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剛毅とぶらぶら散歩 その3
しおりを挟む結局ドラッグストアで消毒液買って、手のひらに吹きかけてもらった。包帯も買おうとしてた剛毅を慌ててとめて、一番ひどくすりむけちゃった所だけ、絆創膏を貼ってもらう。
「ほっときゃその内治るけどね」
そういうわたしに剛毅は眉をしかめる。
「男ならともかく、女性の手に傷が残りでもしたら大変じゃん」
本気で言ってくれてるんだろうけど、そこまで言って貰える程の手でもないしなぁ。
それでもそう言って貰えるのは嬉しいから、たまには素直にうんと頷く。
「そういえばせっかく消毒薬買ったんだし、剛毅も擦りむいた所消毒しとこう」
そんなわたしの提案に彼はにっこり首を振る。
「ほんと大丈夫だって。どこも擦りむいてないよ」
そんな筈ない、と食い下がろうとした時。
「あれ、剛毅。……と姫様?」
聞き覚えのある女の子の声がした。見ると剛毅の事を好きなあの子だった。
「よう、何? 今日は一人で買い物?」
声をかけられ彼女は嬉しそうに頬を染める。彼女の事は苦手だけど、こんな場面を見ちゃうと剛毅の事が本当に好きなんだなぁって、微笑ましく思っちゃう。
「うん。剛毅たちは……〈唯一の人〉捜し?」
少しはにかんだ様子で彼女が問う。それにわたしは頷き剛毅は「おう」と返事をした。
「他の人たちは?」
まわりをキョロキョロと見渡す彼女。この間みたいに他にもう一人くらいいるんだろうと思ったみたい。
だけど今日は二人きりだから他の人なんて見つかるわけもなく、彼女の顔がちょっとひきつったのが見えた。けど、剛毅はそんな彼女に気づいてなくて。
「ん? 今日はオレたち二人だけだけど?」
ケロリと言った剛毅の言葉に彼女がずんと沈んだのが分かった。もちろん本人は顔に出さないよう努力してたけど。
こーゆーの見るとちょっと胸が痛い。わたしが本気で剛毅のこと好きならそこはそれ負けてらんないんだけど、今みたいに中途半端な気持ちだとなんだか立場を利用してすっごく悪い事してるみたいな気がしてくる。
「剛毅一人で大丈夫なの?」
言いたい事はそうじゃないだろうに、彼女はそんな事を言う。
「あ、オレのこと信頼してないのか? 大丈夫に決まってるじゃん。なあ、姫さん?」
同意を求められ、つい「はは」と曖昧に笑って誤魔化してしまった。
「あー、なんだよそれ。二人がいいって言い出したの、姫さんじゃん?」
わたしの態度に怒ったように剛毅が言う。もちろん本気で怒ってるんじゃなくて、半分フザケた調子なんだけど。
でも、その言葉を聞いて彼女の方は本気で腹を立ててしまった。
「それ、本当ですか? 本当に剛毅と二人きりが良いって言ったんですか? だったらそれって〈唯一の人〉への裏切りなんじゃないですか?」
そりゃそうだよね。わたしだって彼女の立場だったら怒るもん。
そんな激しい口調の彼女を見て、剛毅が慌てて取り繕う。
「あー、違うって。今日はオレが当番の日なの。二人がいいってのは、あんま男ゾロゾロ引き連れて歩いてたらその方が〈唯一の人〉に嫌な気持ちにさせちゃうんじゃないかって姫さんの配慮。姫さんが〈唯一の人〉を裏切るわけないじゃん」
剛毅の言葉に少し落ち着きを取り戻した彼女は、考えるようにちょっと首を傾げた。
「じゃあ明日は別の人が当番なの?」
まだ少し疑っているような眼差しで、彼女はわたしと剛毅を見ている。
「明日は園比が自分の番だって言って張り切ってたよ」
わたしが言うと彼女は安心したように小さく笑顔で息をついた。
「ごめんなさい。わたしったら失礼な事を言ってしまって。そうですよね、〈救いの姫〉が〈唯一の人〉を裏切るなんてありえないですよね」
その言葉にちくりと胸が痛んだ。なんかさっきから胸が痛い事ばかり。
まあ、理由は簡単。この娘は本気で剛毅を好きなのに対して、わたしは乙女ゲーの攻略相手を選ぶ感覚で剛毅を見てるからだ。
わたしの見てる夢なんだから、選んでしまえばよっぽどおかしな行動を取らない限り好感度足りなくてバッドエンドって事はないはず。だから選びさえすればきっと両思いになれる、はず。
たとえわたしが気軽な気持ちで選んだんだとしても。
だから胸が痛む。この娘は本気で剛毅が好きなのに、わたしが遊び半分に選んでしまえばこの娘の恋の邪魔をする事になる。
……剛毅は対象から外そう……。
わたしが本気で剛毅の事を好きになったんなら遠慮なんかしない。でも、確かに剛毅のことは好感持ってるし、さっきみたいなラブイベントっぽい事があればドキドキもするけど、恋はしていない。
だからそんな軽い気持ちで選んでも、彼女の存在に気づいちゃったからには絶対に後悔する自信がある。彼女が裏で泣いてると思うと、後味悪くてせっかくのラブイベントに集中出来ない可能性だってある。
だから、剛毅はやめとこう。
でも考えてみれば、ある意味良かったのかもしれないよね。これで選択肢の幅は狭まったんだから。
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