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和解と波乱の兆し
やって来た大人達
しおりを挟むソキがどこかへ行ってしまったのを見てマインとキュリンギは首を傾げた。
「何かあったの?」
近くに行きシガツに尋ねる。
「誰かがこちらに向かって来てるらしいよ。たぶん、師匠にお客様だと思う」
シガツが答えていると師匠も気になったのかすぐ傍までやって来ていた。
「お客様? 予定はないですが……何の用事でしょう」
真面目な顔になり、エルダは道の向こうへと目をやった。その頃には小さな人影が二つ、皆の目にも映り始めていた。
「あー。そんちょーさんとニールの兄ちゃんだー」
目の良いイムがその影を特定する。
「ほんとだ」
やはり遠くまでよく見えるチィロがそれに頷いた。
それを聞いたキュリンギが眉をしかめる。
「今日ここに来るだなんて、聞いていないわ」
二人してやって来たという事は、例の件で来たんだろう。子供達のいない時を見計らってエルダに告げておこうと思ったのに、今からじゃ間に合わない。
申し訳なく思いながらキュリンギがエルダをチラリと見ると、彼は『気にする事は無い』というように小さく首を振った。
「さて、何の用事でしょうか」
ソキの件ならば先日村長も容認してくれたばかりだ。今更手のひらを反す事はないと思うのだが。
しかし村の人達が強く反対したなら、村長も考えを変えるかもしれない。
「ひとまずマインとシガツはお客様の為にお茶の準備を。それから皆さんは、今日はもうお帰り下さい。その内また村の方に出向きますので」
子供達にそう語りかけたエルダに、家へと戻り始めていたマインが振り返り叫んだ。
「待って。お客様はたぶん、師匠に大切な用があるんでしょ? だったらわたし達はいない方が良いと思うから、その間みんなと遊んでても良いでしょ?」
元々この後みんなと少し遊んで良いという話だったのだから、今更遊べないなんてつまんない。
必死にマインは目で師匠にそう訴えかける。
「そうですよ。オレ達外で遊んで邪魔はしませんから」
マインの言葉を援護するようにニールも言った。
「そうね、家から離れて遊んでいれば問題ないんじゃないかしら」
キュリンギもそう同意する。
エルダは少し考えた後、それに頷いた。
「そうですね。ですがまずはお茶の準備をして下さい。私は彼らを出迎えてきますので。その後でしたら遊びに行ってもいいですよ」
師匠の言葉にマインは喜び、急いでお茶の支度をするために家の中へと飛び込んだ。
お湯を沸かしお茶菓子を皿に乗せ、お茶のポットとカップとソーサーの用意が出来たところで師匠がお客様を連れて家の中へと入って来た。
「こんにちは」
笑顔で挨拶を交わしお客様に椅子を勧める。そこには村長たちだけでなくキュリンギの姿もあった。
いったいどんな用事で村長達は来たんだろう。
気にはなるけれどペコリと頭を下げ、「それじゃあ」とマインとシガツは部屋を出ようとした。しかしそれを師匠が止めた。
「シガツはここに残って下さい。マインは遊んできて良いですよ」
「え?」
二人の弟子は驚いて師匠を振り返った。どうしてシガツだけが引き留められたのか、見当もつかない。
「ほら、マインは行きなさい」
戸惑う彼女にそう言うと、エルダはシガツだけを部屋に残しパタンと部屋を閉めてしまった。
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