人してベッドに座ってそれらを食べる。

「ねぇ、姫様」

 しばらく世間話をした後、ふと棗ちゃんが切り出した。

「差し出がましいかもしれませんが、その……やっぱり透見が候補だってみんなに言っても良いんじゃないでしょうか」

 棗ちゃんの言葉に思わず飲みかけていた紅茶をゴクリと音を立てて飲み込んでしまった。

「ど、どうして?」

 動揺しまくり状態で聞き返してしまう。

「みんな仲間ですし、いつまでも隠しておくのは心苦しいと思いまして」

 棗ちゃんの言葉を聞いて、みんなの絆の深さを感じた。やっぱり幼馴染みだから大きな隠し事とかしたくないんだろうな。

「けどまだ確定してないし、反発とか出ないかなぁ……」

 完全に透見って決めて名乗ってしまえば皆も納得するしかないだろうけど、未だ決めきれずにいるわたしがいる。……優柔不断だよね、わたし。

「そうですね……。園比あたりちょっと文句言いそうですけど、でも最終的に分かってくれると思いますよ」

 真面目な顔して棗ちゃんはうんと頷いた。

「だから、言っちゃいましょうよ。そしたら変な作戦練らなくても姫様と透見の二人で出掛けられますし〈唯一の人〉かどうかの確認もしやすいんじゃないかって思うんです」

 確かに棗ちゃんの言う通りかも。透見と二人になる理由考えるのも大変だもんね。

「そうだね。じゃあ、明日の朝食の席で言おうか。棗ちゃん、悪いけど万が一の時はフォローよろしくね」

「まかせて下さい。園比がごねてもなんとか言いくるめちゃいますから」

 にっこり笑って棗ちゃんが言う。心強いなぁ。

 その後はまた二人で少し他愛のない話をして、棗ちゃんは自分の部屋へと帰って行った。といってもすぐ隣りなんだけど。

 そうして一人になったわたしは布団に入って横になる。布団はもちろん、こんな豪華な洋風ベッドに似合わないわたしの布団のままだ。

 現実と変わらない寝心地に、『そうだよね。早く透見って決めちゃってラブイベント見なきゃだよね』と思った。

 暢気にしてたらいつか朝が来る。夢から覚めなきゃいけない時間になってしまう。せっかくだからどうにかラブエンドまでみたいよね。

 そう思いながらわたしは夢の中で眠りに落ちた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おまじないしたら恋の妖精さんが出てきちゃった。わたしのお願い叶えてくれる?

みにゃるき しうにゃ
恋愛
 あみは中学生。幼馴染みのふみかと一緒に恋のおまじないをしてみたら、恋の妖精さんがでてきちゃった。  これで両想いになれる?  方言小説です。  と言っても、なまりはあるけれど方言は少ないかも? どうかな?  子供の頃テレビで新喜劇みたり隣の県のラジオを聞いて育ってるので他所の方言が混ざっている可能性あり。  自サイトに載せている『恋のあみあみパニック』と同じものです。  ハッピーエンドではありません。(またか!)  一応標準語訳バージョンも載せますが、方言を標準語に直訳したものなので、標準語バージョンだけ読んだらちょっと変だったり口調が可笑しかったりします。

40歳88キロの私が、クールな天才医師と最高の溺愛家族を作るまで

和泉杏咲
恋愛
1度諦めたはずのもの。もしそれを手にしたら、失う時の方が怖いのです。 神様……私は彼を望んでも良いのですか? もうすぐ40歳。 身長155cm、体重は88キロ。 数字だけで見れば末広がりで縁起が良い数字。 仕事はそれなりレベル。 友人もそれなりにいます。 美味しいものはそれなりに毎日食べます。 つまり私は、それなりに、幸せを感じられる生活を過ごしていました。 これまでは。 だから、これ以上の幸せは望んではダメだと思っていました。 もう、王子様は来ないだろうと諦めていました。 恋愛に結婚、出産。 それは私にとってはテレビや、映画のようなフィクションのお話だと思っていました。 だけど、運命は私に「彼」をくれました。 「俺は、そのままのお前が好きだ」 神様。 私は本当に、彼の手を取っても良いのでしょうか? もし一度手に取ってしまったら、私はもう二度と戻れなくなってしまうのではないでしょうか? 彼を知らない頃の私に。 それが、とても……とても怖いのです。

側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。 内容そのまんまのタイトルです(笑 「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。 「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。 「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。 其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。 そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。 困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。 ご都合主義のゆるゆる設定です。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

【完結】白い結婚ですか? 喜んで!~推し(旦那様の外見)活に忙しいので、旦那様の中身には全く興味がありません!~

猫石
恋愛
「ラテスカ嬢。君には申し訳ないが、私は初恋の人が忘れられない。私が理不尽な要求をしていることはわかっているが、この気持ちに整理がつくまで白い結婚としてほしい。こちらが契約書だ」 「かしこまりました。クフィーダ様。一つだけお願いしてもよろしゅうございますか? 私、推し活がしたいんです! それは許してくださいますね。」 「え?」 「え?」 結婚式の夜。 これが私たち夫婦の最初の会話だった。 ⚠️注意書き⚠️ ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ☆ゆるっふわっ設定です。 ☆小説家のなろう様にも投稿しています ☆3話完結です。(3月9日0時、6時、12時に更新です。)

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました

山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」 確かに私達の結婚は政略結婚。 2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。 ならば私も好きにさせて貰おう!!

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...