37 / 63
透見と小鬼とそれから……? その3
しおりを挟む遠回りの道、小鬼に見つからないよう出来るだけ静かに透見と二人で歩く。
「みんな、大丈夫かな」
あれだけわらわらと小鬼がいる中にみんなを残してきた事を思うと、やっぱり気になる。無事だといいんだけど。
「そうですね。今は皆を信じて私達は行きましょう」
そう言って透見が手を差し出す。あまりに自然なその行為に、わたしも意識せずその手を取った。
曲がり角を曲がると、ふと児童公園が目に入った。以前剛毅に案内されてブランコに乗ったあの公園。
先日は誰もいなかったけれど、今日は少年がひとり、なんだか淋しそうにブランコをこいでいる。
ふと、キャップを目深に被ったその少年がこちらを見た。するとまるで、叱られるのを恐れる子供が親に見つかって逃げ出すように、その少年はブランコから飛び降り、駆け出した。
「え? 待って!」
無意識に透見から手を離し、その少年に声を掛け追いかけた。少年はまさか声を掛けられるとは思わなかったのか、驚き足を止め、戸惑っているようだった。
「姫君?」
追いかけてきてくれた透見と一緒に、少年の方へと向かう。
どうして少年に声を掛けたのか、自分でも分からなかった。けど、なんかほっとけなくて。
「来ちゃダメ」
もう少しで少年の前に着くところで、少年がかすれた声を出した。うつむいたその顔は、帽子に隠れて見えない。
「どうして?」
問いかけると少年は首を振ってこう言った。
「ごめんなさい」
その声は泣いているようだった。それがどうしても気になって、何故だか胸が苦しくて少年へと近づく。
「ダメ!」
少年はそう言うとくるりと向きを変え、全力で走り出した。その拍子に被っていたキャップが落ち、鮮やかな赤毛がわたしの目に飛び込んでくる。
小鬼と同じ色の、赤い髪。
「姫君!」
透見もそれに気づき、わたしの腕を引き庇うように前に出た。けれど少年は何をする事もなく、そのままどこかへと駆けて行った。
どういう事だろう。今の少年は、なんだったんだろう。
「透見、今のって小鬼じゃあ、なかったよね?」
今まで見てきた小鬼達は、みんな小さな子供の様な姿をしていた。幼稚園か小学校に上がったばかりくらいの年齢の姿だった。だけど今の少年は小学校高学年か、がんばって中学一年生くらいの男の子だった。
それに今まで小鬼達はみんな、わたしを見つけるとわたしをどこかへ連れて行こうとしていた。たぶん、空鬼の親玉の所に。
だけどあの子は、わたしを見た途端、逃げ出した。来ちゃダメって言った。
「……小鬼、ではないと思います。先程彼は声を掛ける前に貴女に気づきました。小鬼なら気づく筈はないのです。小鬼から姿を見えなくする魔術はまだ掛かっていますから」
そうだった。まだ魔術は掛かってるし、あの子が逃げ出す前までは出来るだけ気配も消して行動してた筈だ。
「てことは、たまたまよく似た髪の色をした男の子だっただけだよね?」
そう自分で言いつつも、引っかかっていた。なんでわたしはあの子が気になったのか。なんであの子はダメって言って逃げたのか。
「……絶対にない、とは言えませんが、この島の人間は伝承のおかげで〈空飛ぶ赤鬼〉と同じ赤毛を好みません。あの色をして生まれてきた子供の話は聞いた事がありませんし、あの色に染める者も皆無と言って良いでしょう」
考え込むように透見は呟き、それからわたしの手を取った。
「ともかく屋敷に戻りましょう。話はそれからです」
「あ、うん。そうだね」
剛毅たちは今も小鬼と闘ってるかもしれないんだし、もしかしたら小鬼がわたし達を追って探してるかもしれない。さっきの少年が何であろうと、とにかく安全な場所に行くべきよね。
わたしは透見に手を引かれるまま、出来るだけ物音を立てないよう歩き、屋敷へと向かった。
屋敷へとたどり着き、扉を閉めてようやく息をつく。それから中を見回してまだ誰も帰って来てない事に気がついた。
「剛毅たち、まだ闘ってんのかな……」
今日の小鬼は数が多かった。棗ちゃんはみんないるからすぐに終わるって言ってたけど、途中で透見も抜けたし、もしかしたら小鬼の方は数が更に増えちゃってるかもしれない。
そう思うとなんか、ますます皆の事が心配になってきた。
「姫君、そんな不安気な顔をしなくても大丈夫です。皆じきに戻って来ますから」
わたしを安心させるように微笑んで透見は言ってくれるけど、でもいつも賑やかな屋敷が静かだと、心配になる。
「ね、透見。わたしは無事ここまで帰って来れたから、透見はみんなの加勢に行ってあげた方がいいんじゃないかな。何も出来ないわたしがこんな事言うのも悪い気がするけど……。苦戦してたら一人でも多い方が良いんじゃ……」
しかし透見はわたしの言葉に首を振る。
「いいえ。確かに建物の中、特にこの屋敷は外より安全ではありますが、完全にという訳ではないのです。誰かが姫君の傍についていなければ。万が一という事もありますから」
ああ、そうだった。もし戒夜がこの場にいたら、「普段その為に棗が隣の部屋で待機している事をもう忘れたのか」って怒られるところだった。
しょぼんとするわたしに透見が優しい言葉をかけてくれる。
「姫君の優しい気持ちは嬉しいです。けれど我々は姫君の為にいるのですからご心配なさらないで下さい」
「うん。でもわたしに出来る事ってみんなを心配する事くらいだから」
なんとか笑顔を作ろうとしたら苦笑みたいになっちゃった。けどうん、わたしが落ち込んでも何にもならないよね。
気合いを入れる為、両手でパンと頬を叩く。その勢いがあまりにすごかったからか、透見がびっくり目になった。
「姫君? 何を……」
「ああ、ごめん。気分変えようと思って。あ、音は大きかったけど心配する程痛くはないから」
にこり。今度はちゃんと笑顔で透見に言えた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
おまじないしたら恋の妖精さんが出てきちゃった。わたしのお願い叶えてくれる?
みにゃるき しうにゃ
恋愛
あみは中学生。幼馴染みのふみかと一緒に恋のおまじないをしてみたら、恋の妖精さんがでてきちゃった。
これで両想いになれる?
方言小説です。
と言っても、なまりはあるけれど方言は少ないかも? どうかな?
子供の頃テレビで新喜劇みたり隣の県のラジオを聞いて育ってるので他所の方言が混ざっている可能性あり。
自サイトに載せている『恋のあみあみパニック』と同じものです。
ハッピーエンドではありません。(またか!)
一応標準語訳バージョンも載せますが、方言を標準語に直訳したものなので、標準語バージョンだけ読んだらちょっと変だったり口調が可笑しかったりします。
私、悪役令嬢にございます!
さいとう みさき
恋愛
鉄板の悪役令嬢物語にございます!
主人公トラックにはねられ女神様に会って自分がやっていた乙女ゲームの悪役令嬢に異世界転生させられちゃいます。
そして衝撃の事実、このまま行くと卒業式で国外追放か断頭処刑が待っている!
それを回避するには女神に言われた無事卒業して生き残らなければならない!?
あの手この手でフラグ回避して生き残れるか!?
二万文字以内で果たしてこの物語書き切るか!?
あんしん安定の鉄板ストーリー、サクッと読める「私、悪役令嬢にございございます!」始めますよぉ~!!
青空ベンチ ~万年ベンチのサッカー少年が本気で努力した結果こうなりました~
aozora
青春
少年サッカーでいつも試合に出れずずっとベンチからみんなを応援している小学6年生の青井空。
仲間と一緒にフィールドに立つ事を夢見て努力を続けるがなかなか上手くいかずバカにされる日々。
それでも努力は必ず報われると信じ全力で夢を追い続けた結果…。
ベンチで輝く君に
世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
ライト文芸
私、依田結花! 37歳! みんな、ゆいちゃんって呼んでね!
大学卒業してから1回も働いたことないの!
23で娘が生まれて、中学生の親にしてはかなり若い方よ。
夫は自営業。でも最近忙しくって、友達やお母さんと遊んで散財しているの。
娘は反抗期で仲が悪いし。
そんな中、夫が仕事中に倒れてしまった。
夫が働けなくなったら、ゆいちゃんどうしたらいいの?!
退院そいてもうちに戻ってこないし! そしたらしばらく距離置こうって!
娘もお母さんと一緒にいたくないって。
しかもあれもこれも、今までのことぜーんぶバレちゃった!
もしかして夫と娘に逃げられちゃうの?! 離婚されちゃう?!
世界一可愛いゆいちゃんが、働くのも離婚も別居なんてあり得ない!
結婚時の約束はどうなるの?! 不履行よ!
自分大好き!
周りからチヤホヤされるのが当たり前!
長年わがまま放題の(精神が)成長しない系ヒロインの末路。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
さよなら、真夏のメランコリー
河野美姫
青春
傷だらけだった夏に、さよならしよう。
水泳選手として将来を期待されていた牧野美波は、不慮の事故で選手生命を絶たれてしまう。
夢も生きる希望もなくした美波が退部届を出した日に出会ったのは、同じく陸上選手としての選手生命を絶たれた先輩・夏川輝だった。
同じ傷を抱えるふたりは、互いの心の傷を癒すように一緒に過ごすようになって――?
傷だらけの青春と再生の物語。
*アルファポリス*
2023/4/29~2023/5/25
※こちらの作品は、他サイト様でも公開しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる