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お姫様がやってくる
6 花を降らせる練習 その1
しおりを挟む花を降らせる魔法は、やはりというか苦労した。
村長達はともかく、普通の村人があまりたくさんお姫様に近づくのは良くないだろうと、少し離れた場所から花を降らせることになった。
マインとしてはお姫様の上に花を降らせた方が絶対に喜ぶと思ったのだが、シガツの言う通り、万が一にでも花の茎とかでお姫様の顔にでも傷がつけば、大問題だ。だからお姫様には当たらない、けれど出来るだけ近くに降らせるという事に決まった。
だからその距離感を掴むためにソキをお姫様に見立てて三人は魔法の練習をしてみたのだが。
「……やはりコントロールが難しいですね……」
本来弟子達に見本を見せなければならないエルダが眉をしかめ呟く。
「自然の風の流れにも多少影響されちゃいますよね……」
シガツが空を見上げ、雲の動きを見た。
「そうですね。……場合によってはお姫様を守る魔法を掛ける事を考えた方が良いのかもしれませんね」
護衛に付いて来ている者の中にそういう魔法を使える者がいれば、そこまでする必要はないのかもしれないが。
そんな事を考えている師匠やシガツを余所に、マインはぷうっと頬を膨らませながら、花を空へと放った。そしてもう一度魔法で風を吹かせてみる。
だけどマインの魔法の風は上手く花を捉える事が出来ず、花はポトリと地面に落ちてしまった。
「もー。どうやったら花が飛ぶの?」
師匠もシガツも微妙なコントロールが出来ていないとはいえ、花を空高く飛ばす事には成功している。だけどマインはそれさえ出来ずにいた。
「魔法だと、そんなに難しい?」
首を捻ったソキが、フワリと風を吹かせる。
さすがは風の精霊と言ったところか、地面に落ちていた花々を一気に空に舞い上げ、狙った場所へとフワフワと花を降らせる。
さっきまで出来ないと拗ねていた事も忘れ、マインはその美しい光景に見惚れた。シガツとエルダも考えるのをやめ、降る花々に見入った。
「ねぇ、ソキにも手伝ってもらおうよ」
これだけ完璧に出来るんだから、ソキにやってもらった方がお姫様を喜ばせる事が出来るじゃん。
そう考えてマインは提案したのだけれど。
「いえ。それは止めておいた方が良いでしょう」
師匠はゆっくりと首を横に振った。
「確かにソキならば理想の形で花を降らせる事も可能でしょう。しかし考えてもごらんなさい。村の人達の中にだって未だ彼女を恐れている人もいるんですよ。風の精霊がやったと知ってお姫様が怯えてしまったらどうするんですか。御領主様がお怒りになって大変な罰を与えられる可能性だってあるんですよ」
師匠の言葉にシガツは『そうかもな』と頷いた。領主と領民である村人は決して敵ではない。どちらかというと家族のような存在ではないだろうか。
それでも領主だって人間だ。本当の娘が恐ろしい目に合えば、当然そう仕向けた者達を罰しようとするだろう。
特にここの領主は一人娘である彼女をとてもかわいがっている。それを知っているシガツはそうなりかねないと思っていた。
だけどマインは不満いっぱいだった。
ソキがお姫様に危害を加えるはずないんだから、ちゃんと話せば分かってもらえるはずなのに。村のみんなだってちょっとずつソキの事分かってくれてるんだから。
そんなふうに思ってマインは師匠を見る。
「ちゃんとお姫様にソキは風の精霊だけど友達だから怖くないって説明して、それからソキが花を飛ばしますって言えば大丈夫だよ」
春の夜祭りの時はみんなに精霊だと説明し忘れて怖がらせてしまったけど、今度はちゃんと忘れずに言う。そうすればお姫様だって怖がったりはしないはずでしょ。
マインはそう師匠に訴えるけれど、エルダは頑として首を縦に振らない。
「マイン。ソキも、お姫様の前に出るのはちょっと……」
しまいにはソキまでそう言いだした。
がっくりと項垂れるマインを慰めるようにシガツが彼女の肩をポンと叩いた。
「とにかくオレ達で頑張ろう」
そう笑顔で言われて渋々マインはソキの参加を諦めたのだった。
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