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お姫様がやってくる
10 本番用衣装……。
しおりを挟むニールのおかげでシガツ達はたくさんの本物の花を飛ばす感覚をなんとか掴む事が出来た。
「ありがとう、ニール」
にっこりと笑顔でマインにそう言われれば、ニールはもう大満足だ。
村の小さな子達も、花を降らせる練習風景を見た事で自分が摘んでくる花の大切さを感じた。
「お花、優しく運ばないとだね」
「摘む時も気をつけないとだね」
そんなふうに、本番はもっと丁寧にでもたくさんの花を摘んで傷めないよう気を付けて運ぼうと思うようになった。
あとは本番を待つだけだ。
本当の事を言えばシガツは歓迎式には出たくなかった。村総出でお迎えするのだからそういう訳にはいかないのは分かっていたが、だったらせめて裏方の、お姫様からは顔の見えないような部分を手伝いたかった。
だけどそういうわけにはいかないらしい。村長はどうも師匠の魔法の腕をお姫様に自慢したいようだ。
「星見の塔の魔法使い殿にはこちらの衣装を着ていただきたい」
そんな村長の言葉に合わせてキュリンギが差し出したのは、目を引く鮮やかなブルーの豪華な衣装だった。お貴族様が着ていても可笑しくなさそうなその衣装にエルダは眉を顰める。
「マインちゃん達にはこっちね」
続けてキュリンギがマインとシガツに差し出したのは、エルダの物ほど豪華ではないが、それでも舞台映えしそうな衣装だった。
「……主役はあくまで視察に来られるお姫様です。あまりこちらが目立っては、不敬にあたるのではないですか?」
師匠の言葉にシガツも「その通りですよ」と言いたげに頷きながら村長を見た。だけど村長は、大らかに笑いながらそれを却下する。
「お姫様が主役だからこそ、目でも楽しんでもらいたいんじゃ。みすぼらしい姿の魔法使いが花を飛ばすより、見目の良い魔法使いが花を飛ばす方が良いに決まっておる」
「そうですわ。素敵な魔法使いや可愛らしい魔法使いの弟子達が自分の為に宙に花を舞わせてくれるなんて。ただ空から花が降ってくるだけよりもきっと、お姫様は喜びますわ」
ニコニコと笑いながらキュリンギさんも衣装を勧める。
そもそもこの衣装を見立てたのはキュリンギだ。長く美しい銀髪のエルダがこの鮮やかなブルーの衣装を身に纏えば、きっと誰よりも美しく映える事だろう。
いつも編んで後ろに垂らしているその髪を前に垂らしてアクセントに何か飾りを付けてみてはどうだろう。それともいっそ、編まずに背中に流すのも良いかもしれない。
エルダがこの衣装を身に着けたところを想像しながらキュリンギはうっとりとした。
貰った衣装を両手に、マインはうっとりとしていた。春の夜祭りの時、ちょっと良い余所行きの服を買ってもらっただけで「もったいない」と着るのを躊躇してしまうマインだったが、この衣装はさすがにこの時着ないでいつ着るんだっていうデザインだ。
マインだって女の子。華やかで豪華な衣装を着ることが出来て嬉しくないはずがない。
もちろんお姫様が一番高級で素敵な衣装を身に着けていることだろう。だけど村の女の子の中では一番かもしれない。
別に目立つことが好きなわけではないけれど、それでもやっぱり嬉しかった。
だけど師匠とシガツの男性二人は深く深く溜め息をついている。
「どうしても着なくちゃダメですか、師匠」
「私も出来る事なら着たくはないんですがね……」
どうにも二人共、その衣装を着たくはないらしい。でも。
「二人とも似合うと思うよ。さすがキュリンギさんだよね」
ちゃんとそれぞれの髪や瞳の色に合わせて似合う衣装を用意してある。
「それに、衣装作る前ならともかくもうここにあるんだからさ、着なかったらもったいないよ」
まさかマインにそんな風に言われるとは思わず、エルダは渋い顔をした。
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