上 下
29 / 63

透見ルートに突入……出来るかな? その1

しおりを挟む



 ひとまず透見にターゲットを絞る事を決めたものの、今まで順番にガードしてもらってたのに、どうやって他の人を断って透見と二人になるか、見当がつかなかった。

 だから翌日、どうやって切り出せばいいんだろうと悩んでたら早速棗ちゃんが手助けしてくれた。

「姫様は今日も透見と図書館で調べものされるんですよね?」

 朝食の給仕をしながらにっこり笑う棗ちゃん。さすがというか凄いというか。ありがとう。

 そんな彼女に異を唱えてきたのは剛毅ではなくなぜか園比だった。

「え? 今日は剛毅の日でしょ?」

 首を傾げ、棗ちゃんを見る園比。

 けど棗ちゃんは反論があるのは想定済みだったみたいで、にっこり笑ってそれに答えた。

「昨日調べものをして、調べ切れてないって話は聞いたよね。だったら日を空けずに調べた方が効率良いと思うの」

 なるほど良い考えだ。と思ったのに棗ちゃんたら。

「もちろん剛毅が姫様に付き合って図書館で調べものしても良いと思うけど」

 急にそんな事を言い出す。

 けどそれは剛毅の性格を分かってたからみたいで。

「いや、オレ図書館は遠慮しとくわ。一緒に行くだけなら無理じゃないけど、一緒に調べものとか無理無理。絶対寝る」

 いつもの様にカラカラと笑ってはいるけど、珍しく苦笑いも含んで剛毅が言う。

「じゃあ園比が一緒に行く?」

 棗ちゃんに訊かれ、園比は一瞬言葉に詰まった。それでもなんとか反論しようと口を開く。

「調べもの、絶対しなきゃいけないの? 今まで通り街をぶらついて〈唯一の人〉捜すんでいいじゃん」

 だけどそれに答えたのは戒夜だった。

「いや、棗の言う通り透見と図書館で調べものをするのが良いだろう。二度も小鬼に襲われているのだから下手に屋外を歩くより図書館の方が安全だ。そして一緒に調べるなら伝承に一番詳しい透見がふさわしいだろう」

 戒夜の言葉に棗ちゃんは満足そうに頷き、剛毅もまあすんなり、園比はしぶしぶ頷いた。

 そしてようやく、それまで黙っていた透見が少し戸惑うように口を開いた。

「私は構いませんが、そうなるとしばらくの間私と図書館に籠もる事になるかもしれませんが、姫君はよろしいのですか?」

「もちろん。例の何が書いてあるか分からない頁の事も気になるし、透見さえいいならお願いします」

 わたしがペコリと頭を下げると透見が慌てて首を振る。

「そんな。姫君が頭を下げられる事はありません。ご一緒させてもらえて私は光栄なのですから」

「そうだよ。透見に頭下げる事なんかないんだよ」

 拗ねた様子で園比が言う。まあ、園比はけっこう順番を楽しみにしてくれてたみたいだから、拗ねちゃっても仕方ないよね。

「ごめんね、園比。剛毅と戒夜も」

 申し訳なさそうにわたしが言うと、剛毅はいつものカラッとした笑顔をわたしに返してくれる。

「気にすんな、姫さん。園比のは単なるワガママなんだから」

「なんでワガママなんだよ」

「わがままだろう。我々は姫を守るのが使命だが、姫と共にいる事だけが守ることではないんだぞ」

 戒夜がビシリと園比に言う。園比はむーっとしたままだったけど、渋々納得したのかそれ以上は何も言わなかった。



 再び透見との図書館デート。

 行くと司書のお姉さんはにこりと笑って当たり前のようにわたし達をあの部屋へと通してくれた。

「どういたしましょう。昨日お渡しした本はもう全部目を通されたのですよね? あと読みやすいものは……」

 本棚を眺め考える透見。

「あ、ううん。わたしほら、あんまり記憶力ないからもう一度あの本に目を通してみるよ。だから透見は透見の読む本を捜して」

 わたしはそう言うと昨日の本へと手を伸ばした。

「そうですか?」

 少し残念そうな顔をして透見は自分の読む本を探す。

 本当の事を言えば、読みづらい本を選んでまた透見に読んでもらうってのも捨てがたい案だった。その方が別々に本を読むよりも距離が縮まると思うし。

 けどもう一度あの本をきちんと読んでみたかった。この先のストーリーに何か関わる事が書いてあるのに見落としてるような気がして。

 そんな事を考えつつあの本へと手をやる。その背表紙に手が触れた瞬間、ポウッとほのかに本が光った気がした。よく見てないときっと気づかないんじゃないかってくらいの、淡い光。

 ほんとにほのかな光だったせいか、透見は気づいていないようで数冊の本を手に取るとそのまま席へと向かう。

「どうされたのですか? 姫君」

 たった一冊、読むと決めている本に手を伸ばしたままその場に立ち尽くしているわたしに気づき、透見が声をかけてきた。

「ううん。なんでもない」

 気のせいかもしれない。

 そう思うとなんか透見に話すのも気が引けて、わたしは本棚からその本を取りだしそのまま透見の待つ席へと向かった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...