春風の中で

みにゃるき しうにゃ

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和解と波乱の兆し

みんなでお茶を飲もう

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 ソキの言葉通り、それから間もなくキュリンギ達がやって来た。

「こんにちは。パンとお菓子を持って来たのだけれど、今大丈夫かしら?」

 キュリンギも午後は大抵修業の時間に充てられている事を知っているので、少し遠慮がちに声を掛けてきた。

「どうぞ。ちょうど今きりが付いたところです」

 あらかじめ彼女たちが来ることが分かっていたので、エルダは話のきりの良いところで「また明日」と弟子たちに告げていた。

「まあ、良かった。じゃあ子供達も呼んでも大丈夫ね。みんな、もう修業は終わったから遊べるそうよ」

 振り返り、キュリンギは扉の陰にいた子供達に告げる。すると今まで息を潜めるように静かにしていた子供達がわっと騒ぎ始めた。

「こんにちは、マイン。みんなで外に行こうよ」

「外で遊ぼう」

「シガツもおいでよ」

 わいわいと家の中へと押し寄せてくる。

「いえ、せっかくキュリンギさんがお菓子を焼いてきて下さったんですから、みんなでお茶にしましょう」

 師匠が外に出ようとする子供達を止める。

 今、キュリンギと二人きりになるのは避けたかった。パンを焼いてきてくれたりソキの事でかばってくれたりと色々恩はあるものの、やはり人妻である彼女と二人きりになるのはマズイ。

 特にキュリンギ本人が不倫を望んでいると知っているので、その罠に落ちるわけにはいかなかった。

 子供達は素直に外に行くのをやめて、めいめい座る場所を確保する。こんなに大人数の来客は滅多にないから人数分の椅子は無かったが、そこはそれ子供達はそれぞれ工夫して座る場所を確保した。

「あ、じゃあわたしがお茶入れるね」

 マインがパッとお茶を沸かしに行く。

「あ、じゃあカップを用意しとくよ」

 シガツがサッと人数分のカップを並べ始めた。

 キュリンギの持って来たお菓子を魔法使いから受け取りながらニールはムッと腹を立てていた。

 同じ家で暮らす兄弟弟子なのだからマインとシガツの息が合うのは当然だろう。だけどこんな風に息を合わせて行動しているのを見せられるとどうしても妬けるし、腹が立つ。シガツはニールがマインを好きな事を知ってるんだから、その場所を譲ってくれてもいいんじゃないかとさえ、思う。

 そんなニールの視線にシガツも気が付いていた。

 やっぱり先日のケンカ別れのようになったままだから、まだ怒ってるんだろうか。

 マインと息を合わせたつもりも、特別に仲よくしたつもりもなかったシガツはニールの視線の意味をそんな風に考えた。



 キュリンギのお菓子はいつものごとく美味しくて、子供達も笑顔で頬張っている。その様子に満足しながらエルダはキュリンギへと目を向けた。

「それで、今日はどうされたんですか?」

 来るなと言ってもキュリンギはちょこちょことパンやお菓子の差し入れを持ってやって来る。それがほぼ日常化していたので彼女が来る事自体はそこまで気にならなくなっていた。

 だが今日は子供達を引き連れてやって来た。

「もちろんエルダに逢いたくてやって来ましたのよ」

 にっこりと笑いながらキュリンギが身を寄せてくる。

 普段ならお茶を共にするとしても出来るだけ離れた席に着くようにしているのだが、今日は子供達が多かったせいで隣同士しか空いていなかった。それでもこんなにたくさん子供達がいるのだからと、油断していた。

 気が付くとエルダはキュリンギに腕を取られ、その豊満な胸をぎゅうぎゅうと押し付けられていた。

 慌てて腕を引き抜き、彼女を睨む。

「そんな理由で子供達も連れて来たのですか?」

 さすがにそれは困る。子供達まで気軽に遊びに来られるようになって、万が一の事があっては問題だ。

 だけどキュリンギは口元に指を当て、小首を傾げた。

「子供達とは偶然そこで会いましたのよ。ソキちゃんに少しずつ慣れる為にみんなで来たって言ってたから、てっきりエルダが呼んだんだと思ってましたわ」

 彼女の言葉に慌てて子供達へと目をやると、みんなコクコクと頷いている。

 エルダはしまったと思った。確かに村の人達にはソキに慣れてほしいと思っている。だけどそれを理由にちょくちょくここに来る事にも慣れてしまって、もし魔物にでも遭遇したら、大変だ。

「彼女と少しでも早く仲良くなりたいと思ってくれるのは、大変ありがたいです。けど以前も言ったように子供達だけでここに来るのは危険です。こちらから出向くようにしますので、勝手にここには来ないようにして下さい」

 優しい口調で、だけどキッパリと子供達に告げる。

 怒られたと思ったのかみんな、気まずそうにうつむいてしまった。けれどやっぱりメゲないのはマインだ。

「けど今日はせっかく来てくれたんだし、みんなと遊んでもいいでしょ?」

 マインと一緒になって他の子供達も「遊んでもいい?」と目で訴えかけてくる。さすがにエルダもここで「ダメ」という程非情ではなかった。小さく息をつき、みんなに告げる。

「ではお菓子を食べ終わったら、みんなで外に行ってソキを呼びましょう。怖いと思う子は無理に近づく必要はありません。大丈夫な子は少し近づいて話をしてみて下さい。その後時間がまだあるようでしたら、好きに遊んでいいですよ」

 師匠の言葉にマイン達はわっと喜んだ。


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