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ニールとシガツ
その3
しおりを挟むシガツの言葉にニールはカッと頭が熱くなった。
なんだコイツ。何ナマイキな事言ってるんだ。
そんなに悪い奴じゃないと思っていたのも忘れて、なんて嫌な奴とシガツを睨みつける。
「オレだって兄ちゃんが村長になった暁には、その補佐をするんだ。そんなオレをバカにするのか?」
村の子供達は誰一人、ニールに逆らう事なんてなかった。エマは年上だからたまに反対意見を言う事もあるけど、最終的には言う事をきくし、こんな風にあからさまに逆らったりなんてしない。
だけどシガツは脅しても恐れるどころか呆れるようにため息をついて言う。
「例え将来お兄さんが村長になろうとキミがその補佐をしようと、今はただの子供だろ。それに人の上に立つ人間になるなら尚更私情で他人を動かしちゃダメだ」
わけの分からない事を言う。だいたい余所者のクセにオレに命令するのか?
ニールはカッとなってシガツの胸ぐらを掴もうとした。だけど素早くシガツに避けられてしまう。
ナマイキな。
ますます腹を立てニールはシガツに殴りかかろうとした。
「よせっ」
素早くシガツに腕を取られ、止められる。
「放せよ」
手を振り解こうと、暴れる。
その騒ぎを聞きつけたのか、誰かがやって来る気配がした。
マズイ、と思った。昨日あまりここに来るなと魔法使いに言われたばかりだ。シガツも同じように思ったのか手を放してやって来る気配からニールを隠すように立った。
「シガツ? 誰か来てるの?」
声をかけてきたのは大好きなマインだった。嬉しさにシガツの前に飛び出しそうになる直前に、ニールはもう一つの気配を感じ取った。背筋がゾワリとする。
「マイン、ソキ。……いや、何でもないよ」
誤魔化しながら二人の元へと行くシガツに隠れながらニールはさっと二人からは見えない木の陰へと隠れなおした。
ニールが木の後ろへと行ったのを確認して、シガツはホッと息をついた。
「けどなんか、ケンカしてるみたいな声が聞こえたよ?」
少し心配そうにマインが言う。だけどニールには気づいていないようだ。
「ああ、いや。ちょっと虫が顔に寄ってきから、文句言いながら追い払ってたんだ」
苦しい言い訳だったかもしれないが、マインは「ふうん」と頷いてくれた。
ふと、その横にいるソキがニールのいる木の方を見ている事に気づいた。シガツの視線を感じたのかソキは視線を逸らすとソワソワとし始める。
きっとソキはあそこにニールがいる事に気づいたんだ。
「そろそろ家に戻ろうか?」
この場から離れる為、二人に告げる。
「うん、帰ろう」
素早く答えたのはソキだったきっと師匠から、師匠のいない時に村の子と会うなと言われていたのにニールの気配を感じて、不安になっていたんだろう。
「あー、うん。そうだね。そろそろご飯の時間だね」
気が付いてこそないけれど、何かを感じ取ったマインはそれが気になりつつおざなりにそう告げて家へと足を向けた。
夕食を終え、それぞれが部屋に帰った頃を見計らってソキはシガツの部屋の窓を叩いた。
いつものように窓を開き、シガツが迎えてくれる。
ふわりと部屋の中に入り、ソキはシガツの傍へと行った。
「さっき、村の子いたよね?」
不安そうに呟くと、シガツがポンとソキの頭に手を乗せた。
「ああ。けど師匠やマインには内緒だぞ」
困ったように笑いながらシガツが言う。
「何しに、来てたの?」
師匠の前では風の精霊であるソキに一定の理解を示したとしても、本当はやっぱり嫌でシガツに文句を言いに来ていたのかもしれない。
そんな風にソキは不安に思っていた。
「仲よくしようって。けど、上から目線だったんでつい、逆らっちゃったんだ。……怒らせちゃったみたいだからもう口をきいてくれないかもしれないな」
自嘲気味に呟くシガツにソキは首を傾げた。
「ケンカしたの? ごめんねって言った?」
いつだったか人間のお母さんが友達とケンカしてしまった子供に言っていた台詞を思い出し、シガツに告げる。自分はまだ仲よくする事は無理でもシガツには村の子達と仲良くなってもらいたいとソキは思っていた。
「いや、その件に関しては謝るつもりはないよ」
「そうなの?」
てっきりシガツも村の子達と仲良くしたいだろうと思っていたのに謝らないなんて。ソキはびっくりした。
「けど、うん。仲直りはしたいから、何かしなくちゃな」
「???」
謝らないけど、仲直りはしたい。
シガツの言ってる意味が分からずソキは首を傾げた。そんなソキを見てシガツは笑顔で説明してくれる。
「ソキだって、もしマインが間違った事をしてたらそれを注意するだろう? けどマインはそれを間違ってるって思ってなくて、ケンカになったら? どう考えてもマインの方が間違ってるのに、ごめんなさいって謝る?」
シガツの例えはよく分からなかった。だけどふと、春の夜祭りの時の事を思い出す。
あの時もしも「絶対に行かない」って断ってたら、マインは怒ってしまっただろうか? けど怒ってるからってマインに「ごめんね」と謝るのはちょっと違う気がした。
でもだからって、いつまでもケンカはしてたくない。
「そしたらいっぱい話して、仲直りするよ。だってケンカしたままは嫌だもん」
「うん。そうだね。……オレも、機会があったらまたニールと話して仲良くなれるようがんばってみるよ」
にこりと笑うシガツを見て、ソキもほっと微笑んだ。
シガツには村のみんなと仲良くやってほしい。自分が、村の人達と仲良くするのが難しくなった分、余計にシガツには上手くやってほしいとソキは願わずにはいられなかった。
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