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お姫様がやってくる
8 ニールの思いつき
しおりを挟む村はお姫様を迎える準備で大忙しだった。
なにせ辺鄙な村だから、そんなお偉い方を接待する事など今までなかった。
村には宿屋なんてない。もしあったとしてもお姫様を泊めるような質の高い宿屋であるはずもない。そんな事はお姫様サイドも分かっているだろう。
きっとお姫様は近くの街の視察のついでに田舎の村の様子もちょこっとだけ見てお帰りになるのだろう。
最初はそう誰もが思っていたのに。
「大変だ。お姫様はこの村に一泊される事をご希望されているそうだ」
「え? お姫様の泊まれる家なんてこの村にあったか?」
「この村で一番立派なのは、やっぱり村長の家だろう」
「食事はどうするんだ? お姫様の口に合うものなんて作れるのか?」
「お姫様のお付きの方はどのくらいの人数来るんだ?」
「お付きの人達の泊まる部屋はどこにするんだ?」
誰もが大慌てだ。
もちろん村長補佐であるニールの兄もバタバタと忙しそうに走っている。
ニールもそんな兄の雑用を手伝いながら、今頃マインはどうしているだろうと思った。
お姫様の歓迎式で星見の塔の魔法使い達が花を舞わせるという話はニールの耳にも届いている。村の子供達は手分けをして当日の朝摘み取れる花がどの辺りに咲いているのかを調べまわっている。
マイン達はきっと花を降らせる練習をしている事だろう。
兄の役に立てるのは嬉しい。だけどマインの事も気になった。
お姫様の前にたくさんの花を降らせるなんて大役だ。マイン自身も失敗しないように頑張ってるだろう。
そんなマインを励ましたりやり方のコツを教えたりしあう事の出来る立場にシガツがいる事が羨ましかったり腹が立ったりした。
そりゃあ自分は魔法を習っていないからコツを教えあったりは出来ないけど。それでも会った時にマインが落ち込んでたら慰めることくらいは出来るのに。
そんな事を考えつつ雑用の為に村の中を行き来していたニールの目に、色んな花を手に持ち歩くエマの姿が映った。
「エマ。もう花を摘んできたのか?」
野の花は日持ちしないものが多い。だから前日の夕方と当日の朝に一気に花を摘むという話を聞いていたのだが。
「これは見本よ。小さな子や男の子は花に詳しくない子もいるでしょう? だから前日の夜でも大丈夫な花と当日の朝じゃなきゃダメな花の説明をするのにね。他にも、今こんな風に咲いてる花は当日摘みに行っても散ってるから、次のつぼみがちゃんとついてるか気を付けてとか」
正直言ってニールも花には詳しくない。せっかく花がたくさん咲いている場所を見つけたと安心していたのに当日その花のほとんどが散っていたとしたら、大慌てするだろう。
エマの話を聞いていて、ニールはふと良い事を思いついた。
「エマ。明日少し時間あるか?」
そうしてニールはエマに自分の計画を打ち明けた。
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