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お姫様がやってくる
4 遊ぼう
しおりを挟む村に行く約束の日、朝早くにエルダは弟子達とソキを呼び出した。村の子達と会う前にきちんと話をしておきたいと思ったのだ。
「もお、師匠ったら。そんなに何回も言わなくても分かってるってば」
良いと言うまでソキをみんなに会わせないようにと言う師匠に、マインは軽く拗ねたように言う。だけど何せマインには前科がある。
もう一度エルダは弟子達に絶対に約束を守るようにと言い聞かせてから、村へと行く準備を始めた。
エルダとマインとシガツ、三人並んで村へと向かう。途中までは一緒でも大丈夫だろうと、その上にソキも飛んで付いて来ている。
「今日はみんなで何して遊ぼうか」
にこにことマインはみんなで出来る遊びを思い浮かべる。
「ね、シガツは何がいい?」
ソキは風の精霊だから人間の遊びなんて知らないだろうとマインはシガツに尋ねた。だけどシガツも「うーん」と悩むように頭を捻って、それから困ったように笑顔を作った。
「実はオレ、あんまり大人数で遊ぶ機会がなかったんだよね。ここに来る前はソキと二人で旅してたし、その前は風の塔での修業に夢中で遊ぶ時も魔法関係で遊んでたし。その前はあまり同年代の子と遊ぶ事がなかったからなぁ……」
「え? そうなの?」
意外だった。てっきりシガツは友達が多いだろうとマインは思っていたのだ。風の塔時代はともかく、家にいた頃も友達と遊んでなかったなんて……。
「どんな遊びがあるの?」
話を聞いていたソキが、上から声をかけてくる。
遠目に子供達が遊んでいるのを見た事は何度もあるけれど、実際に一緒に遊んだ事はなかったからソキは詳しい遊び方は知らなかった。
そんなソキやシガツに説明しようとマインは「うーんと……」と色んな遊びを思い巡らす。
「わたしが好きなのは『花の輪』とか『円結界』かな」
知らない遊びにわくわくとシガツもソキもマインを見る。
普段はシガツに教えられてばかりなのに、遊びとはいえシガツに教える立場になったマインは、なんだかお姉さんになったみたいでむず痒く感じた。
「『花の輪』はね、人間と花人の二つに別れて遊ぶ遊びでね……」
道々説明しながら歩いていると、ふと師匠が子供達に声をかけてきた。
「誰かがこちらにやって来るようですよ」
わざわざ誰か迎えに来てくれたのだろうか?
目を凝らすとエマが、こちらへと駆けて来ていた。
「すみません、星見の塔の魔法使い」
息を切らしながらエマが呼び掛けてくる。
「どうしたんですか? 何かあったのですか?」
これはただのお迎えではないと気づき、エルダもエマへと駆け寄った。
エマは無事に彼らと合流出来た事にホッと笑顔になった。
「すみません。今日の予定は中止になりました。それで、大切な会合を開くことになったので星見の塔の魔法使いも参加して下さいって事です」
エマの笑顔と内容に緊急の要件ではないと悟り、エルダもホッとした。
とはいえ、エルダが村の会合に呼ばれるのは珍しい。彼は基本、村の運営には携わらない。だから魔法使いが必要と思われた時だけ村長かキュリンギが相談にやって来るというのが常だった。
いったい何があったんだろう。
そう思いながらもエルダは弟子達を振り返った。
「そういう事ですので、今日は家に帰っていなさい」
その言葉に当然の様に「えーっ」と文句の悲鳴を上げるのは、マインだ。
「なんで? 呼ばれてるのは師匠だけじゃん。わたし達はみんなと遊んでてもいいでしょ?」
口をとがらせ言うけれど、それに答えたのはエマだった。
「ごめんねマイン。わたしとニールも会合に呼ばれているの。イムとチィロにも今日は中止って伝えちゃったし」
師匠相手ならマインも粘ってごねてみせるけれど、エマを相手にそんな態度は見せられない。
「そっか、残念……」
しゅんと俯き、そう言うしかなかった。
余程楽しみにしていたのだろう。しゅんとしたままトボトボと帰るマインを見ているとシガツはなんだか可哀そうになった。
だからなんとか元気づけようと、提案してみる。
「マイン。帰ったらさっきの遊び、もう一度教えてくれないかな。ホラ、聞いただけじゃ分かりにくいから実際に遊びながら覚えたいんだけど。そしたら今度みんなで遊ぶ時、教わる手間も省けるし」
シガツの言葉にマインはパッと顔を上げた。
「それとも三人じゃ遊ぶの無理かな?」
「そんな事ない。そりゃ、もうちょっと人数多い方が面白いんだけど、三人でも遊べない遊びじゃないよ」
マインが慌てて告げると、シガツはにこりと笑顔を見せた。その笑顔になぜだか、マインの顔にポッと熱が灯った。
な、なんで。
顔が赤くなった事に気づいてマインは慌ててブンブンと首を振る。
「マイン?」
不思議そうにシガツとソキが彼女を見ているのが分かる。
「うん。じゃあどっちから遊ぶ?」
誤魔化すように笑みを浮かべてマインは二人にそう尋ねた。
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