15 / 63
剛毅とぶらぶら散歩 その3
しおりを挟む結局ドラッグストアで消毒液買って、手のひらに吹きかけてもらった。包帯も買おうとしてた剛毅を慌ててとめて、一番ひどくすりむけちゃった所だけ、絆創膏を貼ってもらう。
「ほっときゃその内治るけどね」
そういうわたしに剛毅は眉をしかめる。
「男ならともかく、女性の手に傷が残りでもしたら大変じゃん」
本気で言ってくれてるんだろうけど、そこまで言って貰える程の手でもないしなぁ。
それでもそう言って貰えるのは嬉しいから、たまには素直にうんと頷く。
「そういえばせっかく消毒薬買ったんだし、剛毅も擦りむいた所消毒しとこう」
そんなわたしの提案に彼はにっこり首を振る。
「ほんと大丈夫だって。どこも擦りむいてないよ」
そんな筈ない、と食い下がろうとした時。
「あれ、剛毅。……と姫様?」
聞き覚えのある女の子の声がした。見ると剛毅の事を好きなあの子だった。
「よう、何? 今日は一人で買い物?」
声をかけられ彼女は嬉しそうに頬を染める。彼女の事は苦手だけど、こんな場面を見ちゃうと剛毅の事が本当に好きなんだなぁって、微笑ましく思っちゃう。
「うん。剛毅たちは……〈唯一の人〉捜し?」
少しはにかんだ様子で彼女が問う。それにわたしは頷き剛毅は「おう」と返事をした。
「他の人たちは?」
まわりをキョロキョロと見渡す彼女。この間みたいに他にもう一人くらいいるんだろうと思ったみたい。
だけど今日は二人きりだから他の人なんて見つかるわけもなく、彼女の顔がちょっとひきつったのが見えた。けど、剛毅はそんな彼女に気づいてなくて。
「ん? 今日はオレたち二人だけだけど?」
ケロリと言った剛毅の言葉に彼女がずんと沈んだのが分かった。もちろん本人は顔に出さないよう努力してたけど。
こーゆーの見るとちょっと胸が痛い。わたしが本気で剛毅のこと好きならそこはそれ負けてらんないんだけど、今みたいに中途半端な気持ちだとなんだか立場を利用してすっごく悪い事してるみたいな気がしてくる。
「剛毅一人で大丈夫なの?」
言いたい事はそうじゃないだろうに、彼女はそんな事を言う。
「あ、オレのこと信頼してないのか? 大丈夫に決まってるじゃん。なあ、姫さん?」
同意を求められ、つい「はは」と曖昧に笑って誤魔化してしまった。
「あー、なんだよそれ。二人がいいって言い出したの、姫さんじゃん?」
わたしの態度に怒ったように剛毅が言う。もちろん本気で怒ってるんじゃなくて、半分フザケた調子なんだけど。
でも、その言葉を聞いて彼女の方は本気で腹を立ててしまった。
「それ、本当ですか? 本当に剛毅と二人きりが良いって言ったんですか? だったらそれって〈唯一の人〉への裏切りなんじゃないですか?」
そりゃそうだよね。わたしだって彼女の立場だったら怒るもん。
そんな激しい口調の彼女を見て、剛毅が慌てて取り繕う。
「あー、違うって。今日はオレが当番の日なの。二人がいいってのは、あんま男ゾロゾロ引き連れて歩いてたらその方が〈唯一の人〉に嫌な気持ちにさせちゃうんじゃないかって姫さんの配慮。姫さんが〈唯一の人〉を裏切るわけないじゃん」
剛毅の言葉に少し落ち着きを取り戻した彼女は、考えるようにちょっと首を傾げた。
「じゃあ明日は別の人が当番なの?」
まだ少し疑っているような眼差しで、彼女はわたしと剛毅を見ている。
「明日は園比が自分の番だって言って張り切ってたよ」
わたしが言うと彼女は安心したように小さく笑顔で息をついた。
「ごめんなさい。わたしったら失礼な事を言ってしまって。そうですよね、〈救いの姫〉が〈唯一の人〉を裏切るなんてありえないですよね」
その言葉にちくりと胸が痛んだ。なんかさっきから胸が痛い事ばかり。
まあ、理由は簡単。この娘は本気で剛毅を好きなのに対して、わたしは乙女ゲーの攻略相手を選ぶ感覚で剛毅を見てるからだ。
わたしの見てる夢なんだから、選んでしまえばよっぽどおかしな行動を取らない限り好感度足りなくてバッドエンドって事はないはず。だから選びさえすればきっと両思いになれる、はず。
たとえわたしが気軽な気持ちで選んだんだとしても。
だから胸が痛む。この娘は本気で剛毅が好きなのに、わたしが遊び半分に選んでしまえばこの娘の恋の邪魔をする事になる。
……剛毅は対象から外そう……。
わたしが本気で剛毅の事を好きになったんなら遠慮なんかしない。でも、確かに剛毅のことは好感持ってるし、さっきみたいなラブイベントっぽい事があればドキドキもするけど、恋はしていない。
だからそんな軽い気持ちで選んでも、彼女の存在に気づいちゃったからには絶対に後悔する自信がある。彼女が裏で泣いてると思うと、後味悪くてせっかくのラブイベントに集中出来ない可能性だってある。
だから、剛毅はやめとこう。
でも考えてみれば、ある意味良かったのかもしれないよね。これで選択肢の幅は狭まったんだから。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
彼女が望むなら
mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。
リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる