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今度はみんなで神社へ行こう その3

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 神社の近くまで来ると、透見がスッとわたしの前へとやって来た。

「姫君。念の為、小鬼の目から姿を隠す魔術をかけておきますので、こちらへ」

「えーと、前にかけてもらった姿を消す魔術? てことは声とか出さない方が良いの?」

 術をかけてもらう前に訊いておく。喋っちゃ駄目なら色々と気を使っちゃうから。

「そうですね。小鬼が出て来たら、出来るだけ声は出さないで下さい。けれど小鬼の現れる前から気を使わなくても大丈夫ですよ。今日は棗さんもいますし、姿さえ見えなければ気配は我々のものと混ざって多少は誤魔化せるでしょう」

 棗ちゃんがいるしってのは、女性の声が聞こえても棗ちゃんの声って勘違いしてくれるって事だろう。

「前回は緊急でしたので略式の術でしたが、今回はもう少し丁寧にかけますね」

 そう言うと透見は呪文を唱え始めた。前回同様ふわりと何かがわたしを覆うのが分かる。その後、それを定着させる為なのか透見がわたしの頭から肩、腕から手の先それから腰から足、つま先の順に触れていった。

 魔術を掛ける為って分かってるのに、優しい手で触れられてついドキドキしてしまう。

「なんだよ透見。僕には手を繋いだだけで姫様に失礼とか言ってたクセに、自分は姫様の身体中触って、ずるいー」

 園比の声にますますわたしは赤くなってしまった。

「馬鹿な事を言わないで下さい。これは魔術の一環であって園比さんの様な下心ではありませんからっ」

 いつになく慌てた様子の透見の声にびっくりして彼を見てみると、彼も顔が真っ赤になっていた。

 これってちょっとは意識してくれてるからだよね?

 さっきのも、棗ちゃんの言う通りヤキモチだったとしたら、うん、結構透見の好感度、上がってきてるのかも。

 そんな事考えながら透見を見てたら、ばっちり目が合ってしまった。お互い照れ笑いの様な顔をしてしまう。

 それを見ていた園比がまた何かを言おうと口を開きかけたけど、それを封じるように戒夜が眼鏡を押し上げながら口を開いた。

「園比。お前は姫をそこらの女と同列に考えすぎだ。それに透見はお前と違って下心など有るわけないだろう」

 たぶん幼馴染みでずっと一緒にいたから戒夜は透見の真面目さを知ってるんだろう。それとも〈救いの姫〉に対する神聖な気持ち?

 そう思うとちょっと、やっぱりわたしの思い込み? と思っちゃうんだけど、でもうん、棗ちゃんと自分の勘を信じてみよう。透見はきっと、ちょっとずつだけどわたしを意識してくれている。

 そんな事考えている内に神社の前まで着いてしまった。

「今んトコ小鬼の気配はないみたいだな」

 ニコニコと剛毅が言う。

「そうだな。だが油断は禁物だ」

 戒夜がするどい目つきで辺りを見渡す。

「まあ、気配の無い内に神社に行きましょう」

 棗ちゃんの言葉を合図にみんな石段を上り始めた。

 何度来ても思うけど、階段って疲れる。運動不足が祟って息は切れるしだんだん足が上がらなくなってくる。

 それでもがんばって上って来ると、いつもの懐かしい風景が眼前に広がった。

 この風景を見ていると、ずっとぼーっと眺めていたくなるけど今日の目的はこっちじゃないからダメダメ。

 疲れたから休憩とか言ってそっちのベンチに腰掛けたりしない内にわたしは神社の拝殿へと足を向けた。



 以前にも透見は調べ物をしに来ていたからか、宮司さんに会うとあっと言う間に拝殿の中へ入る事を許してもらえた。

 それとも田舎の神社って結構簡単に中に入れてもらえるものなのかな。そういえば子供の頃少しだけ行ってたソロバンの塾は小さな八幡様の境内の側の小屋でやってたっけ。

 だから神社の建物の中に入ったは事なかったけど、お賽銭箱が置いてある階段の所とかは結構気軽に座ってジュース飲んだりアイス食べたりしてた記憶がある。

 まあそれはともかく、みんなで神社の中へと入り、辺りを見渡してみた。こういう場所に入る機会ってそうしょっちゅうはない。わたしの記憶の中では厄払いをしてもらう時に入ったくらいしか覚えがない。だからつい珍しくてキョロキョロしてしまう。

「で、どういうの探せばいいわけ?」

 剛毅も興味深そうに辺りを見回しながらそう言った。

「ええっと……。絵とか彫刻とか?」

 わたし自身もはっきり分かってるわけじゃないのであいまいな言い方になっちゃうけど。

 ぐるりと見渡し、天井近くに掛けられている古い絵を見つけ指さす。

「ああほら。あーゆーのとか」

 みんながいっせいにそちらを向く。

 その絵はかなり古いんだろう、所々剥げかけていて色も薄くなっている。けど、何が描いてあるのかはちゃんと分かる。といってもわたしの知識不足のせいでそれが飛鳥時代とかの服を着た女の人ってくらいしか分かんないんだけど。

「これは〈唯一の人〉とは無関係のようですね。おそらく天照大御神の絵姿を奉納したものでしょう」

 眼鏡をクイと上げて戒夜が言う。

「大昔の〈救いの姫〉の姿って可能性は?」

 園比がまじまじとその絵を見ながら戒夜に訊いた。

「確かに姫も神聖視されてはいるが……。透見、これまで文献で姫を神と表記されていた事は?」

「いいえ。姫君はあくまで〈救いの姫〉と。救世主である〈唯一の人〉も神という書かれかたは一切されていません」

 透見は静かに、でもきっぱりと答える。

「ではやはり違うだろう」

 そう言い戒夜は絵の一部を指さす。そこにはうっすらとだけど草書でナントカ大神とかなんとか書いてあるのが読みとれた。

「んー、じゃあ神とか書いてない絵とか彫刻とか探せばいいって事か」

 そう言いながら剛毅はキョロキョロと辺りを探し始めた。それを合図のようにみんな各々探し始める。

「こっちの絵は?」

「他にはえーっと……」

 そう言いつつ探すけど、いまいちこれっていう物が見当たらない。

「ていうか、ここより宝物庫っていうか蔵っていうか倉庫っていうか……。とにかくそういう場所に置いてるんじゃないか?」

 拝殿の中には数える程しか絵や彫刻は見当たらない。しかもどれを見ても伝承に関係ありそうな物はないもんだから、剛毅がそんな事を言う。

「小さな神社ですから宝物庫などという立派な物はございませんが、社務所の一部屋が物置代わりになっていますのでそちらをご覧になりますか?」

 そう言って人の良さそうな宮司さんが親切にわたしたちを案内してくれた。

 みんなでゾロゾロとその部屋へ向かう。物置、というだけあってその部屋には色々な物がゴチャゴチャと置かれていた。

「こ、これはちょっと大変だね……」

 なんせ本当に色んな物が置かれている。お守りや絵馬、破魔矢の在庫とか、お祭りに使うのだろうか提灯や何かの飾りとか。

 それでも躊躇してても仕方がない。とにかくみんなでゴソゴソと何かないかと探し始めた。


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