春風の中で

みにゃるき しうにゃ

文字の大きさ
上 下
78 / 92
星見パーティー

その1

しおりを挟む



 ソキは風に乗せてにぎやかな村の歓迎式の様子を聞いていた。

 村長さんの挨拶の後、子供達の合唱が始まり、その最後にシガツ達が魔法で花を降らせる。

 きっと魔法が成功したのだろう。「わあ」という歓声が聞こえてきた。

 その様子を見たかったなとソキは思ったけれど、下手に村に近づかない方が良いのも分かっていた。

 師匠にもクギを刺されていたし、領主のお姫様ならもしかしたらお共に風使いを連れている可能性だってある。

 お守りの指輪はしてるし、ソキはまだ力の弱い存在だから捕まえようとする可能性は低いかもしれないけれど、近寄らないにこしたことはない。

 だから頭の中でどんな感じか想像するだけでやめておいた。

 それでも、楽しそうな雰囲気にソキも楽しくなる。ちょっと真似してそこらの花を幾つかふわりと飛ばして遊んだ。



 歓迎式が終わると間もなく、シガツが一人で帰ってきた。

「お帰り。早かったね。あれ? みんなは?」

 マインと師匠の姿がなく、ソキは首を捻った。

「師匠はまだやらなきゃいけない事があるみたいだよ。マインはせっかく可愛い服着たから、もう少しそのまま村で遊んでくるって」

 疲れたという顔をしてシガツは家の傍の木の陰に座り込んだ。ソキもフワリとその隣へと降りる。

「お姫様、どうだった?」

「ああ、うん。喜んでたんじゃないかな」

 曖昧なシガツの答えにソキは首を傾げた。

「どんな人だった?」

 シガツは近くで見たはずだから、「可愛い」とか「綺麗」という言葉が出てくるだろうと思いながらソキは答えを待った。だけど、シガツは苦笑いをしながら「どうだろう……」と答えを濁した。

 その様子にソキはあれ? と思った。

「もしかしてシガツ、お姫様の事キライ?」

 最近歓迎式の話題でシガツの顔が強張る事が時々あったけれど、それは大役だから緊張しているんだろうとソキは思っていた。

 だけどそれが終わったはずなのにシガツの顔が硬い。

「嫌いじゃないよ。……苦手ではあるけど」

「そうなの?」

 苦手なのに嫌いじゃないというのがピンとこず、ソキは再び首を傾げた。

 シガツは困ったように笑いながら肩をすくめる。

「ソキは……ソキもお姫様みたいなキレイな服が着たい?」

 言いかけた言葉を飲み込み、シガツが話題を変える。

 その事に気づいたけれど、言いたくなれば言うだろうと、ソキはそれに触れなかった。

「キレイな服は、好きだよ。マインの服もキレイだったね。けど、ちょっとの間くらいなら着てみたいけど、ずーっとは窮屈だから着ないよ。シガツも知ってるでしょ?」

 風の精霊についてあれこれ勉強したシガツなら、身体を締め付ける服が嫌いな事は知ってるだろうとソキは問う。

「あはは。そっか。じゃあ窮屈じゃない綺麗な服があったら、買おうか」

 シガツの言葉に嬉しくなってソキは「うん」と満面の笑みで頷いた。



 他愛のない話を二人でしていると、師匠よりも先にマインが帰ってきた。

「お帰り。早かったね」

 あんなにまだ着ていたいと言っていた衣装を脱ぎ、すっかりいつもの格好のマインを見てシガツはちょっと不思議に思った。

「うん。師匠が今日は遅くなるから夕食は二人で食べてって。師匠は夜の宴にも顔を出さなくちゃならなくなったから」

 少し沈んだ声でマインが言う。

「ごめん。もしかしてそれを伝える為に早く帰らなくちゃならなくなった?」

 シガツが先にひとりで帰ってしまっていたから。もしまだ村にいたら、そのままマイン達も村で食事を……となっていたかもしれない。

 謝るシガツにマインは慌てて首を振った。

「ううん。違うよ。もう帰ろうと思ったところで師匠から伝言預かったの。だから伝言がなくてもこの時間に帰って来てたよ」

 だけどマインはあんなに衣装を脱ぎたがらなかったし、村の子達とも遊べる絶好のチャンスなのに。

 それに何もなく帰って来たんならマインはもっと明るい顔をしているはずだ。

「どうしたの? 何かあった?」

 そう声をかけたのは、ソキだった。そんなソキをマインはじっと見つめる。

「……ソキもきっとキレイだよね」

 マインが漏らした呟きに首を傾げるソキ。

「さっきの衣装のマイン、すっごく可愛かったよ?」

「ああ、うん。すごく似合ってた」

 あの衣装の事で誰かに何か言われて落ち込んでるんだろうかとそう言ってみる。だが村の人達はみんなマインの事を可愛がっているから変な風に言う人なんていないと思うのだが。

「あ、うん。ありがとう」

 マインはちょっぴり頬を染め、照れたように微笑んだ。

 けれどすぐに浮かない顔に戻ってため息をつく。

「……さっきね、お姫様に会ったの。近くで見たお姫様ね、なんていうか品があって素敵だなぁって。逆立ちしたってあんな風になれないなぁ……」

 しょんぼりとするマインをシガツは不思議そうに見た。

「そうかな? 彼女も公式の場だから大人しくしてるだけで、マインと変わらない普通の女の子だと思うよ?」

「シガツはすぐ近くで見てないからそう思うんだよ」

 ぷうっとマインは頬を膨らませる。

 その様子を見て、どんな風に言ってもマインは拗ねるだけだろうと思い、シガツは話題を変える事にした。

「師匠が遅くなるんなら今日の夕食、星見の塔の上で食べないか?」

 実は以前からちょっと気になっていた。星見の塔なんて名前がついているのだから、きっととても良く星が見えるのだろう。

「面白そう!」

 シガツの提案にマインもパッと目を輝かす。

「みんなで夜に塔の上に来るの?」

 ソキもわくわくした顔で二人を見た。

「だろ? そうと決まれば持ち運びしやすいメニューがいいよな……」

 二人が乗ってくれた事にシガツは気を良くする。

 ちょっとした夜のピクニックに、マインの気持ちはすっかり晴れていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】愛人を作るのですか?!

紫崎 藍華
恋愛
マリエルはダスティンと婚約し愛され大切にされた。 それはまるで夢のような日々だった。 しかし夢は唐突に終わりを迎えた。 ダスティンが愛人を作ると宣言したのだ。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

私を棄てて選んだその妹ですが、継母の私生児なので持参金ないんです。今更ぐだぐだ言われても、私、他人なので。

百谷シカ
恋愛
「やったわ! 私がお姉様に勝てるなんて奇跡よ!!」 妹のパンジーに悪気はない。この子は継母の連れ子。父親が誰かはわからない。 でも、父はそれでいいと思っていた。 母は早くに病死してしまったし、今ここに愛があれば、パンジーの出自は問わないと。 同等の教育、平等の愛。私たちは、血は繋がらずとも、まあ悪くない姉妹だった。 この日までは。 「すまないね、ラモーナ。僕はパンジーを愛してしまったんだ」 婚約者ジェフリーに棄てられた。 父はパンジーの結婚を許した。但し、心を凍らせて。 「どういう事だい!? なぜ持参金が出ないんだよ!!」 「その子はお父様の実子ではないと、あなたも承知の上でしょう?」 「なんて無礼なんだ! 君たち親子は破滅だ!!」 2ヶ月後、私は王立図書館でひとりの男性と出会った。 王様より科学の研究を任された侯爵令息シオドリック・ダッシュウッド博士。 「ラモーナ・スコールズ。私の妻になってほしい」 運命の恋だった。 ================================= (他エブリスタ様に投稿・エブリスタ様にて佳作受賞作品)

【完結】種馬の分際で愛人を家に連れて来るなんて一体何様なのかしら?

夢見 歩
恋愛
頭を空っぽにしてお読み下さい。

処理中です...