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ガールズトーク(?)でルート選択出来るかな? その1

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 その日の夜、布団に入ってからわたしは頭を悩ませた。

 とりあえずみんなと一通り二人で過ごしてみた。ちゃっちゃと一人に絞って好感度上げていかなきゃなんだけど、誰にしよう。

 剛毅は候補から外したから、透見と園比と戒夜の三人。んー、誰のエンディングが見てみたいかなぁ。

 園比は、そうだなぁ。かわいいんだけどわたし、ショタ萌えはないんだよなぁ。でもあのさっぱりした女の子好きキャラは実は嫌いじゃない。おばさんのわたしでも一応女の子として見てくれてるし、そう思うと悪い気はしない。

 戒夜は……冷たいし無口だし、だけどいざとなったら体を張って守ってくれる。しかも眼鏡キャラ。……けっこうそう言うキャラ好きだったりするんだよね。

 ただ問題は、二次元キャラの時にそういうの好きだとしても、夢の中とはいえ実際にこうやって生身の人間として会った時に、あの冷たさにわたしが耐えられるかって事。正直なところ、あまりに冷たかったり意地悪だったりする人とやっていける自信は、かなりない。いや、わたしが先に相手のことを好きになってた場合は別なんだろうけど、今のところ戒夜にそこまでの気持ちがない。

 透見はそういう意味では優しいから良いよね。いつでもにこにこ笑ってるし、わりとわたしの味方をしてくれる気がする。そういう優しいキャラもわたしは大好きだ。ゲーム中でベタベタに甘やかしてくれるようなキャラにはかなり癒される。現実逃避上等。いや、乙女ゲーしてる時点でわたしの場合現実逃避なんだから、とことん夢見て何が悪いのよって感じでさ。

 だから甘やかしてくれそうな雰囲気の透見にも惹かれる。ただ問題はやっぱ、年齢なんだけど。せっかくの夢なのになんで年齢現実のままかなっ? これじゃ甘えたくても相手が年下だから甘えにくいじゃんか。

 せっかくの夢なのにといえば剛毅もそうだよね。せっかく夢なんだからそんなライバルキャラ的な女の子出て来なくても良いのに。このキャラのメンツ見てると王道でいけばメインヒーローは剛毅かなって思うのに。

 ……まあ、ひねくれ者のわたしはメインよりもサブに惚れる率高いんだけど。でもメインヒーローを好きになったゲームがないのかっていうとそうでもないしなぁ。

 て、何わたしまた剛毅を選択肢に戻そうとしてんのよ。ダメダメ。そりゃあもし剛毅がメインの話で、神社が懐かしい云々が剛毅ルートにつながるんだとしたらちょっと気にならなくはないけど。でもやっぱダメ。あの子と争うとかやっぱ嫌だし、せっかく減らした選択肢増やすとか無し無し。

 んで、元に戻して三人。誰にしよう。

 頭を抱えてうんうん悩んでたら、寝室の扉にノックの音。

「姫様。もう眠ってらっしゃいますか?」

 聞こえてきたのは棗ちゃんの声。

「ううん、まだ起きてるよ。どうぞ」

 返事をすると棗ちゃんが手にかわいい箱を持って入って来た。

「どうしたの?」

 訊くと棗ちゃんはにっこり笑って箱をわたしに差し出す。

「姫様お疲れではないかと思って。寝る前にどうかとは思ったのですが、差し入れです」

 そう言って渡された箱の中身はチョコレートだった。様々な形をした、かわいらしいトリュフチョコの詰め合わせ。

「うわぁ、いいの? ありがとう。わたしチョコレート大好きなんだよね」

 わたしが笑うと棗ちゃんも嬉しそうに笑う。

「チョコレートが嫌いな女の子はいませんよ。良かったら何かお飲み物を入れてきましょうか?」

 相変わらずの気遣いに頭が下がる。わたしそういうの、ダメなんだよなぁ。

 だけどせっかくの言葉だけど、それは断る。

「ううん、いいよ。ありがとう。それより一緒に食べよ?」

 飲み物無くてもチョコだけで嬉しいもん。

 だからお行儀悪いのは分かってるけど棗ちゃんにもベッドに座るように勧めてチョコの箱を間に置く。

「夕食の後に出したら良かったのに」

 チョコレートを口に入れ、至福を味わいながら呟く。

「あら、そんな事したら姫様の食べる分が無くなっちゃいますよ」

 棗ちゃんもトリュフを頬張りながら幸せそうに目を細めた。

「え? 男の子たちもチョコ好きなの?」

 棗ちゃんの台詞からして、みんな食べるって意味だろう。ちょっと意外だった。

「ええ。大好きですよ。剛毅なんか一時期手作りにハマっちゃってて色んなチョコ作ってみんなに配ってたんですよ」

 ふふっと笑いながら楽しそうに棗ちゃんが話す。

「園比は食べる専門だけどあっと言う間に食べちゃうし、透見も静かに食べてるから気づきにくいけど、テーブルに置いといたらあるだけ手を伸ばしてるんですよ。戒夜さんは洋酒の入ったトリュフとか好きみたいでそればっかり狙って食べてるし」

 へぇ、幼馴染みだけあってさすがによく知ってる。

 幸せそうにチョコを食べながらみんなの事を話す棗ちゃんを見ていたら、ふとこんな言葉が口から飛び出してしまった。

「棗ちゃんは好きな人、いるの?」

 初めて会った日に、ライバルになる子だったら嫌だなぁって思って考えないようにしてたのに、無意識に出た質問。自分でもびっくりだ。

 棗ちゃんはきょとんとした後、一瞬ぱっと顔を赤らめた。

「きゅ、急にどうしたんですか? 姫様」

 あたふたとそう言ってチョコを口に含む棗ちゃん。

「その反応……いるんだ」

 これがただの恋バナなら「誰々~?」って訊けるんだけど、もし好きな相手が四人の中の一人だったらって思うと、ちょっと複雑。

 けど、ものは考えよう。名前の知らないあの子が剛毅を好きだから彼を候補から外したように、棗ちゃんの好きな人も候補から外せば選択肢絞れるじゃん。

 わたしが一瞬暗い顔をしたのに気づいたのか、棗ちゃんが慌てて言った。

「大丈夫です。姫様の知らない人ですからっ」

 て、え? なんかわたし、気を使われた?

「いや別に、知ってる人でもわたし怒らないよ……?」

 この言い方もなんか変だけど。

 棗ちゃんはぶんぶん首を振ってわたしに言った。

「本当に姫様の知らない人なんです。それにその……」

 急に棗ちゃんは声を潜めた。

「剛毅たち四人の中の誰かが、〈唯一の人〉なんでしょう?」

 いきなりの棗ちゃんの指摘にびっくりした。

「な、なんでそう思うのっ?」

 まさか棗ちゃんて何かの鍵を握ってる重要キャラ? ありえるかも!

 そんなわたしの慌てぶりに、棗ちゃんも慌てたようにいきなり頭を下げた。

「申し訳ありませんっ。わたしが口を出す様な事じゃありませんでしたっ」

 最近ちょっと打ち解けてたんで、棗ちゃんのこの態度には少しびっくりした。

 よく見るとちょっと顔が青ざめてる。わたしの言い方、キツかった?

 わたしは慌ててフォローする。

「ううん、違うの。怒ってるんじゃないよ? そうじゃなくて、どうしてあの四人の中に〈唯一の人〉がいると思ったのか理由が知りたいなーって」

 彼女の顔を覗き込み、出来るだけ優しい声で言う。

「そ、それは……」

「うん」

 言い淀む棗ちゃんの言葉を待つ。すると棗ちゃんはためらいながら話し始めた。

「どこにいるか分からないなんて場所にいるよりも、姫様の近くにいる方が自然だって思ったんです。姫様同様〈唯一の人〉にも記憶や自覚が無いにしても、やはり空鬼から姫様を守るために近くにいるんじゃないかって。そうしたらあの四人の中の誰かとしか思えなくって……」

 なるほど。棗ちゃんの気持ちも分かる。記憶無くてもすぐ傍で守ってくれてるって、いいよね!

「それに、姫様が連れて歩くのは一人だけって決まった時、あれ? って思ったんです」

「え? 何が?」

「剛毅は姫様が男をゾロゾロ連れ歩いてるのを見たら〈唯一の人〉が嫌がるんじゃないかって言ってたけど……。確かにそれも、〈唯一の人〉が姫様の恋人なら嫌だと思うでしょうけど、でも他の男と二人きりの方がもっと嫌だと思うんです。でも姫様自身がその案を言い出されたから、だから四人の中の誰かが〈唯一の人〉で、それを確認してるんじゃないのかしらって……」

 な、棗ちゃんてばスルドイ。鋭すぎるよ。

 それでも一応、言い訳してみる。

「付いてきてもらうのは一人だけってしたのは、出来るだけプライベートを保てるようにってつもりだったんだけど……」

 たしかそういう建前だったよ、ね。もっとも遠くから見張られてたらしいから、あんまりプライベートを守られてなかった気もするけど。

 にしてもどうやって棗ちゃんを誤魔化そう。なんて言ったら棗ちゃんに気づかれずに言い訳出来る?


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